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第6話 世界の異物


さて、美味しいお茶とお菓子でお腹が満たされた所で、早速この世界についての講義が始まる。




「ご存知だと思いますが、まずこの世界においては“神様”が最上位です。この方々の言葉は何よりも優先されるべきもの。


……しかし、神はご多忙であらせられる。たとえ何柱いらっしゃろうと、世界の均衡を保ち、環境を維持し、人々を見守る事で手一杯。また、いちいち姿を現していては人々も萎縮してしまいます。神様に代わって国を統治するのが、皇帝や国王と呼ばれる存在、神の言葉を人々に届けるのが神官と呼ばれる存在です」




あくまで最上位は神であり、国の頂きに立つ人間であろうと神の代わりに過ぎない。また、神託を告げる神官は時に王よりも権力を持つ。大袈裟に言えば、王ですら神官の下に位置する。





「世界の全ては神の手中にあり、あのお方は時には神託を通じて、時には自ら悪人に裁きを、善人に祝福を与えます。『神は全てを見ている』それがこの世界の常識です。






______しかし、神の力が及ぶのは、この世界に生まれ落ちた者のみ」




マーサの目が愛梨を見据える。




「アイリ様は異世界からやって来たと聞きます。______“この世界”の人間ではない貴女は、神の力が及ばぬ存在。祝福を授かる事も、裁きが下る事もありません。




故に、貴女は“神殺し”となり得るのです。神の支配が及ばない存在……それが“神殺し”」






マーサ言った。本来であれば神に危害を加えようとした瞬間_____例えば、教会にあるご神体を破壊するなどをすると_______裁きが下る。愛梨を召喚したあの男も、それが恐ろしくて自らの手で神を害する事が出来なかった。だから異世界人を召喚し、代わりに神を殺して貰おうと考えた。要は死を覚悟の上で神に対抗する事が出来なかったから、別の人間にその役目を押し付けようとしたのだ。





「『異世界から来た者は神を害せる』……あくまで可能であるというだけの話です。しかし、いつからか『神を殺す事の出来る特別な力を持つ』という噂が広まってしまいました。本当は特別な力など何一つ持たないのに……。


貴女を召喚した者も、その噂を鵜呑みにしたのかもしれません」





『神を害せる』というだけだったのが、いつの間にか『神を殺す能力(チカラ)を持つ』という話にすげ変わってしまった。愛梨が恐れられる理由は、ありもしないその能力(チカラ)のせいだ。




加えて、愛梨の見た目。黒髪黒目という現代社会ではごく一般的な見た目も、“黒”を忌むべき色と捉えているこの世界では不吉の象徴となる。“異世界から来た黒い少女”_____まさしく“神殺し”と呼ぶに相応しい、と愛梨は一層不気味がられた。






「異世界から来たという事を抜きにしても、貴女はその見た目だけで恐れられ、気味悪く思われ、遠ざけられる」

「ッ!………」





愛梨はくしゃりと顔を歪ませる。聞けば聞く程この世界に自分の居場所は無いのだと思い知らされる。“異物”であるから当たり前かもしれないが、ただでさえ見知らぬ世界で心細い中、自分の拠り所すら無いなんて辛過ぎる。




泣きそうになっている愛梨を見て、マーサの手が僅かに持ち上げられる。愛梨を抱き締める様に動いた腕は、しかし彼女を抱き締める事なく下げられた。代わりにハンカチを取り出し、愛梨に手渡す。





「_____今日の講義はここまでに致しましょう。貴女も心の整理が必要でしょう。暫くここには誰も立ち寄らぬよう言って聞かせます」




そう言ってマーサは手早くワゴンを持って部屋から出る。








「____アイリ様」





扉を開けて部屋から出る直前、マーサは振り向かずに言った。





「貴女はこの世界で1人かもしれません。頼れる人も信じられる人も今は居ないでしょう。





_____ですが、どうか皇帝陛下の事は信じて頂けませんか。あのお方自身、貴女とは正反対の意味でですが……その見た目で周囲の視線を集め、勝手に“こうである”と想像され、そうである事を求められたお人です。少なくとも、見た目や出自で人を判断する事は御座いません。





ですから、どうか何かあれば陛下にご相談を。きっとお力になって下さいます」





「………それでは失礼します」と最後に告げて、マーサは部屋から立ち去った。



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