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女神ノ穢レ  作者: 紅雪
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七章 女神ニ捧グ憤怒ノ業 - 68.女神

「どうも。久しぶりかどうか、時間の感覚が無いんでわからないがな。」

男はそう言うと笑った。

なんなの?

何故石像が人に?

女神の魔法?

疑問だらけだ。

「お主はなんじゃ?」

「あぁ。この道の見張り。」

「見張り?」

「誰彼構わず主の下へ通すわけにもいかないんでな。俺が選別する。」

つまり、こいつを倒さないと先に進めない?


「ちなみにお前らは・・・通っていいや。俺はまた寝る。」

は?

「どういう事じゃ。」

「面倒くせぇな。通っていいって言ってんだから黙って行けよ。」

「話しが見えぬ、会話の猶予もないのか。」

本当に。

しかもいきなり不機嫌になるし。


「お前ら主の力の一部を宿しているだろう。だったら無条件で通過していいんだよ。」

つまり、女神の事を言っているのだろうか。

「主とは、女神の事か?」

「ん?あぁ、多分そうだ。上じゃそう言われてんだっけか。」

男は頭上を見上げながら言う。

つまり、女神はこの先に居るで間違いないって事ね。

本当に居たんだ。

そして、私たちはそこまで辿り着いた。

しかし、当たり前の様に私たちが塵だという事がわかるのね。


「主の力を宿していなければ?」

「俺の気分次第。追い返すか殺すかだな。」

なるほど。

エルメラの決断通り、塵に関係の無い人を連れて来なくて正解だった。

「お主は人間か?」

「質問が多いな。まぁ人間だが、誰も来なけりゃ石になって寝てる。」

石になる意味って・・・

「え、石って意味わかんない。」

「この場所に誰か来るなんて滅多に無ぇ。それこそ何十年、何百年だ。こんな場所三日も居られねぇだろ、頭がおかしくなりそうだ。だから石になってんだよ。腹も減らねぇし老化も止まる。お勧めだぞ。」

リリエルの疑問に答えた男は、最後は片眼を瞑って笑顔を作った。


「出ればいいじゃん、こっから。」

「縛り付けられてんだよ。」

男は言いながら、石像になっていた場所に戻る。

「あ、ちなみに一日くらい歩くと大きな部屋がある。十人くらいの寝泊りは余裕だな。もと俺の部屋だけど。」

「どういう事じゃ?」

「好きに使えって事だ。そこの水場から部屋にも引いてあるから水にも困らんぞ。」

親切すぎる。

「逆に怪しいわ。」

「どう捉えるかは俺の知った事じゃねぇ。そこから更に一日程歩けば主の部屋だ。」

言い終わる頃に、男は石像に戻っていた。

今度は胡坐をかいて欠伸をした姿で。

なんて緊張感の無い・・・


「こやつの話しが本当であれば、戻る必要は無さそうじゃな。」

「そうだね。議論をしてもしょうがない、進んで先ず部屋があるか確かめる。でしょ?」

「うむ。」

私の言葉に、エルメラが頷き他のみんなも頷いた。




扉の先はまた緩やかな下り坂になっていた。

人二人が並んで歩いても余裕があるくらい、狭くもなかった。

水場に天馬と荷物の殆どを置き、必要最低限の荷物だけ持って移動する。

石像の男が言っていた内容が本当であればいいが、嘘だった場合でも引き返すには問題無い程度。


先頭を灯りを持ったオルディヌとウリカが歩いている。

大きな通路とは別で、天井もそこまで高くない。

それこそ、エルメラのお城の方が高いくらいだ。


途中途中休憩を取りながら歩いて行くと、通路が分岐していた。

横に窪みがあり、その先には扉。

石像の男が言っていた部屋とはこれだろうか?

私が先頭で、警戒しながら扉を開けて中に入る。


「部屋というか、家よね。小さな屋敷程度はあるわ。」

中を確認するとマリアが言う。

「二階?もあるよ!」

階段があったので、確認しに行っていたオルディヌとリリエルが戻って来る。

本当に屋敷の様だった。

「家具も揃ってるしな、椅子に座って飯も食えるし、寝台で横にもなれる。」

「何の目的で作られたかは知らぬが、使えるものは遠慮くなく使ってやろうかの。」


食堂らしき広い部屋は、オルディヌが天井に灯りを作ってくれたので過ごしやすかった。

後は各々の部屋。

用意した蝋燭を持ってみんな移動して行ったが、火を付けるのは私なのよね。

今までの状況から考えれば、普通の家と変わらないこの場所は快適に過ごせた。

もっとも、穴の中を進む事に比べてだ。

普段であれば、こんな暗い地下の中で過ごしたいとは思えない。


「おねぇ、部屋行こう。」

最後に残った私とウリカ、オルディヌが椅子から立ち上がる。

「うん。」

ちゃんと睡眠をとってから向かおうという事になった。

天馬での移動中は、仮眠程度しかとっていない。

そりゃ、色んな意味で疲弊するわよね。



睡眠が終わると、それぞれが食堂らしき場所に集まる。

日付が変わったのか、朝なのか夜なのかもわからない。

実際にどれだけ睡眠が取れたかもわからないが、一度眠りに落ちた事で身体が楽になった。

最後にグエンが合流し、いよいよ女神の下へ向けて部屋を出る。



またも緩やかな坂道を下り、休憩を取りながら歩いていると、大きな扉に当たった。

「ここが終点?」

「だと良いのじゃが。」

その場所は広く、天井も高かった。

壁が薄っすら光を放っているのか、真っ暗でもない。

観音開きの扉は私の三倍くらい大きい。

「この扉、どうやって開けるんだ?」

グエンが言いながら近づいて手を伸ばす。

「!?」

その時、扉が内側にゆっくりと開き始めた。

「びっくりした。開くなら開くって言えよ・・・」

「いや言わないでしょ。」


開くにつれ白い光が通路内に漏れてくる。

音もなく開いた扉の先は、扉と同じ幅の通路が続いていた。

違うのは、今までの路と違って明かるい事。

どうやっているのかは不明だけど、中は白い光で満たされていた。


「これは、流石に人間の仕業には思えないな。」

中に踏み入れ、ユーテが見渡しながら言う。

「地下にこんな空間なんて、そうなのでしょう。」


呆気に取られながら進むと、すぐに広大な空間が目に入る。

「王城の玉座の間とは比べ物にならぬほど広いのう。」

「ほんと。あそこも広いと思ったけど、広いなんてもんじゃないよ。」

そう言えば、リリエルは王城に行ったのよね。


壁も床も白い。

多少模様等はあるけれど、此処までの道のりとは正反対。

ここはまるで、白の世界。

「目がおかしくなりそうだぜ。」

広大な空間の中央には、大きな椅子らしきものがあり、そこに誰かが座っていた。

「あれが女神?」

マリアの疑問は、みんなが思った事だろう。

天井を見上げた形で微動だにしない。


空間が広い所為か気付かなかったが、近付くとその椅子はかなり大きかった。

当然、そこに座っている女性も私の倍くらいはありそう。



「久方ぶりだ、人が訪ねて来たのは。」

ある程度近付いたところで、その女性は顔をこちらに向け口を開いた。

白い肌に銀髪。

一際輝く黄金の瞳。

人の形はしているものの、容姿は浮世離れした何かに見えた。

「以前来たのは何百年前だったか。」

「お主が女神か?」

考える素振りをする女性に、エルメラが確認した。

「上で暮らす人間にはそう呼ばれているな。別に特別な呼称等ありはしない。私は一神でしかないのだからな。」

神のうちの一神。

女神はそう言った。

他にも居るという事か。

それは、私たち塵にどう影響しているのだろう。


「私の片鱗を持った人間よ、歓迎しよう。会う事自体吝かではないが、訪れる者があまりに少なくてな。」

それは、辿り着ける人も、辿り着こうと考える人も少ないからだ。

こんな場所、誰が来ようと思うのか。

「しかも、落とした片鱗がすべて揃っているなど初めての事。幾星霜の時を重ねようと今後、無いやも知れぬな。」

女神はずっと、慈愛に満ちたような表情で私たちを見続けている。

本当に、喜んでいるのだろうか。

私たちが来た目的を、わかっているのだろうか。


「して、何故此処を訪れた。ただ会いに来た、というわけではないだろう?」

「女神の浄化の塵、何故人間に落とした。」

それは知りたい。

塵がずっと、持たない人間以上に忌み嫌ってきたこの烙印が何故存在するのか。

その根源が、今目の前にいる。

殺して生きるにせよ、背負ったものの理由は知りたい。

「以前に来た者も言っておったな。説明して帰したはずなのだが、伝わってはおらぬようだな。」

え!?


「手記にはそんな事、触れてすらいなかった。というよりは、此処を訪れた後の記録は無い。」

なんて事・・・

一体何を知って帰ったのか。

何故女神を殺す事もなく帰されたのか。

「ではもう一度話そう、時間はいくらでもある。いや、お前たちは有限か。」

「そうじゃな。出来れば聞きたい。」

「いいだろう。今度こそ帰って後世に伝えよ。そもそも浄化の塵とは何か?それは以前来た者に聞いた。まったくもって度し難い内容よ。」

え?

そもそもそれが違うって事!?

「違うの!?」

リリエルが驚きから大きな声を上げた。

私も内心ではそうだ。


「私はこの地方に存在する神でしかなく、安寧を齎すために居る。特定の生物に何かをする事は無い。」

「じゃぁ、その片鱗とやらがなんで俺らにあるんだよ。」

グエンの言葉に、女神は悲し気な表情をした。

とても深い悲しみを表した様な顔は、今まで継がれてきた内容を覆すのではないか、そんな不安が込み上げてくる。

「そもそも私は神だ。浄化などする事はない。」

・・・

聞いてしまうと、何かが壊れそうな気がした。

誰も何も発せず、女神の言葉を待つ。

「浄化の塵などと、そんなものはお前ら人間の作り話にすぎぬ。」

浮かんでいた不安が形となって膨らんで来る。

どんな理由にしろ、はっきりと現実が見えてきた気がした。

やはり、人間はどこまで往っても人間でしかないのだと。


「片鱗を持った人間、仮に始祖としよう。」

女神の浄化の塵の始祖。

今まで語り継がれてきた話しが本当なら、最初に烙印を持ってしまった人間。

だけど、女神の話しでは浄化などしないという事から、その根底が覆った。

「始祖は私の力を持つと、その力を手放したくなかったのだろうな。」

まだ人間がその存在を忌み嫌う前、それだけの力があったのなら都合の良い様に利用したいと思うのが人間。

「故に、後世に継がれるよう話しを作り上げた。」


それはいいけど。

「その前に、始祖とやらが片鱗を手にした経緯はなんじゃ?与えたわけではあるまい。」

それ。

その始まりの理由が、この塵問題の根源な気がした。

エルメラの質問に、またも女神は悲しそうな表情をする。

「察しの通り。二千年ほど前になるか・・・」

そんな昔!?

「私が此処の神となり間もない頃。間もないと言っても人間の感覚ではないがな、精々数百年程度だ。」

確かに、人間はそれを間もないと感じない。

「その頃、私はとある山脈に居った。」

「え、ここじゃないの?」

女神はリリエルの疑問にゆっくりと頷く。


「当時、人間と私の距離はさほど離れてはおらなんだ。私が何をするわけでもないが、祈りに来る人間はそれなりに居たものだよ。」

へぇ。

そんな時代があったんだね。

「崇拝と敬愛、人間が私に抱くその思いは悪くなかった。私に出来る事と言えば、この地方に起きるであろう天災の軽減程度だったが、それでも人間が少しでも楽に暮らせればと思っておったな。」

その関係が壊れた原因が、おそらく始祖なのね。

「問題の二千年ほど前だが、二十人ほどの団体がいつもの様に私の前に現れた。だが、彼奴等の目的は祈りではなく、神殺しだった。」

「そんな・・・」

フィナが驚きを隠せずに声を漏らす。

「私を殺して力を奪おうとしたのだ。私に人間を殺す気は無かったため、その場から逃げたのだが、逃げる前に八人の人間に傷を負わされ力を奪われた。」

なんて事・・・


「つまり、俺らの力はその八人が奪ったものが継承されていると?」

「その通りだ。お前たち人間が、その力を私から奪って我がものとしているに過ぎない。」

それじゃ、被害者は人間じゃなく、女神じゃない・・・



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