表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/32

第32話 この町の姿

丸くふっくらとした膝小僧に手をついて、肩を大きく上下させながら息つくディセルネ。

額には汗で金色の髪の毛が、ペッタリと張り付いている。

ふぅーっと深く息をついて体を起こすと、小さな拳で滴り落ちる汗を拭った。


「町まであと少しじゃ。急がねば。

もう、日が沈み始めるぞよ」


オレンジ色の太陽が、町の方角へディセルネの影を長く引き延ばす。


視界に映り込んだ町の家々を見据えると、再び小さな手足を一生懸命に動かして走り出した。


――待っておれ、レオン。もう少しの辛抱じゃ。


*****


「……、やけに静かじゃな」

騒然とした状況が嘘のように静まり返った町を眺め、困惑に眉を寄せたディセルネ。

 

「皆、どこへ行ったのじゃ……」


「おい、嬢ちゃん。親はどうした?ここは危ないぞ」

荷袋を担いだ白髪の男性が、ディセルネの肩を叩いた。


「⁉︎……おぉ、よいところに――」

いきなりトンっと載せられた大きな手に、ヒュッと息を呑む。

すぐさま、皆の行方を知りたくて言葉を続けようと口を開くが――


「ほら、おじちゃんが母ちゃんの所連れて行ってやる。急がないと魔獣に食われちまうぞ」

さっとディセルネの手を掴むと、急ぎ足で前へと進み始めた。


「……ど、どこへ向かうのじゃ」

「どこって、丘の上の集会所さ。あそこは壁も高くて、何かあった時の避難所だからな。きっと嬢ちゃんの家族もそこにいるだろうよ」


「そっ、そこに皆居るのかぇ」

「あぁ、そうさ。嬢ちゃん、小せえのに妙な喋り方するなぁ。

ここいらの子どもじゃねえのかい?」

白髪の頭をガシガシと掻いて、男性がディセルネに向き直った。


「妾は、ディセルネ。今マルタおばちゃんの家で、世話になっとるぞよ」


「そうかい、マルタさん家で預かってる子かぁ。

俺はヨルクってんだ。町の役場に勤めてる。

今ちょうど逃げ遅れているヤツがいないか、見に戻ってきたところだったんだ」


「そうなのかぇ?」

「それにしても、何で嬢ちゃんだけ逃げ遅れだ?マルタさんのことだから、絶対手を引いて逃げるだろうに……。

あぁ、そうか!嬢ちゃん、人が多くて逸れたんだな?

迷子かぁ……。

まぁ、心配すんな!おじちゃんがマルタさんのとこまで連れてってやるからな」


ニィっと白い歯を見せて笑いかけたヨルクに、「……妾は別に迷子じゃないんだが……」とぼやくディセルネ。


深く吸った空気をさっと吐き出して、ヨルクの手をグイッと引っ張った。

「ヨルクおじちゃん、妾は迷子ではないぞよ。助けを呼びに来たんじゃ」


ディセルネから、真っ直ぐに見つめられた彼の眉間に皺が入る。

「助けって……、何があったんだい?」


「レオンが森で動けなくなってしもうたんじゃ。今マルタおばちゃんが、レオンと一緒に森に居るんじゃ」


「レオンって、マルタさん家の息子の?

動けないって、どういう事だ?」

険しい顔のヨルクに、ディセルネは森の様子を話した。

顎に手を当てたヨルクの眉間は、さらに深い皺が刻まれる。


「木を取り除くってなると、俺だけじゃ無理だな。

しかし、この町に手を貸してくれるヤツがいるだろうか……。

しかも、森の中だろ……」

ブツブツと独り言を続けるヨルク。


「ヨルクおじちゃん、急がねば暗くなってしまう。レオンとマルタおばちゃんが心配じゃ」


捲し立てるように言葉を繋げるディセルネに、苦いものを噛み潰した顔で「……そうだな」と返した彼。


「集会所へ急ごうぞよ」

繋いだ手を必死に引き寄せるディセルネに、ヨルクは真剣な目で先の丘を見つめた。


「よし!行こう」


*****


「おい、そこ退け!俺が座るんだ」

「何言ってるんだい、うちの母ちゃんが先に座ってただろう。母ちゃんは足が悪いんだ」

集会所にある椅子を前に、1人の男が大声を放つ。


少し離れたテーブル付近で、幼い女の子が泣き始めた。

「うわあぁーん!」

近くに居た老婆が、あからさまにため息を吐いて言う。

「うるさいよ。こんなに人が居るんだから、静かにさせてくれないかね。私ゃ、頭が痛いんだよ」


ぐるりと周囲を高い塀で囲まれた、丘の上にある町の集会所――

塀の内側は木々が点在しており、幾人もの町の人々がもたれ掛かるように座り込んでいた。

中央には柱と屋根だけの簡素な建物があり、そこにはテーブルと椅子が設置されていて、その場所を巡って喧嘩が始まっている。

 


聞こえるのは、怒号と幼子たちの啼泣。


「これは……」

目を見開き辺りを見回すディセルネの頭上から、「はぁー」っと漏れ出た深いため息。

ふと見上げた小さな女神の視線に気がついたヨルクは、再び息を吐いて肩をすくめた。

「あぁ……、何でだろうなぁ」


「ヨルクおじちゃん?」

「あぁ、心配すんな。いつものことさ。ここの連中は、いつも自分のことしか考えん」


「誰も心を傾けないのかぇ?」

「おや?嬢ちゃん、いい言葉知ってんな」

「シェリールが妾に教えてくれた言葉じゃ」

「シェリール⁉︎親御さんかい?」


「親ではないが、妾の保護者じゃ。いつも妾に色んな事を教えてくれる、大切な保護者じゃ」

すっと森の奥に視線を向けたディセルネは、ヨルクに向き直って力強く言い切った。


「そうかい、いいヤツに育てられてるんだな。


嬢ちゃんみたいな子どもに会っちまったら、“この町も変われるかも知れん”って、ちょっと期待しちまうなぁ。

 

俺たち大人が変われば、この町も……。

さぁ、レオンとマルタさんを助けに行くのに人手を集めような」


ディセルネの頭をポンポンと軽く撫でたヨルクは、ひとり前に進み出す。

抱えていた荷袋をドサっと地面に下ろすと、低く野太い声を張り上げた。


「おい!みんな聞いてくれ!」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ