こっちは、好きになったほうが負けなんだってば!
主人公がユウの4作目。イリナ視点。
──最初はただの転校生だと思ってた。
ユウは、笑ってばかりの明るい奴だった。男女関係なく誰にでもフレンドリーで、先生に怒られても気にしない、どこか飄々としてる男。
この世界じゃ珍しく、男のくせに全然慎みってやつがなかった。
腕まくりすれば二の腕は平気で見せるし、体育の後は上着も着ずに汗だくのまま教室に戻ってくる。
着替えも平気で男子更衣室を開けっぱなし。時々、廊下にいた私と目が合って、にっこり笑って手まで振ってくる。
──バカ、そんなの見せるもんじゃないでしょ。
……でも、見たくないわけじゃなかった。
あの笑顔にどきっとして、心臓がバクついて、うまく顔が上げられなくて。
自分でも、何に反応してるのか分からなかった。
けど、ある日突然――。
「俺のこと、見てくれてんだろ? 見せるならお前にだけ、って思ってる」
そんな爆弾みたいな言葉を笑顔で投げられた。
冗談に見えて、本気みたいな顔で。
言葉の裏を読もうとしても、全部素直すぎて混乱する。
それからのユウは明らかに変わった。
私の前でだけ、距離が近い。
手を取って、自分の身体を触らせてきた。
胸筋。腹筋。腰骨のライン。
シャツ越しじゃ分からない温度と硬さが、じかに伝わってきて――私の頭が変になりそうだった。
「……見せたいのは、お前だけ」
「……触ってほしいのも、お前だけ」
どの台詞も、他人事じゃ済まされない。
けど、それを肯定したら、私はもう普通には戻れない。
でも、気づいてた。
この世界で、あんなふうに心も身体も晒せる男はユウだけだ。
誰よりも強くて、自由で、真っ直ぐで……ずるいくらい綺麗だった。
──こっちは、好きになったほうが負けなんだってば。
それでも、あの時は隣に座ることを選んだ。
手を振り払うでもなく、逃げるでもなく。
「次はどこ触ってみたい?」なんてとぼけた冗談に赤くなりながら、彼の隣で深呼吸してた。
たぶん、私はもうとっくに負けてたんだ。