婚約破棄は手短に!
「ベロニカ!お前との婚約を破棄する!」
ゲリランド王子が、学園の広間でそう宣言をする。彼の横には、同じクラスのミルナー侯爵令嬢が、ニヤリと嘲るような笑みを浮かべて立っていた。
彼らの目の前には、先ほど婚約破棄を宣言された私が、若干前屈みの体勢で立っている。
「俺は真実の愛というものを知ったのだ!――って、話を聞いているのか!前屈みに地面なんて凝視しやがって!俺の話を聞くより地面を見る方が大切か!?」
ゲリランド王子は、私の体勢が気にくわなかったらしい。大きなどなり声をあげている。
なんでもいいから早く終わってほしい。
婚約破棄されたことがショックじゃないわけではない。王子を無視したいわけでもない。
でも今はそんなことはどうでもいい。
――猛烈なお腹の痛みと比べれば些細な事なのだ。
「何が原因でこうなったか分かるか!」
何が原因か?
昨日の夜、あまりにも好みな味付けの揚げ物が出てきて食べすぎたこと?それともその後キンキンに冷えたジュースをがぶ飲みしたこと?それともさっき、生魚をひたすらに食べていたこと?
「こ、心当たりが多すぎて分かりません……」
「そうであろうな!……お前はいちいち物事に口を挟みすぎなのだ!何でもかんでも食らいつきやがって、そういう所がダメなのだ!」
そうか。腹痛の原因は暴飲暴食、何でもかんでも食べ過ぎたのが原因だったのか!
……でも仕方が無いのだ。最近ご飯をよく食べるのは、家の料理人の腕が上がったからだし、お菓子をたくさん食べるのは、侍女が事あるごとに私を餌付けするからだ!これは仕方がない事なのだ!
「全てに寛容なこの私ゲリランドでも、お前の横暴さにはうんざりだ!」
ゲリランド王子はそう言うと、私を思いきり睨み付けた。
やばい。痛すぎてもはや怒りを感じてきた。今の私には王子の名前すら腹立たしい。なんだゲリランドって。トイレに行けない私の事をおちょくっているのか!?ご両親は何を思ってその名前をつけたんだ!あぁ今すぐ王に問いただしてやりたい!
「何か言いたいことがあるなら言ってみろ!」
くっ!もう限界が近い。
王子もこう言っていることだ。我慢のしすぎは体に毒。ここは恥を忍んで言うしかない。
「ゲ、ゲリランド王子。……ここが苦しいのです。すぐにこの場を離れてもよろしいでしょうか?」
私はそう言って、生魚がパンパンに詰められたお腹をゆっくりと触る。すると、広間の群集がなぜだかざわざわと騒がしくなる。
「な!お、お前とそのような事をした覚えはないぞ!別の男とのに決まっているではないか!何を言っているんだ!……仮に俺とのだとしたら、絶対に生み出すんじゃないぞ!」
「……?出してはダメなのですか!?当たり前ですが、ここでは無く別の場所でやりますので!」
「そう言う問題では無いわ!責任をとるつもりがないと言っているのだ!」
ゲリランド王子は顔を真っ赤にして怒鳴る。
な、なぜそんな頑なに止めるのよ……あぁ、もうやばい。すぐそこまで来てる。奴が来てるわ!
「責任を取るつもりが無いですって!」
今までゲリランド王子の横で大人しくしていたミルナー侯爵令嬢が、急に大きな声を上げる。
……今度は一体なんだ。これ以上長引かせないでくれ……
「正妻の座を約束してくれると言うから、私はあなたと体を重ねたのに!私に子供が出来たら、あの女と同様に捨てるつもりね!」
「ち、違うんだミルナー!」
ミルナー令嬢の発言で、広間は一段とざわつき始める。「婚姻前に体を重ねるなんて!そんなのあり得ないわ!」「婚約者がいるにもかかわらずってことだろ。あの王子終わったな」と、どこかしこから声が聞こえてくる。
……音は聞こえてくるが、意味が頭を通過しない。私の頭はすでに腹痛にハイジャックされてしまっていた。
もう限界だ。私はトイレに向けて走り出す。
走れベロニカ!私は疾風のごとくトイレの個室に突入した。
――私は、なんとか人間の尊厳を維持することに成功したのだった。
******
後から聞いた話だが、私が安堵の余韻に浸っている間、広間はゲリランド王子とミルナー令嬢との修羅場と化していたらしい。
結局王子の不貞が明らかとなり、後日、国王からの正式な謝罪と王子との婚約破棄が成立した。王子、ミルナー令嬢共に罰として、現在実質的な軟禁状態となっているそうだ。
私はというと……今回の件を通じて、食べ過ぎは控えようと深く心に誓うのであった。
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