エピローグ 15歳の私へ
この子は長く生きることは出来ませぬ。
十五を迎える前に夜に誘われ、神の世界ルキギナロクへ召されることでしょう。
生まれた時から死ぬことを定められた子供だった。
どうせ、あの子は死ぬのだから。何をしても結局影でそう囁かれ続ける。
叔父は僕に学ぶことを教えてくれたけれど、未来の作り方だけは教えてくれなかった。それを、あの小さな魔法使いはいともたやすく塗り替えてみせたのだ。
『リアの苦しいのが、どこかへ行きますように!』
輝きと共に、僕から〈愛し子の印〉を奪っていったディナ。
彼女の姿を見失ったまま、僕は十五歳の誕生日を迎えた。
眠れない夜をベッドの中で過ごし、結局堪え切れなくなって屋敷を抜け出した。生きながらにして死んでいるような僕のことなんて、誰も気にも留めない。
だから、ただまっすぐに走り出す。
「……っ」
東の空が白み始めた。
十五歳と同時に朝日を迎えることは出来ないと言われた身体は、まだ動いていた。
ぜえぜえと荒い息を吐き、血流を送り出す為に全身は脈打ち、手足からは汗が噴き出している。
「生きてる!」
気が付いた時には、僕は大声で叫んでいた。
「ざまあみろッッ!!」
ごろごろと地面を転がった。土まみれになったけれど、そんなものどうだっていい。全身で息を吸い、そして吐く。それだけのことなのに、ことさらに空気が美味しく思えるのが不思議だ。
僕は生きてここにいる。それだけで十分だ。
そう思えたのも僅かなことだった。
「…………これから、どうしよう」
不意に、怖くなった。
死ぬと定められていたから、その先は何もなかった。何もないのに、どうやってこれから一歩を踏み出したらいいのだろう?
白み続ける空を見上げたまま、僕は茫然としていた。
死にたくはなかったけれど、その先がない。
ただ分かったことは、死の運命を迎える筈だった僕が、無事十五歳を迎えることが出来たということだけ。
なら、十五歳の自分は、これからどこへ行けばいいのだろう?
『だってわたし、魔法使いだもの』
そんな僕の脳裏に浮かんだのは、小さな魔法使いの姿だった。
「……そうだ」
ディナは僕を救ってくれた。救ってくれた彼女に礼の一つも告げないまま、このままでいいのだろうか?
何もない道に光明を見つけたような気がした。ディナの姿は、僕の行く道を明るく照らし出す。
「僕、魔法使いになりたい」
――十五歳の僕が魔法使いとなり、やがて唯一に辿り着くのは、もう少し未来の出来事だ。
完結までお付き合いくださり、ありがとうございました。
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