あたしが私になった始まりの路
自分が自分でなくなるほどの記憶を失うと、それはもはや自分以外の何か。
今一番やりたくて楽しみたいことをしたい、そんな何かに―――――
目を開けたら、そこには巨大な迷路の入り口があった。
あたしの背よりも全然高い壁と壁の間、その目の前にあたしは立っていた。
「ここ……どこだろ?」
というか、何でこんなところに居るのか? まずそれから分からない。
「……ま、いっか」
とりあえず、この中を進んでみるか。
細かいことは気にしない、それがあたしだから
「あ、また行き止まった」
しばらく進んだと思う。かれこれ何回も行き止まっては戻って進み続ける。
「ふぅ……疲れたな」
別に急がないし、休むか。
迷路の壁に背を預けて座り込んだ。
しっかし、ここはいったい何処なんだろう?
てか、どうやってこんなところに来たんだか。
確かあたしは、学校の帰り道……だよね?
友達と一緒に……一人だったかな?
なんだろ、記憶が曖昧だ。
えっと……とりあえず、あたしは歩いてたんだよ。うん、多分。
「……おっかしぃなぁ」
さっきまでは覚えてたと思うんだけど、なんだか進む度に何かを忘れていってる気がする。
「……」
でもなぁ……今さら戻り方も分かんないし、戻るくらいなら最初から入って無いし、そもそもどこに行って何をすればどうなるのかなんて分からないし、
「……進むっきゃないか」
しばらく休んでから、あたしは再び歩き出した。
十回目の行き止まり
あたしは友達の名前を忘れた
二十回目の行き止まり
あたしの行っていた学校の名前を忘れた
三十回目の行き止まり
あたしの両親の名前を忘れた
何回目かの行き止まり
何回目なのか、その数を忘れた
何回目かの行き止まり
あたしの年齢を忘れた
何回目かの行き止まり
あたしの生年月日を忘れた
何回目かの行き止まり
私は、あたしの名前を忘れてしまった
「……」
名前まで忘れたかー……
こりゃ進むんじゃなかったかな?
……え? どこを?
ここを?
どうして?
なんで?
誰が?
ダレが?
「…………………………あは♪」
なーんか、どうでも良くなってきた♪
うん♪
後一回、後一回行き止まったら、もう進むのやめよ♪
立ち止まって、その後はどうしよっかな♪
まぁいいや♪行き止まってからで♪
多分、行き着く先は……
「……ありゃ?」
外が見えた。あたしの背よりも全然高い壁と壁の間、長い一直線の先に、外が見えた。
「……な〜んだ。ゴールについちゃったのか」
長いようで短かった、そんな迷路だった。
後は一直線か……
なーんか、ツマンナイナ♪
いや、私はもういいけどさ。
誰かが、私では無い他の誰かが似たように路に迷ってるの見たいな〜と、思う。
誰かって? 誰でもいいよ。
でも、幸せになりかける人の迷う顔は……楽しそ♪
うわ、私ったらサド♪
とかやってる内に、ゴールした。
「あはは♪楽しかった〜」
迷路に入ったあたしは、私になって迷路を出た。
おめでとう
「?」
なんか声聞こえたかも。
誰かいるのかな?
キミは、いい具合に迷ったようだ
いい具合に迷ったぁ?
そりゃ何回も行き止まったけどさ、ゴールしたよ?
やっと、完成した
「完成?」
いったい何のことやら
キミの、名前は?
「……さぁ?」
あたしだった私の名前はとっくに忘れちゃったし。
あるのはちょっとした記憶と、あたしだったものの私の身体と、着ていた服だけ。名前は無い。
なら、新しくつければいい
「……へぇ♪」
いいこと言うじゃん♪この謎の声。
名前か〜〜どうしよっかな〜〜。
あ、そうだ♪
「メイコ」
メイコ?
「一本道迷子♪こんな感じでいいや♪」
一本道で迷わせる子♪
難しそ♪でもやっちゃうの♪
そしてその人の苦しむ顔とか見て……あは♪
わぁ、私ったら残酷♪
あ、てかこの後私はどうすればいいんだろ?
よし、聞くか。
「で? 私は何をすればいいわけ?」
やりたいことをやればいい、その為ならどんな物でも用意出来る
「……へぇ〜」
てことは、私が今言ったこともやり放題?
「………………あは♪」
決まったか? ならこちらへ来るんだ
「は〜い♪」
更に歩を進める。
あたしは私になった。
それでは皆さん♪
幸せに、迷いましょう♪
一本道迷子。ついに出ました少女の名前。
少女の始まりは迷路から、入って出て出来上がり、彼女もまた、迷い路の住人なので
した。
それでは、
感想及び評価、お待ちしています。