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第7話 隙間を埋めるものは

心地よい静寂に響くのは、小さな寝息。

白いモコモコの神獣を抱き枕に、時々鼻をすぴすぴと鳴らして眠るディセルネ。


窓から差し込むオレンジ色の陽がディセルネの頬にかかると、軽く身動きをした彼女が目を覚ました。


「……はて、ここは……」

『俺の腕の中だよ』

『んっ⁉︎其方が、妾の腕の中じゃろ』

『わかってるなら、離してくれよ。暑い……』

『おぉ、すまぬ、すまぬ。じゃが、よい抱き枕であったぞよ』


ディセルネの腕から解放されたヤーナは、さっと立ち上がると、前足を伸ばすように背伸びをする。

『あぁ、体がガチガチだよ……』

 

目をこすって「ふぅわぁ」とあくびをしたディセルネ。両腕をグッと伸ばしてから、ゆっくり体を起こした。

 

『ヤーナ、シェリールはもう、どこかに行ったのかのぅ』

少し元気のないディセルネの念話。


『匂いは近いぞ。探してこようか?』

『いいや……。よい、よい。ちと気になっただけじゃからのぅ』


 軽く息を吐き出したディセルネは、少しだけ開いている掃き出し窓に向かった。

 オレンジ色に染まる水面は暖かそうで、どこか夜の寂しさを思わせる。


「なんじゃろか……」

『どうしたんだ?』

隣に並んだヤーナが、ディセルネの足元に擦り寄ってきた。

屈んで白い毛並みを撫でながら、空いた手で自分の胸のあたりを指差したディセルネ。

『ここがのぅ、空いような感じなんじゃよ……。

上手く言えんのじゃが……、

寒いような、隙間ができたような……、

なんじゃろかのぅ?』


「ガチャ」

すると、後ろの方で扉が開く音がした――――

 

「ディーちゃん、起きたんだね。もう夕方だから、今日はここに泊まろうと思うんだ。さっき、湖で魚を捕ってきたから、焼いて食べようね」

手に持った魚数匹を掲げて、優しく笑ったシェリール。


しばらくの間じっと彼の顔をみていたディセルネから、ぽつりと溢れた言葉。

「……シェリール」

そう言った彼女の口角は、ほんの少しだけ“への字”を模っていた。


「どうしたの?ディーちゃん?」

ディセルネの顔を覗き込むように、シェリールが近づいてくる。

 

「……いや、何もないぞよ。

それより、もうそんな時間なのかぇ?

もしや、妾が寝ておったから……シェリールは、どこにも行けなかったのじゃろ……?其方には迷惑をかけてしもうたのぅ」


「気にしなくていいんだよ。子どもは寝て大きくなるんだから」

 

「シェリールよ、何度も言うようじゃが……、妾は子どもでないぞよ」

 

口を尖らせたディセルネの頭を、軽く撫でながら笑うシェリール。

「ごめん、ごめん。ディーちゃんは可愛いレディだよね」


「……其方のこの手は、妾をレディとは思うとらんようじゃがなぁ」

頭に置かれたシェリールの手を、ディセルネはもみじのような手で、ペチペチっと叩いた。


そんな二人の間に、転がるように割り込む白い毛玉。

『腹減ったぞ!』


「ヤーナくんも仲間に入りたいんだね。おいで」

シェリールはおもむろにヤーナを仰向けにすると、前足の付け根やお腹あたりを撫でまわし始めた。


『おい!やめろ!くすぐったい。おぉい、やめてくれ……』

ヤーナの訴えは「クゥオーン、キューン」と、なんとも可愛らしい鳴き声になるばかり。


『ディセルネ、た……助けてくれ……』

 

「シェリール、ヤーナが嫌がっとる。くすぐったいそうじゃ。それにヤーナは腹が空いたらしいぞよ」


「あぁ、ごめんねヤーナくん。てっきり遊んで欲しいのかと思ったよ。ディーちゃんもお腹すいたよね?」


視線を上げて少しだけ考え始めた、ディセルネ。

それからすぐに胸に手を当てて、首を傾げた。

――おや?

もうここは、寒いような感じはせぬなぁ。

むしろポカポカするぞよ。


「シェリール、妾もお腹が空いたぞよ」




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