六章 塵ニ捧グ覆滅ノ灯朧 - 61.無残
「そう構えないでいただきたい。」
ユーテウェリは言うが、塵の人数把握、ウリカの事、知っている筈がない。
ウリカに関してはもともとランフェルツに居たのだから可能性はある。
一番あり得ないと思えるのがオルディヌだ。
それを知られているとなると、警戒しない方がおかしい。
エウスも剣に手を掛けているが、相手のカラフもエウスと対峙して剣に手を掛けていた。
この中でただ一人、ユーテウェリだけが構えずに笑みだけを浮かべている。
「僕は事を荒立てに来たわけじゃない。先程も言った通り、話しをしに来ただけだ。」
「会話を求めるならば、手の内を晒してもらおうかの。」
「詳しい話しは落ち着ける場所でしたい。が、その場にもっていくためには多少なりとも情報を提供する必要がありそうだね。」
警戒を解かないエルメラと私たちを見て、ユーテウェリ仕方ないとばかりに苦笑した。
「そうじゃ。少なくとも何故人数まで把握出来ておるのか、何の目的があって接触してきたのか、会話をするにあたり相手が受け入れるだけの情報は必要じゃろ?」
「確かに、卿の言う通りだよ。カラフ、構えるな。」
「承知。」
カラフは剣の柄から手を離すと、控える様に佇んだ。
それに倣い、エウスも柄から手を離すが、警戒は解かずに相手を見据える。
「僕は塵と、滓の存在が認知できる。」
「まさか・・・」
認知できるって、それって会ったら塵かどうかわかってしまう事よね。
相手に確認する必要も、烙印を見る必要も無い。
「初対面でありながら素性も明らかにしていない一行の、人数を把握しているのだから十分では?」
「不可能という証明は出来ぬ、それはいいじゃろう。」
確かにエルメラの言う通り、そんな能力はあっても不思議じゃないかも。
「僕は生まれた後、ウォーゼハル家の地下牢に隔離され殺された。生まれてない事になってたよ。」
また・・・
本当に、どこでも扱いは変わらないのね。
「だが死なない上に、そのうち返り討ちされるようになると、殺す事は諦めた。だからウォーゼハル家を掌握するのは容易い事だったよ。」
私だったら人も家も壊してしまう。
「最初はどう復讐したら苦しませられるだろうとばかり考えていたんだけどね。」
そうよね。
でも、どうしてそうしなかったんだろう。
私との違いは何?
「ある時、父に着いて訪れた村で違和感を感じたんだ。それが最初の認知。滓だったが後日暴走したのを知り、違和感の正体に気付いたわけだ。」
どうやってそれが認知できたと認識したのだろうか。
後日と言っているのだから、違和感と滓が結びついていない。
その場で違和感を感じた存在が顕現した、とかならわかるんだけど。
「それを認知とどうしてわかったのじゃ?」
「フィナメルシェ殿だ。」
「うち?」
ユーテウェリがフィナに目を向けて言うと、首を傾げた。
「ウォーゼハル家は貴族院の一角だ、中央で会う事も度々あった筈だ。そこでリヴィラエ卿に着いている貴女を見た時に、確信したんだ。」
それがすべてではないかもしれない。
が、力を持っていれば調べたりする事も可能だと思う。
何か裏付けがあったのかもしれない。
でも、私たちの人数まで把握したのだから、それはもう確定と言っていいだろう。
「それが、余と会話をするという目的に結びついておらんな。」
「あぁ、これからだ。認知可能だと知った僕は、そこで目標が出来た。」
それが、今に繋がっているという事?
「塵は生まれるとすぐ殺される事が多いため、記録としてはなかなか無い。ただ、殺されるという世の中の認識と、実際に殺されている事を考えれば記録等なくても明白だ。」
確かに、その通り。
「そこで僕は、認知できる事を利用して塵を集めようと思った。ウォーゼハル家は利用するに十分な地位だったしね。」
「何故塵を集める?」
「世の中の認識を壊すためさ。烙印があるというだけで殺される頭のおかしい認識をね。」
そうか。
それが目的。
エルメラとの差を識るには、手段は何かを聞く必要がある。
目的が同じでも手段が違えば相容れない。
手段が同じなら、共闘も見えてくるだろうけど。
「今こうして行動に移しているのは、ランフェルツに卿が来ていた事による。そこでの認知が、塵を集め行動に移す時だと思えたからだ。」
「なるほど。つまり、塵も普通として扱われ生きれる世の中にしようと?」
エルメラは、話しの内容は理解したようだ。
ただ、その顔からまったく警戒は解けていない。
ユーテウェリの言っている事は、塵にとっていい話しだと思うのだけど。
「理解してくれて助かるよ。だが、僕がそこに至るよりも早く、すでに行動していた人物がエルメデウス卿、貴女だという認識で間違いないだろうか?」
「集めていた、という点ではの。」
「流石に目的までは把握できないが、似たような目的ではないのか?」
「余の目的は塵の保護と、保護しなくてもいい世にするためじゃ。」
そう、だから私もエルメラのところに居る。
「ならば、そこに会話の余地はあるだろう。長くなったが、それが僕の目的だ。」
「いいじゃろう。お主がどうやって認識を変えようとしておるのか、多少興味が沸いた。」
エルメラは言うと、やっと警戒を解いた。
緊張に包まれていた場が、やっと解放された気がする。
「感謝する。それで、会話はどこで行う?」
「内容が内容だけに、その辺でとはいかぬ。エルメデウス領の領主館まで来てもらうがいいかの?」
「構わない、そのために越境までしてきたのだから。」
「ならば着いて来るがよい。数日の内には着く。」
ユーテウェリは頷くと、カラフが開けた扉から箱に乗り込んだ。
天馬を先頭に、エルメデウス領へ三台の馬車が走り出す。
「なんという事じゃ・・・余の庭が・・・」
数日後、エルメラのお城に着いて入ると、エルメラは天馬から降り、膝を崩して落胆した。
その気持ちはよくわかる。
門から居城へ緩やかに曲がって続く石畳。
その両脇は低木や花壇、噴水等綺麗に手入れされた庭園だった。
居城からその庭園を見ながら、エルメラが紅茶を飲むのも日常だったのだけど。
無残・・・
としか言いようがない。
石畳の反対側は問題無い。
手入れも行き届いているように見えるので、おそらくエルメラの使用人が引き続き行っていたのだろう。
が、お城から一番見えた場所は、更地になっていた。
更に、その隅には木材や石材がつまれている事から、何かしら建てる予定だったのかもしれない。
「おのれ・・・許さぬ。」
エルメラは起き上がると天馬に飛び乗った。
屋根の上に。
エウスに指示を出すと、お城の入り口まで移動する。
お城の扉を抜けたエルメラに続いて、私も中に入った。
「エルメラデウス様!?お帰りなさいませ。」
近くにいた使用人が驚きの声を上げ、すぐに頭を下げてお帰りと言う。
「領主だった奴はおるか?」
「オブエイク様でしょうか?」
エルメラの表情を見た使用人が恐る恐る口を開く。
「名前など知らぬ!そやつは居るのか?」
「はい。王都へ帰る準備をしておられます。」
あ、まだいたんだ。
エルメラは聞くと、お城の中を急ぎ足で歩き始めた。
暫くして、絶叫が聞こえてくる。
「あの、エウス様、一体何事でしょうか?」
残った私たちの中で、声を掛けやすい見慣れた人物であろうエウスに使用人が怪訝な顔を向ける。
「表の惨状に痛くご立腹で、あれはどういう事でしょうか?」
逆にエウスが確認すると、使用人は沈痛な面持ちで口を開いた。
「オブエイク様は城が落ち着かないとの事で、別邸を建てようとした結果です。おやめくださいと私たち一同嘆願したのですが、使用人の分際で領主に意見するなと聞き入れてもらえず・・・」
「辛い思いをさせてしまいましたね。」
「エルメデウス様へ顔向けできません。」
と言って、使用人は涙を浮かべた。
やった当人はさておき、エルメラは使用人を責めたりするような人じゃない。
「今まで通りで大丈夫かと思いますよ。」
エウスも当然わかっているから、そう言って使用人の肩にそっと手を添えた。
少しの時間、入ったところで動向を見守っていると、エルメラが戻って来た。
その間に城内の使用人が集まって来て、エウスといろいろ会話をしている。
集まっている中心にエルメラが何かを引き摺ってきて、それを放り投げる様に置いた。
「お主ら、留守中ご苦労じゃったな。」
エルメラが言うと、使用人が全員頭を下げる。
「留守をお預かりしたにも関わらず、惨事を食い止める事が出来ず申し訳ございません。」
使用人の一人が悔しそうに言った。
「なに、お主らに非は無い故気にするな。それと、こやつは復旧にこき使え。」
うわ・・・
開いた口からは涎が流れ、気絶している中年男性をエルメラは目で示す。
「よろしいので?」
「ローデには余から伝えておく、庭園復元まで帰してなどやらぬ。」
エウスの確認に、エルメラは不敵な笑みを浮かべた。
「さて、晩餐の準備を頼めるか?それと、会議室に茶の用意も頼む。」
「畏まりました。」
エルメラの指示に、使用人が一礼して散っていく。
「またせたの。早速話しを聞こうではないか。」
エルメラは退屈してそうな顔をしていたユーテウェリに言う。
「それってあたしらも参加だよね?」
「無論じゃ、今後の動向に関わる話しじゃからな。ウリカを含め、全員じゃ。」
リリエルの問いに、エルメラが見渡して言った。
ウリカを含め、塵全員だと言われる。
ユーテウェリからどんな話しが出るかわからない。
同じところを目指しているようで、ユーテウェリはどこか含みがあるような感じがしていた。
エルメラからは感じなく、ユーテウェリから感じるもの。
漠然とした感覚でしかないが、どこか違うと思わされる何か。
多少の不安を感じながら、エウスに先導され私たちは会議室へ移動した。




