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女神ノ穢レ  作者: 紅雪
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一章 友ニ捧ぐ塵灰ノ光 - 8.残滓

エルメラが片手を上げると、エウスは近付いて耳打ちをした。

何を話しているかまでは聞き取れない。

ただ、報告を聞いたエルメラが嗤って私を見た事から、嫌な予感がした。


「出るぞ。」

エルメラが立ち上がると私を見て言った。

え?

急に言われても。

まだお菓子食べてない。

「内容は道中話す故。余がお主を此処へ招いた一端でもある。」

つまり、それがエルメラが私の復讐を手助けする見返りって事ね。

良いわ。

話しを聞くよりも早い。

今後私が何をさせられるのか。

復讐優先とは言っても、確認しておく必要はある。

それに、これ行かないと、続き聞けないのよね。

せっかく私の知らない手掛かりを掴んだところだもの。

「ガリウ、お主はどうするのじゃ?此処で待って居っても構わぬが。」

「アリアが行くなら行くに決まってるだろ。」

ガリウは勢いよく立ち上がって言った。

同時に、私の皿からお菓子を取って口に頬張る。

「あ!私の!」

「早い者勝ちだろ。」

と言ってにやける。

腹立つ。

私も慌てて残りを掴んで、一枚口に入る。

ガリウとお菓子の取り合いをしている間に、エルメラはもう部屋に居なかった。

そんな私の目の前をガリウが走って部屋を出て行く。

もう!




城を出ると、既に入口前に馬車が停車していた。

エウスはきっと、出来る人。

って、馬車?

屋根も無い。

というか荷馬車かな。

その荷馬車にエルメラが飛び乗った。

かっこいい。

「早うせい。」

そんなに急ぐ必要があるの?

ガリウはどうか知らないけど、私はエルメラの圧に気圧され慌てて飛び乗った。

「あぅ!」

同時に馬車が急加速して落ちそうなる。

「走りは荒くなる。落ちない様気を付けるのじゃな。」

これ、結構キツイ。

揺れるし、お尻痛い・・・

来る時に乗ってきた馬車とは違い過ぎる。


「塵の烙印が八つは少ないと思ったじゃろ。」

乗りながらエルメラが声を上げる。

思ってない。

常に八人も殺される対象が生まれ続けるのは多いし、気分が悪い話し。

でも、それだけじゃないって事なのね。

「塵と言われるくらいじゃ、方々に散っておる。烙印持ちが少ないだけじゃ。」

どういう事?

塵の影響は他の人間にもある?

「烙印になり切れなかった塵は滓となって人間に染み付いたのじゃ。その数は計り知れぬ。」

ちょっと待って。

烙印より遥かに多い?

そんなものが人間に付いてたらもっと世の中混沌としているんじゃ。

「疑問じゃろ?」

私の浅はかな考えを見透かすようにエルメラは言う。

言われてみれば、私が生まれるより遥か昔よりあった事象と考えれば、烙印持ちとは別物という事かな?

「察したようじゃの。所詮滓は滓。力を持たぬものが殆どじゃ。」

そういう事。

「その話しは、現状とどう繋がるの?」

現時点で話したという事は、関係している筈よね。


「うむ。稀に、滓に力の片鱗が顕現する場合があるのじゃ。」

「私たちの様な?」

って事は、その人が私たちの様に殺される?

「いや違う。滓が付いた人間は身体の何処かに痣を持って生まれる。大抵の場合、何の力も持たずに普通の人間と変わらない為問題視されぬ。」

つまり、滓と言っても普通の生活を送れるわけね。

「ただ、悪さをする痣があるのじゃ。それは人間の精神と肉体を蝕んで理性を失うのじゃ。」

・・・

そう。

なんとなくわかった。

それを殺すのがエルメラなのね。

「質の悪い事に滓の分際で力を持つ事が問題じゃな。」

「でも、所詮は人間よね?」

「理性を失くし、痛みも感じぬ力を持った奴に、普通の人間は恐怖するものじゃ。」

そういう事ね。

そんなの、逃げるしかない。


「そいつ、殺すのか?」

話しを聞いていたガリウが疑問を口にする。

多分、生かす選択はない。

「うむ。」

「戻す方法とか、無ぇのかよ。」

「昨日今日始まった事ではない、現状が結果じゃ。」

そうよね。

例え理性が戻ったとしても、私たちと同じ事をされるんじゃないかしら?

つまり、結局は殺されるのよ。

暗い表情になっているガリウには、敢えて言わないけど。

「殺す以外に無ぇのか・・・」

「そうじゃ。」

そう言ったエルメラも、進む先を見つめ静かに言った。

仕方の無い事だと言い聞かせているみたい。


「ガリウ、大丈夫?」

話しの内容で暗くなっていると思ったけど、青褪めているように見えた。

「あぁ・・・」

返事も力が無い。

今更この件の話しでそんなになるとも思えない。

私の思い込みかも知れないけど。

「ちょっと、気持ち悪ぃ・・・。」

あぁ。

つまり、揺れに酔ったのね。

「悪いが目的地までは止まらぬ。」

「・・・」

目的地まではそっとしておこう。

そうだ。

私は出掛けに持ったお菓子の事を思い出し、取り出して口にした。

「お主は平気そうじゃな。」

そりゃぁ、ね。

「私がどんな目に遭ってきたか、知らないわけじゃないでしょう?」

「そうじゃな。」

エルメラは目線だけを向けてきて言ったけど、私の言葉に相槌を打つとまた進む先に戻した。

ただ、揺れは良いけどお尻は痛いのよね・・・




「この村じゃ。」

馬車がとある村の入り口で止まると、エルメラは飛び降りて言う。

日は落ちていて既に薄暗い中、灯りもろくに見えない村が目の前にあった。

それどころじゃないのでしょうね。

「俺の、村より小さいな。」

せっかくの焼き菓子も大地に還しちゃったガリウが、疲れ切った表情で言う。

確かにね。

「エウスは此処で待っておるのじゃ。」

荷台から剣を取り出したエウスを制して、エルメラ言った。

目線で村を見て、私に促す。

わかってるわよ。

思いながら、私は走り出した。


「血の臭い・・・」

村の入り口付近から漂っていた臭いは、中に入ると濃くなった。

気分の悪い臭いだ。

「犠牲が多いのぅ。」

あらぬ方向に曲がったり千切れた手足、頭部が目に入ってくる。

猛獣に襲われてもここまではならない。

胸糞悪いわね。

「あれが?」

「そうじゃ。」

血塗れになって立っている人間がいた。

眼は白濁としていて血走っている。

「殺せばいいの?」

「うむ。復讐以外の殺しはせぬとか、温い事は言わぬよなぁ?」

エルメラは言うと、口の端を吊り上げて嗤った。

性悪。

「言わないわよ。」

今更そんな事。


私は短刀を構えて走り出す。

村人は避難したのか、周囲にはもう居ない。

対象に近付くと、気付いたそれは私を掴もうと右手を振り被って突き出してきた。

下を潜り抜けるように姿勢を落とすと腕を斬り飛ばす。

(重い!・・・)

膨張した筋肉に脈打つ血管。

そりゃ、人間千切るわね。

後ろに回った私に、右手が無くなった事に気付いていないように同じ動作を繰り返してくる。

(痛みも感じず理性も無い。そういう事ね。)

何も掴めず前のめりになったそれの背中に飛び乗ると、片足で後頭部を踏みつけて下を向かせる。

首筋に両手で持った短刀を当て、力を込めて引いた。

(首が太くて落とせない・・・)

吹き出る血を避けるように蹴って飛び降りる。

(半分以上は斬ったから、もう動けないでしょ。)

心臓が未だ動いているのだろう、脈打つように血が飛び出している。

私は地面に俯せに倒れたそれに右手の人差し指を向けた。

「業終。」

煌々と輝く紅い球がそれの上空に出現すると、凄まじい速度でそれの身体を貫いて地面に着弾した。

着弾と同時に爆音を上げて火柱が吹き上がる。


「村の中で使う魔法くらい考えて欲しいものじゃな。」

いつの間にか隣にいたエルメラが呆れた目を向けて来た。

言われて気付いたが、近くの家屋が火柱に巻き込まれている。

そこまで考えて無かった。

これじゃ私も、理性が無いのと変わらないじゃない・・・





「これから帰るのか?」

まだ火が消えない村を背に、荷馬車に戻るとガリウが変わらず疲れた顔で聞いてくる。

「馬も疲れておる。これ以上走らせるのは無理じゃ。だから今夜はここで一泊じゃ。」

「げ、村で?」

ガリウの気持ちもわかる。

あの惨状の村で一泊はちょっと。

「余もそれは嫌じゃ。」

おい。

嗾けておいてその言い種はなに。

「後追いで馬車が向かってきておる筈じゃ。」

「なら良かった。っておい!ここで脱ぐな!」

え、だって血がついて気持ち悪いもの。

「そうじゃ。乙女が人前で肌を晒すでない。」

着ていない方が良い。

「風邪でも引きますと復讐に差し障りますよ。」

それでも脱いだ私に、エウスが上着を脱いで掛けてくれた。

なんて出来た紳士。

「見習ったら?」

「アリアに言われたくねぇよ!」

心外。


「エルメラデウス様、火の支度が出来ております。」

「うむ、後は待つのみじゃな。」

エウスが示した方向を見ると、焚火や鍋の準備が出来ていた。

鍋?

どこから持ってきたの。

「この様な事態は珍しくございません。それ故、荷馬車に常備しているのですよ。」

私の疑問を察したエウスが答えてくれた。

「って言っても、食い物はどうすんだ?」

「もうすぐ到着すると思いますので、お待ちください。」

なるほど。

用意周到ね。

慣れたこの行動が、珍しい事じゃないんだと思わされた。



それから程なく、後追いの馬車が到着して食事と寝床の心配は無くなった。



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