表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/45

エピローグ 15歳の私へ

 この子は長く生きることは出来ませぬ。

 十五を迎える前に夜に誘われ、神の世界ルキギナロクへ召されることでしょう。


 生まれた時から死ぬことを定められた子供だった。

 どうせ、あの子は死ぬのだから。何をしても結局影でそう囁かれ続ける。

 叔父は僕に学ぶことを教えてくれたけれど、未来の作り方だけは教えてくれなかった。それを、あの小さな魔法使いはいともたやすく塗り替えてみせたのだ。


『リアの苦しいのが、どこかへ行きますように!』


 輝きと共に、僕から〈愛し子の印〉を奪っていったディナ。

 彼女の姿を見失ったまま、僕は十五歳の誕生日を迎えた。

 眠れない夜をベッドの中で過ごし、結局堪え切れなくなって屋敷を抜け出した。生きながらにして死んでいるような僕のことなんて、誰も気にも留めない。

 だから、ただまっすぐに走り出す。


「……っ」


 東の空が白み始めた。

 十五歳と同時に朝日を迎えることは出来ないと言われた身体は、まだ動いていた。

 ぜえぜえと荒い息を吐き、血流を送り出す為に全身は脈打ち、手足からは汗が噴き出している。


「生きてる!」


 気が付いた時には、僕は大声で叫んでいた。


「ざまあみろッッ!!」


 ごろごろと地面を転がった。土まみれになったけれど、そんなものどうだっていい。全身で息を吸い、そして吐く。それだけのことなのに、ことさらに空気が美味しく思えるのが不思議だ。

 僕は生きてここにいる。それだけで十分だ。

 そう思えたのも僅かなことだった。


「…………これから、どうしよう」


 不意に、怖くなった。

 死ぬと定められていたから、その先は何もなかった。何もないのに、どうやってこれから一歩を踏み出したらいいのだろう?


 白み続ける空を見上げたまま、僕は茫然としていた。

 死にたくはなかったけれど、その先がない。

 ただ分かったことは、死の運命を迎える筈だった僕が、無事十五歳を迎えることが出来たということだけ。

 なら、十五歳の自分は、これからどこへ行けばいいのだろう?


『だってわたし、魔法使いだもの』


 そんな僕の脳裏に浮かんだのは、小さな魔法使いの姿だった。


「……そうだ」


 ディナは僕を救ってくれた。救ってくれた彼女に礼の一つも告げないまま、このままでいいのだろうか?

 何もない道に光明を見つけたような気がした。ディナの姿は、僕の行く道を明るく照らし出す。


「僕、魔法使いになりたい」


 ――十五歳の僕が魔法使いとなり、やがて唯一に辿り着くのは、もう少し未来の出来事だ。

完結までお付き合いくださり、ありがとうございました。

もし宜しければ、ご感想・レビュー・評価など頂けますと次回作への励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ