触っていいって言ってんの、俺だけだろ?
主人公がユウの3作目
教室の夕陽が、淡くオレンジに染まっていた。
イリナは机に頬杖をつきながら、窓の外をぼーっと眺めていた。
──昨日のユウの「色仕掛け宣言」が、頭から離れない。
「なあ、イリナ」
不意に背後から声がかかる。
「ちょっと、また出たな色男……」
言いかけた言葉が、途中で止まる。
ユウの制服は相変わらずラフに着崩されてて、今日はシャツの裾が片方だけズボンから出てる。
ちらっと覗く腹筋に、イリナは思わず目を逸らした。
「……なあ、手出して」
「えっ?」
ユウは真面目な顔で、イリナの手を軽く取る。
そのまま、自分の胸元へと導いた。
「さっき、お前ずっと見てたよな。触りたそうだったから、どうぞ」
「いや、そんなつもりじゃ──ッ」
戸惑うイリナの手のひらが、しっかりとユウの胸筋を捉える。
硬い。熱い。鼓動がゆっくり伝わってくる。
「……結構鍛えてるだろ? んで、こっちは腹筋な」
スッと手を導かれ、シャツの下へとすべり込む。
皮膚に直接触れた瞬間、イリナの顔が一気に真っ赤になった。
「ちょ、やば、これほんとに……!」
「な? 男の身体だって、ちゃんと見られる価値あるんだよ」
ふざけてるように笑うユウの目は、どこまでもまっすぐだった。
「……見せたいのは、お前だけだっつってんの。
触ってほしいのも、お前だけ。
……そんくらい、分かれよ、イリナ」
イリナは震える声でぽつりと返す。
「……ずるい、ほんと……」
──この男、絶対自分の殺し方を知ってる。
ただの色仕掛けじゃない。
心を、真正面からぶっ壊しにきてる。
イリナはそっと手を引いた。
けど、それ以上何も言わなかった。
そのまま黙って、ユウのとなりに腰掛ける。
「……次はどこ触ってみたい?」
「ばっっかじゃないの……!」
夕陽が落ちきるまで、誰も教室に来なかった。