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婚約破棄は手短に!

掲載日:2026/05/07

「ベロニカ!お前との婚約を破棄する!」


 ゲリランド王子が、学園の広間でそう宣言をする。彼の横には、同じクラスのミルナー侯爵令嬢が、ニヤリと嘲るような笑みを浮かべて立っていた。

 彼らの目の前には、先ほど婚約破棄を宣言された私が、若干前屈みの体勢で立っている。


「俺は真実の愛というものを知ったのだ!――って、話を聞いているのか!前屈みに地面なんて凝視しやがって!俺の話を聞くより地面を見る方が大切か!?」


 ゲリランド王子は、私の体勢が気にくわなかったらしい。大きなどなり声をあげている。


 なんでもいいから早く終わってほしい。

 婚約破棄されたことがショックじゃないわけではない。王子を無視したいわけでもない。

 でも今はそんなことはどうでもいい。

 ――猛烈なお腹の痛みと比べれば些細な事なのだ。


「何が原因でこうなったか分かるか!」


 何が原因か?

 昨日の夜、あまりにも好みな味付けの揚げ物が出てきて食べすぎたこと?それともその後キンキンに冷えたジュースをがぶ飲みしたこと?それともさっき、生魚をひたすらに食べていたこと?


「こ、心当たりが多すぎて分かりません……」

「そうであろうな!……お前はいちいち物事に口を挟みすぎなのだ!何でもかんでも食らいつきやがって、そういう所がダメなのだ!」


 そうか。腹痛の原因は暴飲暴食、何でもかんでも食べ過ぎたのが原因だったのか!

 ……でも仕方が無いのだ。最近ご飯をよく食べるのは、家の料理人の腕が上がったからだし、お菓子をたくさん食べるのは、侍女が事あるごとに私を餌付けするからだ!これは仕方がない事なのだ!


「全てに寛容なこの私ゲリランドでも、お前の横暴さにはうんざりだ!」


 ゲリランド王子はそう言うと、私を思いきり睨み付けた。

 やばい。痛すぎてもはや怒りを感じてきた。今の私には王子の名前すら腹立たしい。なんだゲリランドって。トイレに行けない私の事をおちょくっているのか!?ご両親は何を思ってその名前をつけたんだ!あぁ今すぐ王に問いただしてやりたい!


「何か言いたいことがあるなら言ってみろ!」


 くっ!もう限界が近い。

 王子もこう言っていることだ。我慢のしすぎは体に毒。ここは恥を忍んで言うしかない。


「ゲ、ゲリランド王子。……ここが苦しいのです。すぐにこの場を離れてもよろしいでしょうか?」


 私はそう言って、生魚がパンパンに詰められたお腹をゆっくりと触る。すると、広間の群集がなぜだかざわざわと騒がしくなる。


「な!お、お前とそのような事をした覚えはないぞ!別の男とのに決まっているではないか!何を言っているんだ!……仮に俺とのだとしたら、絶対に生み出すんじゃないぞ!」

「……?出してはダメなのですか!?当たり前ですが、ここでは無く別の場所でやりますので!」

「そう言う問題では無いわ!責任をとるつもりがないと言っているのだ!」


 ゲリランド王子は顔を真っ赤にして怒鳴る。

 な、なぜそんな頑なに止めるのよ……あぁ、もうやばい。すぐそこまで来てる。奴が来てるわ!


「責任を取るつもりが無いですって!」


 今までゲリランド王子の横で大人しくしていたミルナー侯爵令嬢が、急に大きな声を上げる。

 ……今度は一体なんだ。これ以上長引かせないでくれ……


「正妻の座を約束してくれると言うから、私はあなたと体を重ねたのに!私に子供が出来たら、あの女と同様に捨てるつもりね!」

「ち、違うんだミルナー!」


 ミルナー令嬢の発言で、広間は一段とざわつき始める。「婚姻前に体を重ねるなんて!そんなのあり得ないわ!」「婚約者がいるにもかかわらずってことだろ。あの王子終わったな」と、どこかしこから声が聞こえてくる。

 ……音は聞こえてくるが、意味が頭を通過しない。私の頭はすでに腹痛にハイジャックされてしまっていた。

 もう限界だ。私はトイレに向けて走り出す。

 走れベロニカ!私は疾風のごとくトイレの個室に突入した。

 ――私は、なんとか人間の尊厳を維持することに成功したのだった。


******


 後から聞いた話だが、私が安堵の余韻に浸っている間、広間はゲリランド王子とミルナー令嬢との修羅場と化していたらしい。

 結局王子の不貞が明らかとなり、後日、国王からの正式な謝罪と王子との婚約破棄が成立した。王子、ミルナー令嬢共に罰として、現在実質的な軟禁状態となっているそうだ。


 私はというと……今回の件を通じて、食べ過ぎは控えようと深く心に誓うのであった。

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― 新着の感想 ―
えっと……「クラウチングスタート」の構えをしていたの? ドレスでよく間に合いました。中世ヨーロッパだったらそこ彼処の茂みでシテイタラシイからまだ余裕があったかも(笑) 食べ過ぎには注意しましょうね…
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