その男、戦場限定で語尾が♡になる
女性優位の世界で、戦闘行為は女性の役割とされていた。男性は守られる存在。前線に出ることなどありえない──はずだった。
だが、クロウは違った。
国家直属の特殊部隊「クリムゾン・エーデルワイス」において、唯一の男性戦闘員。
普段のクロウは無愛想で口数も少ない。
黒髪に鋭い眼光。規律に厳しく、感情を表に出さない。
「男が戦えるわけないだろって思ってたけど…あの人だけは別格だよな…」
「でも何考えてるか全然わかんないし、話しかけるの怖いって…」
そう、彼の“本性”を知らないうちは──。
出撃前の静かなブリーフィングルーム。
隊長「レギオンが都市部に接近している。全員、武装を確認──」
「よっしゃ、出番ってわけだな♡」
低く、渋い声が跳ねた。
「ぶちのめす準備はできてるぜ♡」
「……誰!?」
振り返った瞬間、そこには普段と全く違う顔のクロウがいた。
口元にはニヤリとした笑み。目はぎらつき、体中から“昂ぶり”が滲んでいる。
「オレの刃が血を欲しがってる♡早く暴れさせてくれよ♡なぁ?」
「え、えええええええええええええええ!!?」
彼の手に握られた重斬刀が唸りをあげる。
「行くぜ♡おまえらはついてこい♡置いてかれても知らねぇからな♡」
先陣を切って飛び出していくクロウの背に、隊員たちは言葉を失った。
戦場。
レギオンの咆哮が木霊する中、クロウは狂ったように笑っていた。
「ははっ♡テメェら、オレに殺されに来たんだろ♡!?」
「最高だ♡…このスリル、この重さ、この音♡全部たまんねぇ♡!」
一閃ごとに敵が吹き飛ぶ。血が飛び、地面が焦げつく。
それでも彼の笑みは絶えない。
「止めてほしいなら言えよ♡…もっと気持ちよくしてやっから♡」
もはや敵の叫びも、味方の動揺も耳に入らない。
見ていた女性隊員たちは、戦慄していた。
──いや、違う。震えていたのは、心だ。
「なんなの、あれ…普段あんなに無口なのに…」
「ギャップ…やば…」
「語尾♡なのに男らしいってどういうこと…?脳バグる…」
戦闘が終わり、クロウが振り返る。
もう語尾に♡はついていなかった。
「任務完了。…次は、いつだ?」
その目はもう、あの戦場の熱を宿していない。
だが、見てしまった女たちは、もう忘れられない。
男のくせに戦場で笑って、刃を振るいながら♡をつけて喋る奴がいた──
「また出撃してくれないかな…もう一回見たい…」
「ていうか、ちょっと好きになりそう…」
ギャップは凶器。
そしてそれを振るう男は、最強にして、最高に脳に焼き付く存在だった。