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死ぬのは効率が悪い  作者: nokal
第1章

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1/6

第1話 「死ぬの?」

新作です☺︎

1話が短いため1章ずつ読むのをお勧めします

 「死ぬの?」

 

 ――は?

 

「ああ、やめておいた方がいいよ。あれ、ただ苦しいだけだから」

 

 ――いや、何言って……。

 

「お姉さん、馬鹿(ばか)だねえ。そんなに死にたいなら、もっと楽なのがあるのに」

 

 澄んだ声が、夜気(やき)を切り裂くように響いた。

 薄曇りの空の下、消毒と新品のプラスチックが混ざった匂いの(ただよ)う中庭。その場の湿気っぽい空気とは噛み合わないほど、その声だけが妙に鮮明だった。

 視線を向けると、少年が車椅子に座っていた。子どものサイズの椅子だが、暗さの中でもわかるほど脚が不自然に長い。座った姿勢のまま、膝が直角に折れ曲がりすぎている。

 

 声と姿、それぞれがどこか噛み合わない。

 

 そんな少年が、真夜中の中庭で、迷いなくこちらを見ていた。

 「無視しよう」と頭が判断したのに、足だけが動かない。

 死の淵を覗き込んでいたはずの意識は、いつの間にかこの異様な少年に吸い寄せられていた。

 

「君は、誰?」

 

 掠れた声で問うと、少年はタイヤに置いた白い指先を、くすぐったそうに震わせた。

 

「誰だと思う?」

「そういうの、面倒くさいから」

「え、つまんな。お姉さんって、そういうタイプ?」

 

 どういうタイプでも、どうでもいい。

 本当に、なんなの、この子。

 

「まあいいや。それより――さっきの。首を吊ろうとしてたでしょ?」

 

 呼吸が止まる。

 

頸椎(けいつい)が折れるまでが痛いし、失敗したらさ。今よりずっと不自由な身体で、天井だけ見て生きることになるよ。僕みたいに」

 

 少年は淡々と、まるで知っている世界の話をするみたいな口調で言った。

 彼は小さく笑った。その声は、風に揺れる鈴の音みたいに澄んでいるのに、場の空気だけを確実に冷やしていく。

 

「……病院の患者さん、なの?」

「半分は当たりで、半分はハズレ」

 

 その返しに、思わず眉が寄った。

 ほんとうに面倒くさい。

 

 少年は車椅子のホイールを軽く押し、私の間合いへ滑り込んでくる。消毒液の匂いが濃くなる。その奥に、雨に濡れた土みたいな、あるいは古い紙が崩れていくときのような、妙に静かな匂いが混じっていた。

 

「お姉さん、本当は死ぬ気なんてなかったでしょ。誰かに止めてほしかっただけ。もしくは――誰かに壊してほしかっただけ」

 

 その瞳が、心臓の奥を掴んでくるように冷たい。逃げようとしても視線が離れない。

 

「僕が手伝ってあげよっか。そのかわり――お姉さんの()()を、少し僕にちょうだい」

 

 細長い指が、蜘蛛(くも)の脚みたいにしなやかに伸びてくる。頬に触れかけた瞬間、雲の切れ間から鋭い月光(げっこう)が差し込んだ。

 光に照らされたその顔は、血の気がまるでない。

 

 ――けれど、唇だけは熟れすぎた果実みたいに赤く、濡れていた。

ご感想等お待ちしております☺︎

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