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処刑


 処刑される夢を見た。


 正確には処刑される寸前で目が覚めたから処刑はされていないけど、便宜上、処刑される夢をみたということにしておこう。


 夢の中で私は、子どもと列に並んで歩いていた。

 工場のような建物の中。

 無機質な機械の音。人は列をなして並んでいるけれど、誰もしゃべらない。


 その建物は『国民集団自決センター』だった。(覚醒後の私が勝手に命名)


 日本はどこかの国との戦争中で、防衛力のない日本は侵略され放題。

 このままでは我々は、侵略者たちによって殺されるより酷い目に遭わされてしまうと考えた『戦えない民族』日本人は、尊厳を維持したまま人間らしい死を得るために、集団自決センターを開設した。

 日本人の日本人による日本人のためのホロコーストだ。


 そんな建物内で、私は子どもと一緒に順番を待っていた。

 あたかも夢の国のテーマパークでアトラクションの列に並んでいるかのような錯覚。


 思ったより順番はすぐに来て、気がついたら前の人たちが4、5人金属製の椅子に座らされ、あっという間に処理された。


 そして全自動国民自決マシーンの、想像以上に雑で力技な性能を目の当たりにして、かなり怯んだ。


 あ、結構痛そう。すぐ死ななそう。やだなあ怖いなあ。


 そう思ったのも束の間、もう次は私たちの番だった。


 冷たい椅子に腰をかけ、足枷をかけられたとき、静かに隣で座っている我が子の姿を目にして、私は取り乱した。


 人を人とも思わない敵国の兵士から悲惨な目に遭わされるより、せめて同胞から苦しまずに殺された方がマシだからという理由でここまで来たけれど、この子がこんな死に方をするなんて、そんなことってあるか? この子がこんな機械に繋がれて、一瞬で殺されるなんて、そんなことがあっていいのか?


 突然私はそんなことを大声で叫んで、大泣きしながら自決センターの職員の困惑する視線の中、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら自分の子どもを抱きしめていた。


 そこで目が覚めた。


 嫌な気分だった。


 現実の自分だったら、おそらくそんなセンターの厄介にはならなかったと思う。


 それと同時に、夢の中で私は、子どもに死んでほしくないと外聞もなく騒ぎ取り乱せる親であれたことに安堵した。


 午前3時。もう眠れない。


 生々しいほどにリアルな夢を見て、頭は完全に覚醒してしまった。


 悔しいから夢分析なんかをやってみる。


【死刑の夢は吉夢です】


 マジか。やったあラッキー!


 とでも言うと思ったかクソが。


 そんなんで気分なんか上がるわけねえだろ、なめとんのか。


 結局その後も寝られず、実際の自分だったらどう行動しただろうかを考える。


 長くなるからここではこれまでにしておくけれど。


 でもまあ、こんなクソみたいな夢を見て気がついたことはといえば。


 まだ生きていたいんだなぁってことだ。


 浮かんでくる選択肢は、どれも楽に死ぬための方法じゃない。

 どれも生き延びるための手段だった。


 どれだけ効率的に、低予算で、短期間で、少ない労力で、最高の結果が出せるか。


 そういう思考計算をしている自分がいる。


 生きたいと思っている。

 生きていてほしいと思っている。


 そんな事実を強く自覚する機会となった今回の夢には、まあ気づきを与えてくれたことに関して感謝してもいいのかもしれない。たぶん、きっと。

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