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すずらん  作者: 92コ


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すずらん

酷暑も終わり旅に行きましょうか?

 文子と章子は、ランチを終えてレストランの扉を開けた。

キンギョソウやチューリップ、パンジー、香りの強いストックやフリージアなどが一面咲き乱れている。

「あら、入る前からこんなに咲いていたかな。」

「お腹すいていて、気が付かなかったのね。」

「ランチ、ランチって入ったものね。」


「私達がランチしているうちに一面花、花、花。」

「なんか、おかしい。」

「だってまだ2月よ。」

「そうね。金木犀や銀木犀って秋に開花よね。どうやって咲かせているのかしらね。」

と言い終わらないうちに

「きゃー。すずらんさんですよね。」

「やっぱりここだわ!」

「お会いできて嬉しいです!」

「一緒に写メ撮らせて頂けますか?」と小柄な二人の女性に声をかけられた。

 「私達、ラッキーよね。生すずらんさんに出逢えて! 投稿しちゃおうね!」


 文子と章子は、何が起こったのか、分からないままで何となく写メにおさまった。二人の女性は、代わる代わる文子と章子の間に入り、スマホを向けてきた。

 その二人の甘い笑顔に合わせて文子と章子も優しい笑顔を作った。数枚撮って丁寧なお礼を言われると分からないまま、笑顔を返してしまった。

 「すずらんってなんだっけ?」

 「私達、モデル気分ね。」とひそひそ話していると次は、三人組が

「私達もお願いします。」と声をかけられた。

「サインもお願いします!」

そして、ふと顔を上げるとその後ろに10人程の女性達が列を作っている。次々と代わる代わる、女性達と写メを撮った。

 気づくと長い列は、いつまでも終わらない。そのうち、一人が、

「すずらんさん達のSNS見ました!おしゃれですね。」と言われた。


 文子と章子は、顔を見合わせはっとした。慌てて自分達もスマホを開け、閲覧数を見た。これをバズるって言うのかな?



10日ほど前のこと。


「久しぶりにどこか行かない?」と章子がそれとなく言った。

二人の都合がいつもずれてしまい土日の休みが一緒は、珍しい。

「そうね。どこ、何処がいい?」と元気な返事が文子から返ってきた。

 

 文子の声は、元気だけれど内心は、先月の失恋からまだ癒えていない。


 あんなに惚れたのに、絶対結婚出来ると思っていたのに。一緒に北海道旅行したけれど、あれは、なんだったのかしら?来年は、沖縄にいく約束していたけれど、やっぱり無理ね。

 始まりは、些細な事だった。十数人の集まりに一緒に参加した時、集合写真の撮影に私がいない事に彼は、気づかなかった。

「どうして呼んでくれなかったの?」

「君がぼんやりしてただけだよ。」

「私がいない事気づかないなんて。」

「僕のせいにしないで欲しいな。」

「いつも気づかってくれるあなたなのに。悲しいわ。」

その後、なんの弁解もなく、お互い連絡が途切れてしまった。


 そんな想いを断ち切るために文子は、楽しい事をしたかった。


 文子と章子は、インスタグラムを見ながら、会話を続けた。

章子の画面にお城の風景がうつしだされた

「これこれ!」と章子が、文子に見せると

「ヨーロッパは、遠いいわよ。パスポート切れてるし。無理よ。」

「見てみて、違うのよ。群馬よ。」

「日本なの?」

「どうやって行くのかしらね。」

「上野駅から、高崎駅へ行って、それから、沼田駅で、そこからバスみたい。」

「近い、近い。」


 まず、高崎のホテルを予約し、交通機関を考えた。

「湘南新宿ラインで行かれるね。」

「1時間50分。新幹線を使えば45分くらい。」

「速い方が高い。当たり前ね。そこから、上越線で沼田駅だね。」

「上越線、始めてだから、冒険ぽいね。」

「沼田駅から、バスあるって。」


 章子は、スマホから眼を上げて、文子をそっと見た。文子の眼は、スマホを見つめている。この間会った時と違う雰囲気になっていた。失恋の痛みは、薄らいで来たみたいに見える。


 ふと、文子が眼を上げて

「何?」と。

「ふみちゃん、だいぶ元気になったね。良かった。」と章子が、言うと

「心配かけちゃったね。ありがとう。」


 そして当日。


「きれいなドレス!」

「どれにする!」

「このクリーム色がいいかな。」

ハートフル城に来たのは、これが目当てだった。二人は、ドレスを何度もハンガーが付いたまま自分に合わせ鏡とにらめっこしていた。

 文子が手にしているのは、胸の上からドレープのきいたピンクの細かい花柄のドレスだった。

 章子は、対照的に黒地にゴールドの刺繍やスパンコールが散りばめられたタイトなドレスだった。

「あきちゃんのドレス後ろにV字にあいていて、寒そうね。コートあるのかしら?」

「この黒地にヒョウ柄なら、後ろ空いてないじゃない。」

「あら、いいね。これもキラキラいっぱいね。あら、しっぽついてるわ。」


 それぞれ着替えて目一杯のメイクをして姫気分でお城の庭に出てお互い撮影会。

「やっぱり、この姿もインスタグラムにアップしよう。」

「アカウント変えない? 文子も章子も昭和の名前っぽいから。」

「チップとデールにする?」

「どんぐり拾いのりす?」

「ダイヤとハート。」

「じゃあ、パンとチーズ。」

「ふみちゃん、お腹空いたね。」


 二人は、列車本数が少ないので食事らしい食事をしないでここまで来た。さらに食事を先にしてお腹出てドレスが着られなくなるかもしてないと乙女心を発揮して、試着を始めたのでした。


「スズちゃんとランちゃん!」

「鈴木さん?」 

「続けてすずらんになるから、いいコンビじゃないかしら?」

「いいね! お腹空いていても頭冴えてるね。」 


 二人は、サクサクとアカウントを作り、姫気分の写メや動画をアップしていった。 


「新幹線の前で写メ撮って良かったね。これもあげちゃう。

『今日は、新幹線をつかってスズちゃんとお出掛けしています。高崎から上越線に乗り換えて、沼田駅からバスで、ハートフル城です。

青空に恵まれて最高!』」


「来て良かったね。

お姫様気分になれました。」


「後ろに姿も!」

「メイクもバッチリ!」

「二人一緒も!」

「さっきのティーカップ持った姫モードも綺麗に撮れたね。」


 流石にスマホ片手に2時間近く操作していると疲れはて、顔を見合わせ、同時に

「ごはん!」とレストランに入って行きました。

 

「ガッツリステーキにしない?」

「だめよ。顔がくずれるよ。衣装汚しても困るし。」

「そうね。私達は、姫様でした。」


 ステーキで口の周りを汚す訳にもいかず、大人しくサンドイッチと紅茶とプリンアラモードで我慢する事にした。

「サンドイッチもう一皿いけそう。」

「帰りに上野駅で何か食べようね。」

「高崎駅でもいいけどな。」


 食べ終わり、帰りの列車の時刻表をチェックしてから、レストランを出た。


 花壇から、いい香りがしている。

 

「わぁー。すずらんさぁ〜ん。」と声が聞こえた。沢山の女性達に囲まれ、一緒に写メを撮った。



 すると同時に チャイムが聞こえてきた。


♪チャラン ラン チャラン・・・。


「間もなく高崎です。

北陸新幹線、長野、富山、金沢方面、お乗り換えです。お降りの方は、お忘れ物の無いようお支度下さい。」


 文子と章子は、顔を見合わせた。

「あれ? 何?」

「どういう事?バズったのは、夢だったの?」

「あら、同じ夢見たのかな?」た。

「ドレス着て歩いたよね。」

「まだ高崎なの?これからってこと?」


 二人慌てて荷物をまとめてホームに降りました。


 高崎駅は、乗降客も多く夢心地の二人には、目まぐるしく感じ、ベンチにすわり大きな深呼吸をしたのでした。

乗り換え時間の少ない上越線に間に合うのでしょうか?


お読み頂きありがとうございます。


知らない地に出掛けると新たな発見と巡り合え楽しいですね。

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