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女神ノ穢レ  作者: 紅雪
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六章 塵ニ捧グ覆滅ノ灯朧 - 59.帰国

「ホーリエルって場所に集合だそうだ。」

翌日、朝ご飯を食べてゆっくりしていると、グエンが紙をひらひらと振りながら戻って来た。

ホーリエルか、懐かしい。

ガリウと初めて行った街。

「聞いたことがあるような気はするんだが、俺はわからん。知ってるか?」

「うん、知ってる。」

「ならいい、案内は頼んだ。」


エルメデウス領に居たとは言っていたけど、国内を移動したりしないよね。

惨事から救われ、回復のためにいたのだから。

「いつ発つのかしら?」

「出来れば今日、トルヘンに移動しておいて、明日の朝出発がいいんじゃないか?」

「私はそれでいい。」

「ワタシも。オルディヌもいいよね?」

ウリカが隣に居たオルディヌに聞くと、小さく頷く。


ウリカはずっとオルディヌの傍にいて話しかけたり、ご飯を食べたりと付きっ切りに近い状態を維持している。

そのためか、ウリカには懐いているとまではいかないが、時折笑みを浮かべたりするくらいにはなっていた。

おねぇとしてはちょっと寂しいけれど。


しかし、オルディヌはきっと危うかったのではないかと思わされた。

歳は九歳と言っていたので、本人の資質にもよるけれどアリーシャの様な結果になっていたかも知れない。

まぁ、現状は大丈夫そうなので、かもの事を考えても仕方ないけれど。


「ホーリエルと言えばアリアちゃん、近いんじゃない?」

二人を見てそんな事を考えていると、マリアが話しを振ってきた。

おそらく、お母さんのお墓の事だろう。

「うん。」

「寄りたい?」

そりゃ近くならね。

「すべて終わってからでいい。」

「そう。」

私が私として、生きられる様になった時に報告する。


最初は、復讐が終わったら報告しようとばかり考えていた。

でも、こうしていろんな人と関わったり、ウリカを守りたいと思ったり、その気持ちが変わった。

復讐が終わったのも一つの報告だけど、私を死ぬまで守り続けたお母さんに報告するなら、守った娘がちゃんと前を見て生きている姿を望んでいるんじゃないかって思えた。

だから、今じゃない。


「その場所の近くになんかあるの?」

ウリカの質問に、笑みを向ける。

「お母さんのお墓。いつか一緒に行ってくれる?」

「ウン!」

良かった。

私が守っていきたいと強く思ったから、一緒に行きたかった。


「トルヘンに行くなら、スェベリウに会う?」

「ダレ?」

懐かしいなと思いつつも、それほど思い入れがあるわけじゃない。

顔見知りだからと思って言っただけ。

まぁ、ウリカは知らないから当然の反応だけど。

「そう言えば、居たわね。私は会った事が無いからどちらでもいいけれど。」

「俺も知らん。必要なら会えばいいんじゃねぇか?」

思った以上に興味は無いみたい。


「ウリカと同じ。意識を保ったまま力を使える。」

「ホント?ワタシ以外にも居たんだ。」

とはいえ、それほど興味は無さそう。

「そういう話しならちょっと見てみたいな。」

別の奴が興味を示した・・・


「門を抜けてすぐの場所だから、トルヘンで宿を探す前に顔だけでもだそうか。」

知った顔を無視して通り過ぎるのもちょっと気が引けたので。

「あぁ、それでいい。」

「ワタシも、ちょっと見てみたい。」

マリアはどっちでもいいと言っていたからか、頷いただけだった。




トルヘンに入り、すぐに壁伝いに移動してスェベリウの家の前に来る。

思えば、ランフェルツへ行ってからかなりの月日が経っている。

それからバルグセッツへ移動するなんて思いもよらなかった。

あまり気にしてなかったけれど、メイオーリアに帰ってくるのは久しぶりなんだよね。

いろいろありすぎて、そんな事すら考える余裕も無かった。

門を抜けた途端、そんな事を歩きながら考えた。


「ここがそう。」

と言いながら、扉を叩く。

「なんでこんな離れた場所に住んでんだ?」

「街の都合で、ここが良いらしい。」

「ふーん。」

留守だったらそれまでと思っていたが、少しの間をおいて扉が開いた。

「はいはい・・・って、アリアさん!お久しぶりですね。」

以前見た時と変わらない、線の細い青年のままだ。

何年も経ったわけじゃないから変わらないか。

「うん、久しぶり。」

「今日はどうしたんですか?」

「近くを通ったから寄っただけ。」

「そうですか、わざわざありがとうございます。しかしアリアさん、綺麗になりましたね。」


え?

えぇっ!?

そんな事言われるなんて思ってもみなかった。

「ほんと?」

「えぇ。表情が明るくなったと思います。」

そうか。

ちょっと嬉しい。

「小娘の見た目はどうでもいいから、紹介してくれねぇか?」

・・・

いい度胸だ。

「スェベリウ。顕現の力を使えて、この街で定期的に行われているバルグセッツとの戦いをしてるの。」

「どうも。」


続けて、マリアの方に目を向ける。

「みんなエルメラの仲間で、彼女がマリウテリア。」

言うとマリアが笑顔で応える。

恐さは無い。

「こいつがグエルウェン。」

言いながらお腹に拳を突き入れる。

「ぐっ!・・・てめぇ・・・」

「あと、最近入ったオルディヌと、ウリカ。」

オルディヌはウリカの後ろに隠れて顔だけ出した。


「ワタシも同じ、滓で力を使える。」

「本当ですか!?僕以外で初めて会いました。」

そうよね。

そもそも、滓がどれだけ居るか不明だけど、顕現する数はかなり少ない。

その中で意識を保ったままでいられるのは希少な存在だと思うから。


「今なれたりすんのか?」

「すみません、人目に付きますし、要らぬ誤解を与える可能性もあるので無暗には。」

確かにエルボアとトルヘンの住人なら知っているからいいものの、この街は国境としての要所でもある。

住人以外も多いから出来ないよね。

「言われてみればそうだな。」

と言って、グエンはもう興味は無くなったようだ。


「スェベリウは大きくならずに力使える?」

ウリカが興味の視線を向けた。

いや、それを出来るのたぶんウリカだけだから。

「えーと、出来ないです。」

何故そんな事を聞かれたのかと、スェベリウは困った顔をした。

「なら、ワタシの方が上だね。」

「え?」

さらに戸惑うスェベリウ。

上とか下とか無いから。

「ワタシ、大きくならなくても強いから。」

「まさか、そんな事ができるんですか!?それが可能なら僕もそうなりたい、一体どうやって?」

確かにそうよね。

衣類の選択幅も広がるし。

何より、危険視もされないし、過ごしやすくなるでしょうから。


「それはおねぇとのヒミツだから。」

と言ってウリカが抱き着いて来る。

「あはは。残念ながら、こうなった要素は判明してないんだよね。」

スェベリウが私を見て理由を求めてきたので答える。

本当に、何故可能になったのかはわからない。

「そうですか、それは残念です。必要があるため使っていますが、あの姿にならなくて済むならと思ったもので。」

「ごめんね。」

「いえ。」

スェベリウは笑みを浮かべていたが、表情は残念そう。


「試す事なら可能よ、自身の身体を使ってね。失敗する可能性も高いけれど。」

え、それって・・・

嫌だ。

マリアの方を見ると目を細め嗤っていた。

実験する気だ、あの顔は。

「私は嫌。」

今なら、ウリカは良いって思えるけれど、スェベリウのために身を切るのは嫌だ。

「大丈夫よアリアちゃん。贄はここにもいるのだから。」

マリアはその嗤いをグエンに向けた。

あ、そだね。

「おい!贄ってなんだよ贄って!」

「言葉通りの意味よ。」

「誰がやるか!」

「我儘ねぇ、お姉さん悲しいわ。」

表情がまったく変わってないので、悲しむどころか楽しんでいるとしか思えない。

「いや、我儘とかそういう問題じゃないだろうが。」


「愉快な人達ですね。」

笑いを堪えながらスェベリウが言う。

あんたに言われたくないわ。

「でも、僕の力は街の人に必要とされています。万が一があっても困るので、可能性でお願いはできません。」

その通りだよね。

「あらそう、残念ね。」

マリアの場合試したいだけでしょう・・・

「もし、確定で可能になったらお願いします。」

「わかったわ。」


「そろそろ巡回があるので、この辺で。」

「うん、突然来てごめんね。」

会えただけ良かった。

素通りして、寄っておけば良かったとか、思うよりは全然。

「いえいえ、また立ち寄った時は訪ねていただけると嬉しいです。」


スェベリウは私たちが去るのを、その場で見送ってくれた。

「じゃ、宿を取って飯だな。」

先頭を歩くグエンが言い、その後に続く。


ホーリエルか、ここからだとセアクトラ経由で行くことになるかな。

今、セアクトラの領主や領主館はどうなったんだろう。

考えても仕方ないけど、ふと思ってしまった。

ただ、昔みたいに気持ち悪くならないのは、今の環境が私を変えてくれたからかな。


「あれ、マリアは?」

いつの間にか見当たらなくなった。

「なに?せめて宿に行ってからにしてくれよ。」

と、グエンも歩みを止めて周囲を見渡す。

「あ、アソコ。」

ウリカが指差す方向を見ると、雑貨屋っぽいところで何かを見ていた。

「確かに、買い物なら後でもいいのにね。」

「だろ?」

流石にそこは、グエンに同調した。

「とりあえず行ってみようか。」

「しょうがねぇな。」


と、向かい始めたところで、マリアがこちらを向いて近付いて来る。

凄く、満面の笑みなんだけど。

あれ絶対、自分の事じゃない。

私かグエンだろ・・・


「何をそんなに嬉しそうなんだよ。ってか勝手に居なくなるな、せめて宿にいってからだな・・・」

満面の笑みのマリアが、小言を言うグレンに何かを持ち上げて見せた。

「凄くいいものを見つけたわぁ。」

首輪と、紐?

「なんだよそれ、何かの装飾品か?」

「マリア・・・」

察してしまった。

「違うわよ。この首輪はグエンへのプレゼントよ。」

「付けるか!」

「紐はもう気付いたと思うけど、アリアちゃんへ。」

やっぱり。


「ふざけんな、返してこい!」

「え、もう買ったもの、無理よ。」

・・・

見せるために持ってきただけと思ったら、購入済みなんて・・・

「はぁっ!?」

グエンが大きな声を出す。

その顔は意味がわからないと語っていた。

きっとマリアは、面白いからという理由だけで買ったわね。

「無駄遣いすんな。」

「それはグエンが判断する事じゃないわ。私が楽しめたらその時点で無駄遣いじゃないの、おわかり?」

「・・・」

呆れて言ったグエンだったが、マリアの返しに言葉も出なくなったよう。

口では何だかんだ言っても、グエンってマリアに逆らえない気がした。

いや、私もだけど。


「まぁ、今は諦めるわ。アリアちゃん、渡しておくからいつでも使ってね。」

押し付けられた!

「え、えぇっ!?マリアが使った方が良いでしょ。」

今のやりとりもそうだが、マリアの方が向いている。

「あのね、私じゃ面白くないの。アリアちゃんがやるから良いのよ。」

意味がわからん。

「マリアが面白がりたいだけなんじゃ・・・」

「そうよ。当り前じゃない。」

そこまできっぱり言われると、もう何も言えないわ。

「それ以前に俺は付けないからな!」

グエンは言い放つと、背中を向けて宿の方に歩き始めた。


「ワタシの速さなら嵌めるくらいはできそうだけど、やる?」

何故か期待を込めた眼差しをしながらウリカが入ってくる。

「いや、やらなくていいから。」

もう。

って呆れていたら、マリアとウリカが目線と手で何かを示し合わせていた。

「やめろ!」

首輪に手を伸ばしてきたウリカから、届かないように頭上にあげる。

「あら残念。」

「さすがおねぇ、気付くとは。」

あのね・・・

いつからそんな仲になったのよ、まったく。


「お前らいつまでそこにいるんだよ、早く行くぞ。」

背後で自分の身に危険が及んでいたとも知らずに、グエンが急かす。

「ほら、とりあえず行こう。」

ぽかんとやりとりを見ていたオルディヌを手招きして、グエンに続く。

凄く残念そうに続いたマリアは気にしないようにしよう。




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