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女神ノ穢レ  作者: 紅雪
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六章 塵ニ捧グ覆滅ノ灯朧 - 58.奪還

「私の魔力も無尽蔵じゃないの、わかっているわよね?」

「はい・・・」

マリアが両手で私の頭を固定すると、目を細めて私の目を見据えてくる。

目を逸らす事も出来ない。

「魔法を使うと凄く疲れるの、知っているわよね?」

「はい・・・」

恐い。

いつも以上に。

「戦う度、どうして火傷やら刺し傷やら斬り傷やら、増えていくのかしら?」

「は・・・ごめんなさい。」

あ、うっかり。

「今、はいって言おうとしたわね。私の話しに適当に相槌かしら?」

「違う、そんな事は・・・」

「はぁ。」


マリアは溜息を吐くと、口元を吊り上げた。

満面の笑みだが目だけ笑ってない。

危険だ。

「おかしいと思わない。」

「私が、悪いです。」

「そんな事は聞いてないわ。私、一度傷を綺麗にした気がするのだけど、気のせいじゃないわよね?」

「はい・・・」

「なら、どうして身体中また傷だらけなのかしら?」

「強敵ばかりむっ・・・」

マリアの手に力が籠められ、顔をむぎゅっと潰される。

かなり怒っているよう。


「気を付ければ負わなくていい傷もあるわよね?」

「はい。」

仰る通りで。

「傷に対して無頓着過ぎるわ。もう少し気を付けて立ち回りなさい。」

「はい。」

「わかればいいわ。」

やっと顔が解放された。

確かに、無頓着と言われるとそうかもしれない。

どこかで、死なないと思っているのだろうか?

それ以前に、冷静じゃなくなると突っ走ってしまうのがよくないか。


「あの、負担になるから治さなくてもいうっ・・・」

顎下から顔を掴まれた。

「あのね、そういう話じゃないの。私は女子なのだから身体を大切にしなさいって言っているのよ。」

「む・・・」

頷く。

「お洒落も楽しみたいのでしょう?ウリカちゃんも一緒に。」

「む・・・」

そうだった。

それは、一緒に買い物したり、食事したり、楽しみたい。

「だったら尚更、気を使いなさい。」

「む・・・」


やっと解放された。

マリアは自分が魔法を使う事がどうのと言っているわけではなく、私の心配をしてくれているんだとわかった。

「ありがとう。」

「いつまでも一緒に居られるわけじゃないの、今後は考えなさい。」

「うん。」




ヴェゴフとその屋敷を潰してから数日、私たちは国境にあるエルボアに着き滞在している。

エルボアの大きな門を抜ければ山間の広場があり、反対のトルヘンへと続く。

トルヘンへ行けばスェベリウが居るだろうし、宿代も浮かせられるかもしれない。

とも思ったが、スェベリウの家自体が大きくないので全員は無理だろう。

それ以前に、メイオーリア側の国境を抜けられるか不安。

エルメラからの連絡を待っている状況。


‘ヒ’は目を覚まし、今はグエンが買い物に連れて行っている。

ウリカも一緒。

主に衣類を調達しに。

ヤーウェルツではまだ目覚めていなかったため、その場凌ぎ程度の物しか買っていなかったためだ。


オルディヌ・トルシュ・ヒ・エンハエン

目覚めた彼女から聞いた名前。

もちろん、起きた時はかなり騒ぎになった。

知らない場所、知らない人間、恐怖で瞳が埋め尽くされ震えていた。

そんな状況で何かを話してくれる事も無く、名前を確認できたのは翌日だった。

まだ慣れてはいない様だし、警戒もしているけれど、害が無いとは思い始めている気がした。


塵は何処に居てもこんな目に遭う。

まるで、世界に監視されている様。

北方にある小さな村、オルディヌはそこで両親と暮らしていたそう。

魔法を使ったわけでもなく、誰かに烙印を見られた記憶も無いという。

でも、何かの綻びから漏れたのかもしれない。

存在を知った住人がヴェゴフに売った。

当然、両親は殺されオルディヌは連れ去られた。


私なら、村の住人皆殺しに向かっただろう。

オルディヌが望むなら、行ってもいいと思ったけど、今のところそんな素振りは無かった。


フィナの様な例は稀有なのだろう。

匿う権力が大きければ、こんな目に遭わずに済んだのだろうか・・・




「ねぇマリア。」

「なにかしら?」

魔法を使ってくれるマリアに、以前から聞いてみたい事があった。

「傷を負った直後に魔法は使った事があるの?」

どうして傷が塞がってからなのだろうかと、いつも疑問に思っていた。

例えば斬られた時、斬り口の構成を変えたらくっつかないだろうかと。

「・・・あるわ。」

マリアの返事は重かった。

聞いてはいけない事だったのだろうか。

「ちゃんと、話してなかったわね。」

マリアは魔法を終えると、椅子に座ってから言った。


「私の魔法はそもそも生物組織の破壊。」

え、怖いんだけど。

なにそれ。

「だから無機物に効果は発現しない。」

そ、そうなんだ?

「エルメラの別邸で使ったのが本来・・・って、二階に居たから見てないわよね。まぁ、それを応用転換して構成変化させてるのよ。」

・・・

理解できない。

きっと見ていたとしても、わからないよね。

「詳しい話しはさておき。」

マリアはいったん言葉を止めると、笑みを浮かべた。

嫌な予感。


「剣で斬られた人を何とか助けようとした事があるわ。開いた傷口と流れ続ける血、それを変化させようとしたら何が起きたと思う?」

え?

いや、話しの内容より、マリアの顔の方が恐いんだけど。

何故そんな狂気じみた笑みを浮かべているのか。

それにやっぱり、聞きたくないような・・・

「傷口は暴れる様に蠢きだし、流れる血は皮膚と癒着して・・・」

「わぁわぁっ!」

ほらろくな話しじゃない!

普通に恐いわ!

「どうしたの?」

「あの、もういいです・・・」

「聞きたいって言ったのはアリアちゃんなのに。」

詳細まで話してと頼んだ覚えはない。

「まぁいいわ。その時に、負ったばかりの傷には使えないと思って使わない事にしたの。」

「うん、わかった。」


「後は安静にね。続きはまた明日。」

「うん、ありがと。」

マリアは言うと、部屋から出て行った。

何度受けても慣れない。

お腹の傷から始めたのだけど、変な感じはするし、やっぱりちょっと痛い。

今のところやる事も無いので、お腹をさすりながらゆっくりする事にした。






「はて、国家転覆を企んだのは誰だろうな?」

玉座に座ったローデルベリウは、紙片の束を揺らしながら宰相のヘルベイウを見据える。

「意義があるなら申してみよ。」

一段高い場所に設えられた玉座で、ローデルベリウは足を組みヘルベイウの様子を窺う。

対してヘルベイウは王間に入った時から片膝を付いた状態のままで、首を垂れたまま視線を上げる事は無かった。

ヘルベイウの横に参列したエルメデウスも、目を細め見据えていたが表情はうかがえない。

「ズェフト、コルダートの両大臣、お主らもあれば申してみよ。」

ヘルベイウの後ろで、同様の格好をした大臣二名に、ローデルベリウは同様に問いかけた。

「ございません。」

「わたくしもございません。」

ズェフトが口を開くと、コルダートも続く。

「イフェルル、お主はどうだ?」

さらに後ろに控えていた騎士長は、すぐに首を横に振った。


「この城は権力の象徴でしかない。しかし、民が居なければ象徴足りえない。先を往く者として我らは此処に居る。」

ローデルベリウは組んだ足を解き玉座から立ち上がる。

「暗澹たる往き先に私欲を以て民を先導しようとした行為は、到底許容できるものではない。」

玉座の横にあった剣を床に着き、ゆっくりと抜剣してヘルベイウ達に突きつけた。

「この場で選択するがいい。この国で死ぬか、この国を出るか。猶予は与えぬ。」


ローデルベリウが与えた選択に、四名とも出国を選択した。

王より一番遠くに跪いていた騎士長イフェルルから、両脇を兵に抱えられ王間を後にする。

続いてコルダート、ズェフトが続き、最後にヘルベイウが両脇を抱えられローデルベリウに背を向けた。


エルメデウスはローデルベリウに向き直ると、片膝を付いて首を垂れる。

「よい。気にするな。」

ローデルベリウの言葉に、エルメデウスは立ち上がると笑みを浮かべる。

「今より直轄領となったエルメデウス領は、エルメデウス・ヴァリアーヌが再び治める。文を飛ばせ。」

側近に命じると、一礼して側近が扉の方へ向かう。


「こんな扱い、あってたまるか!」

王間の扉を抜ける直前で、ヘルベイウが怒鳴りながら兵の手を振りほどき、扉の外へ駆け出した。

途端、ヘルベイウの足元が凍り付く。

「潰すでないぞ。」

「そんな事しないよ。」

扉付近に控えていたリリエルが若干頬を膨らませて言った。

「くそっ!お前らち・・・」

「不敬でございますぞ。」

同じく、リリエルの横に控えていたエウスが、エルメラデウスを指差したヘルベイウの首筋に手刀を叩き込んで気絶させる。

エウスはすぐに玉座に向かって一礼すると、元の位置に戻った。

「なかなか優秀な魔法使いと執事を有しているな。」

「余も助かっておる。」

エルメラデウスが不敵な笑みで応えると、ローデルベリウが頷き一瞬だけ、口元を綻ばせた。

エルメラデウスだけに見える様に。


「では、領主任命の文書を作成し渡す故、暫し別室で待つがよい。」

エルメラデウスは再度、片膝を付いて首を垂れると、王間を後にした。




「エウス、良くやった。」

別室に移動すると、椅子に座ってエルメラデウスが言った。

「いえ、少々五月蠅かったもので。」

「狸の余迷い言として片付ける事も可能じゃが、無暗に不穏を与える必要もあるまい。」

「口まで凍らせておけば良かった。」

至らぬ事にリリエルが溜息を吐くように言った。

「足留めしたからこそ、心象が悪くなるような行動に出た故、十分じゃ。」

「そう?ならいいけど。」


「さて、向こうにも文を飛ばさねばな。一度ホーリエルで合流する事にすかの。」

「全員揃って凱旋でございますな。」

「うむ。」


エルメラデウスが頷いたところで、別室の扉が叩かれる。

エウスが対応し、文書を受け取るとエルメデウスとリリエルは顔を見合わせて頷き、別室から出るために扉へと向かった。



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