第4話 人らしい生活
ファンタジーの世界に意識を向け、向けられる視線が少しだけ気にならなくなった。子供のように辺りを見回しながら歩く愛梨を、セラフィスは馬鹿にする様子もなく、ただ黙って側を歩いた。
やがて愛梨は大きな城に辿り着く。皇帝の城。これから愛梨が住む場所だ。テーマパークでしか見た事が無いような西洋の城に愛梨は目を丸くする。これからここに住む事になるという事実が信じられない。
「行くぞ」
セラフィスに促され、恐る恐る足を進める。沢山の使用人が彼を出迎える中、愛梨を見てヒソヒソと話す声が聞こえる。それはどれも好意的とは言えないもので、愛梨は俯きながら、前を歩くセラフィスの足元だけを見て彼に付いていく。
「___着いたぞ」
セラフィスの声に顔を上げる。入口から大分歩いた気がする。城の奥にある扉の前で立ち止まり、愛梨に戸を開ける様に促した。愛梨はゆっくりと扉を開ける。
「___わぁ……!」
愛梨は思わず声を漏らす。部屋の中にはベット、ソファー、テーブル、クローゼットなど最低限の家具しかないが、そのどれもが一目で高級品だと分かるほど品の良い品物だ。
白と黄色を基調とした可愛らしい装飾。ベットには天蓋も付いていて、一般的にイメージされる“お嬢様の部屋”といった感じだ。あまり物がない所もお嬢様らしさを演出している気さえする。
「ここがお前の部屋だ」
「え……!ここ、使っていいの?」
「お前の部屋と言っただろう?好きに使うと良い」
まさかこんないい部屋が用意されてるなんて……!てっきり牢屋とまではいかなくても、物置部屋みたいな所に放り込まれるのも覚悟していた。それが物置部屋どころかちゃんとした、しかも元の世界よりも圧倒的にランクの高い部屋。愛梨のテンションは人知れず上昇した。
「最低限の物は用意した。他に必要な物があれば伝えてくれ。
では、私はこれで失礼する。お前は好きに過ごすと良い」
そう言って部屋から出ようとするセラフィスを愛梨は呼び止める。ピタリ、彼が足を止める。
「その…………ありがとう」
セラフィスの背に向かって小さな声でお礼を言う。こんなちゃんとした部屋を用意して貰って嬉しかった。私をちゃんと“人間”として扱ってくれて。
愛梨の言葉に応えることなく、セラフィスはそのまま部屋を出ていった。
・・・・・
セラフィスが去った後、愛梨は一通り部屋を見て回った。彼が言っていた通り必要最低限の物は揃っている。水道やトイレまで完備されていた事には少し驚いた。確かに必要な物だが、そもそも中世風の世界観からして、元の世界の様な水道や洋式トイレ自体存在するとは思っていなかった。……牢屋にもトイレはあったが昔ながらの和式だったし。
流石にお風呂は無いものの、十分この部屋だけで生活出来そうだ。小さな台所もあるからやろうと思えば料理も出来る。自分で好きな物を作れるのは嬉しい。まぁ、愛梨の料理経験は調理実習と母の手伝い位であまり多くは無いが。
以前は食事も配給、それも固いパンと薄味のスープ、干し肉がほんの少し、という献立がずっと続いていたので、違うものが食べられるというだけ有難い。
とはいえ、まだ食材が何も無いので作るにしてもどうにか食材を手に入れなければならないのだが。そこは追々考えるとしよう。
それよりも、愛梨の目を引いてやまないのは天蓋付きのベット。見るからにふかふかとしてそうなソレは先程から愛梨を誘惑してならない。
___移動で疲れてるし、ちょっと休んでもいいよね。
誰に言うでもない言い訳を心の中で零し、愛梨はそっとベットに近付く。
手を置いてみる。そのまま暫く噛み締める様にベットの柔らかさを堪能する。
___よし。
愛梨は気合いを入れ、ベットにダイブする。ふかふかとしたマットレスは柔らかく彼女を受け止めた。
気持ちいい……。ベット最高…………。
牢屋に居た頃は固い床に薄い布団を敷いて眠っていた。それとは正反対の心地良さ。久しぶりのベットに身も心も包まれる。
直ぐに眠気に襲われ、愛梨はウトウトし始める。特にやる事もないしこのまま寝ても良いよね、と襲ってくる睡魔に身を任せて目を閉じる。
___ちゃんとした自分の部屋と柔らかいベット。何だか久しぶりに人の生活している気がする……。
今だけは久しぶりに熟睡出来そうだ。愛梨は緊張の糸が解けた様に、安らかな顔で眠りに落ちた。




