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死ぬのは効率が悪い  作者: nokal
第2章

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第5話 この病院の中庭で出会った。

 香久耶(かぐや)兀斗(たかと)とは一ヶ月前、この病院の中庭で出会った。正確に彼の名前を知ったのは翌日だった。


 かぐやたかと――。名前を自己紹介された時は漢字も思いつかなかった。

 故に嘘をついているようにも感じたが、そんな浅はかな思いは、すぐに断ち切られた。小児科のある病室まで案内され部屋のネームプレートを見たからだ。


 『香久耶兀斗』


 確かに彼の名前はそう書かれていた。また随分(ずいぶん)と珍しい漢字で書くんだなぁと感想を募らせている間にも兀斗はスルスルと器用に車椅子を使って部屋の中へ入っていく。


 兀斗の部屋は四人部屋だった。よくある構図だ。手前に大きなトイレがありその奥に四方の隅にベッドが配置されている。兀斗のベッドは右端、窓側にあった。まあなんというか子供みのある部屋なのに彼のベッドの周りだけ別の空間のように何もなかった。木質のベッドサイドテーブル兼棚。スライド式のベッドテーブルにはティッシュペーパーの箱と一冊のノートのみ(ボールペンは付随しているタイプだ)他の患者さんも入院しているように見えたが今は姿が見えない。


「他の子達は?」

 と私が問う。


「知らん。遊びにでも行ってるんじゃない」


 兀斗は車椅子の方向を回転し私の方を向く。


「そんなことよりもさ、お姉さん」

「はい?」

「いや疑問系で返事しないでよ。私はなんでここへ来たんでしょうって顔もしないで」


 あ、バレてたか。

 兀斗は細い指先でぽりぽりと頬をかいた。


「俺の話信じてくれた?」


 私ははっと息を吸う。


 話とは、この病院に勤める私の幼馴染――笹木(ささき)瑠衣(るい)が言った『生きてる時間の密度が違う』から始まる。

 瑠衣に兀斗と出会ったことを話した結果、彼は私と兀斗の接触を避けさせたかったように感じた。それもそうだろう。兀斗は会った瞬間から違和感があったし、なんならその違和感の正体を自ら明かしてきた。対して親しくもない私に。


 ――俺は普通の人間より、少しだけ『速い』んだ――。


 ――普通の人の一生を、俺は数年で()()ける。この病院の小児科にいるのは、俺の見た目がまだ子供のままだから。でも、中身はもう……そうだな、お姉さんよりもずっと年上かもしれないよ――。


 ――俺が予言ができるのも、そのせい。感覚が鋭敏(えいびん)すぎるんだ。気圧の変化、廊下を歩く誰かの心拍数(しんぱくすう)、消毒液に混じる死臭(ししゅう)濃度(のうど)。それらが全部、データとして俺の頭に流れ込んでくる。だから、誰が次にいなくなるかなんて、計算すればすぐにわかる――。


 彼は三段階にわたって、そう説明した。

 そんな私の表情を読んだのか、兀斗は眉を(ひそ)めて少し首を傾げた。


「まさかこの数分でなんの話してたか忘れたわけじゃないよね?」

「いやいやまさかまさか! もちろん覚えてるよ。うん、覚えてる。そう君が、ちょっと不思議な体を持っていて、ちょっと不思議な界隈にいるってこと」


 そう答えると兀斗はまだ納得していない様子で私を見続けるが、やがてまあいいやといった様子で納得した。


「その話、信じてても信じてなくてもどっちでもいいんだけど、ここまでついてきてくれたってことは少しは俺に興味持ってくれたってことだよね?」

「興味…まあそうなのかな?」

「意思、弱ぁ。お姉さんって所々つまんないところあるよね」

「失礼な。これでもあんたより数年長く生きてますー」


 私は大人気なく答えてみせる。

 そして気がつく。そういえばさっきから車椅子に座ったまま彼は喋っている。

 ベッドが横にあるにも関わらずだ。私は彼とベッドを素早く見比べて、また兀斗をみる。兀斗は少し目を細めて、まるでやっと気がついた?とでも言いたげに耳を赤くした。そのまま黙って私の方に両腕を伸ばす。


 ははーん、なるほどなるほど。そういうことね。


「さてはこの美人なお姉さまに、ベッドまで運んで欲しいと。君はそういいたいんだね」

「うわ、自分で美人とか言うの引けるんだけど」

「ふーんそうですかそうですか。そんな態度とっていいんですか」


 私は勝ち誇ったように(あご)を突き出す。兀斗は耳を赤くしたまま(いや肌が白すぎるが故にそう見えるだけかもしれない)右に顔を向ける。


「い、いいからっ。早くしてよ」

「んー聞こえないかなー」

「俺を運んでくれって言ってんの!」


 もうなんだよ。可愛いところあるじゃんか。私よりも年上かもしれないと脅していたけれど、こいつはやっぱり年下だなと確信する。

 私は重たい体で彼の両脇を支える。私が彼の体に触れた瞬間――。


「お姉さんって冷たいね」

「え、何。この状況でディスってる? この状況で?」


 私は持ち上げていた兀斗の体を空中で止める。ぐっと彼の両脇に力が入る。いや、てか軽っ。


「違うよ。普通に体温低いねって言いたかっただけ」


 ああ、そっちね。

 と納得した私は兀斗をそのままベッドに乗せる。そこからは彼が自力で動いた。膝から下は動かないのかなと思っていたが、そうでもないらしい。微弱(びじゃく)な筋肉でその長い長い足を動かすとベッドの布団の中へといそいそとしまった。車椅子はそのままだ。

 私は近くにあったスツールを見つけて、とりあえず座る。兀斗は一息つく。


「じゃあお姉さん。自己紹介しようか。俺は…さっき言ったけど、兀斗(たかと)。十五歳。」


ご感想等お待ちしております☺︎

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