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女神ノ穢レ  作者: 紅雪
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一章 友ニ捧ぐ塵灰ノ光 - 7.行方


門を抜けた馬車が石畳の上をゆっくりと進む。

池や花々、芝生と手入れされた風景が窓から見えた。

今まで生きてき中で、こんな景色は見た事が無い。

本当に別世界。


「どうじゃ、余の庭は。」

あれから特に情報も無く、日常会話程度を話しながらエルメラデウス領に入り、居城と呼ばれる場所に入ったところ。

「は?庭?これ全部が!?」

ガリウも驚きを隠せずにいる。

もちろん、私も。

「うむ。自慢の庭じゃ。」

自慢するだけはある。

キレイ。

「居城と言うだけあって、本当にお城なのね。」

曲がり道を走った時、窓からお城が見えた。大きな建物程度を想定していたが、本当に城だったとは驚き。

「名目上はエルメラデウス領主館じゃがな。」

「すげぇ、俺らここに住んでいいのか?」

住むわけじゃなく行動の拠点だけどね。

「もちろんじゃ。」

え?

「なんか王様になった気分だな。」

バカ・・・


城の扉を抜けると、召使らしき女性が数人出迎えてくれた。

私とガリウはそれぞれ連行され、湯浴みをさせられる。

ご丁寧に着替えまで用意してあった。

どんな扱い?

疑問だらけ。

それから大きな部屋に連れられ、長い大きなテーブルに着かせられる。

そこには紅茶と焼き菓子が用意されていた。


「さて、到着早々で疲れておろうが、一息ついたところで本題に入ろうかの。」

ついてない、ついてない。

落ち着かない。

困惑しかないから。

なにこの待遇。

ガリウの服が似合ってない。

もうお菓子食べてるし。

どうしたらいいの?

「いつも通りでよいぞ。」

・・・

環境の事は忘れ、話しに集中しよう。

「どちらから話そうかの?」

「塵について。」

私の生い立ちに関しては、私が平常でいられるかわからないから。

女神の浄化の塵についてから聞いた方が良い。

「うむ。先ずはお主がどこまでしっているか把握しておきたい。」


前にガリウに話した内容以上の事は知らない。

だから、それを話した。


「現在確認されておる烙印は八つじゃ。」

「八つだけなんだ。」

ガリウが相槌を打つ。

黙ってお菓子でも食べてれば・・・ってもう食い終わってる。

だけじゃない。

八人も生まれた時点で殺される事が確定するって事。

どうかしている。

「余が確認出来ている、現存している保持者は五人。他はわからぬ。」

当然、私とエルメラが入るから、あと三人は知っているって事ね。

「やっぱみんな強いのか?」

「当然じゃ。」

いや、強さとかどうでもいいから。


「烙印保持者は飛躍的に身体能力が高いのじゃ。」

やっぱりそうか。

「魔法の威力もよね?」

「うむ。」

他の魔法使いが大したことないわけじゃない。

私がおかしかったんだ。

また、普通じゃない事が増えた・・・


「烙印は死んだからといって浄化されるものではない。」

え?

じゃぁ、なんの為に殺されているの?

「そもそもそんな事で浄化されるのであれば、塵となって堕ちては来るまい。」

確かにそうだけど。

納得できない。

私とお母さんはなんの為に殺されたの。

「保持者が死ねば、次の母体に転移するだけじゃ。殺すなど悪しき風習でしかない。」

「それじゃ、死ぬ子供が増えるだけじゃない。」

「その通りじゃ。」

なんて・・・

なんて愚かな。

そんな事で、私とお母さんは殺されたっていうの。


エルメラの話しを聞いたガリウも俯いている。

自分の村で起こった事が、ただの殺人だったからか。

わからない。

でも、その風習の所為で残された方も苦しむ結果なのは間違いない。


「それ故、余はお主を助け出したかったのじゃ。」

どういう事?

私を助けたかった?

エルメラは私が生まれた時点から存在を知っていたの?

「私の事、最初から知っていた?」

「丁度良い。烙印についての概要は話した、このままお主の話しをしよう。」

「うん、お願い。」

どこまで平静でいられるかわからないけど。


「当時、表立ってはおらぬが領主館ではちょっとした騒ぎが起こった。」

「私が生まれた事?」

「その通りじゃ。」

生まれた子供に烙印があったら、そうなんでしょうね。

「烙印を持って生まれた赤子に関しては、隠して秘密裏に処理する人が多いためなかなか気付けぬのが現状じゃ。故に、お主が生まれた時に騒ぎが起きたのは僥倖だと思ったのじゃ。」

悪習にも程がある。

気分の悪い話し。

「余はお主を引きとろうと思い急ぎセアクトラへ向かった。だが、着いた時には既におらず行方がわからなかったのじゃ。」

生まれてすぐに捨てられたって事ね。

よく分かったわ。

「でもどうして私を?」

エルメラが私を引き取ろうと思った理由がわからない。


「単純な事よ。余も烙印持ちじゃ、くだらん理由で殺される事が確定している赤子を放置できぬ。事情を把握しておる余が保護すれば、一時的とは言え連鎖が止まるじゃろう?」

確かにその通りだけど。

「他には?」

本当にそんな慈善活動だけが目的とは思えない。

世界の敵の様に忌み嫌われる塵を、ただ助けたい?

自分が烙印持ちだからといって、そうなる?

「ふむ。」

私の問いに、エルメラは目を細め嗤う。

「当然、余も仲良しこよしで暮らすためだけに保護しようとしているわけではない。」

やっぱり。

その内容が私にとってどんな影響があるかが問題。


「先にも言ったが、お主の復讐優先で構わぬ。余の話しについては追々話そう。」

どちらにしろ、私の目的が達成できるのであれば、その後はどうなってもいい。


「話しは逸れたが、お主の話しに戻ってもよいか?」

「あ、ごめん。教えて。」

そうだった。

生まれてすぐ捨てられたのをどうやって見つけたのか。

「お主の行方に関しては、余も後手後手になってしまってな。デニエラ村に辿りついた時には既に殺された後じゃった。すまぬ・・・」

エルメラは目を閉じて軽く頭を下げた。

それはエルメラが悪いわけじゃない。

そういう言葉を聞くと、もっと早く来てくれていたら、と思ってしまいそう。

でもそれは、我儘な感情でしかない。

だから。

「エルメラは悪く・・・」

「エルメラが早く来てたら、俺の村は、俺の家族は殺されなかったのか?」

・・・

私が言おうとしたら、ガリウが私とエルメラを交互に見て言った。

その目は縋るようで、怒りを内包しているようにも見えた。

だけど、それは違う。

「ガリウ、もしの話しは止めよ。起きた事実は変わらない。エルメラは、避けようと動いていただけなんだから。」


「ごめん・・・」

とは言ったものの、納得はしてなさそうだった。

頭では納得しても、感情は抑えられないのかな。

ならはっきり言っておく。

「お母さんが死んでなくても、私たちにした仕打ちは変わらない。だから、私のやる事も変わらない。」

ガリウは一瞬私を見たけど、すぐに俯いて無言になった。

忘れる事なんて出来ない。

あの愉悦に浸った目。

残忍な笑み。

躊躇ない拷問。

許すわけがない。

殺したって殺し足りない!

「続けて良いか?」

・・・

沸々と沸く怒りを鎮めるようにエルメラが静かに言った。

そうね。

忘れてた。

「うん、ごめん。」

「お主たちの想いは自身でどうにかせよ。余がそこまで関与してやる謂れはな無い。」

目を細めて言うエルメラの表情は冷めていた。

関わる部分をちゃんと画しているって事なのでしょうね。

「わかってる。」

そんな事は。

でも、ガリウはそう簡単にはいかなさそう。

俯いたままの状態を見て、そう思った。


「手遅れかと思うとったが、お主の死は確認出来なかった。そこからメルフェア夫妻に辿り着くのは容易じゃった。死の危険性も無い事から、お主が行動を起こすまで待つ事にしたのじゃよ。」

なるほど。

「さて、ここからがお主にとっては本題じゃな。」

そう。

今までのはエルメラの行動。

私がそこに至るまで、関わった奴がいるかどうか。

「先ず、殺害となると領主としての立場に傷が付く故、密かに追放せよと進言した者がおる。」

その場で殺されていたらこんな思いしなくて良かったのに。

でも、復讐できる可能性を残してくれたのは感謝するわ。

殺すけど。

「誰?」

「セアクトラの街から少し北に行くと、オーゼリス教の教会が在る。そこの司祭じゃ。」

オーゼリス教ね。

私が育った場所にも在ったわ。

「司祭の名はイギール。現在はセアクトラを離れ・・・」

「エルメラデウス様、急用の為失礼いたします。」


エルメラがそこまで話すと、エウスが部屋に入ってきて告げた。


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