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女神ノ穢レ  作者: 紅雪
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六章 塵ニ捧グ覆滅ノ灯朧 - 56.節目

「火走・朧。」

鬱蒼とした森の暗がりの中、帯となって伸びていく私が放った橙色の光の粒は、一層輝いて見えた。

煌めいて奔る光はレウの身体まで行くと、包み込んで輝きを増していく。

眩しさでレウの身体が見えなくなったのが先か、光の粒が発火した事で見えなくなったのが先か、わからない。

そんな事はどうでもいい。

願わくば、逝った先で本当の笑顔になれたらいいな。


「グエン、あまり近付くと火傷するわよ。」

マリアが腕を引き、グエンを炎から遠ざける。

グエンは下がりながらも、炎から目を離さずずっと見つめたままだった。



昨夜、グエンから火葬をお願いされた。

バルグセッツでは土葬も多いが、グエンとしてはそのまま土に埋めるのは嫌なんだとか。

私にはよくわからない。

ガリウの時は、骨を運びたかったから火葬しただけ。

村の見える丘に連れて行きたかったし。


ただ、森の中であの魔法は、熱量も強すぎるし光が突き抜ける。

居場所を知られる云々より、森に被害が出そうだったから。

拾い集める小枝は普段の生活用。

火葬用に大量に集めるのは難しい。

かといって、陽炎では火力が弱い。

だから、下からの火走と、包み込む火走・朧を併用した上で、消えない様に何度も使う。


「これが終わったら、‘ヒ’に魔法を使えるか?」

グエンは炎から目は離さずに、隣にいるマリアに確認する。

「えぇ。そのつもり。」

「そうか、頼む。」

きっと、この森から早く出たいんだと思った。

森に居た期間は短いとは言え、長い間家族だった二人を、二人とも失ったのだから。

まだ涙の滲むグエンの横顔を見て、そんな事を思った。




夜、マリアが魔法を使い始めた。

そっちはマリアにお願いするとして、私はグエンに確認したい事があったから残ってもらう。

焚火を三人で囲んで、私はグエンを見据えた。

「な、なんだよ?」

グエンは構えるが、別に責めようというわけじゃない。

どうしても気に入らない事はあるけど。

「メウはお金をもらって連れて来たのよね?」

「そうだな。」

「お金、払ったやつに心当たりあるでしょ?」

「・・・」

グエンは一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに目を背けた。

知っていても、言いたくないのか。


「ワタシだって馬鹿じゃないからわかる。そいつ、前から知っているでしょ?」

「・・・もう終わった事だ。」

馬鹿。

顔は全然、終わったなんて思ってないじゃない。

「エルメラと合流する前に、バルグセッツをちょっと散歩したいよねぇ、ウリカ?」

「ちょうど、ワタシもおねぇと散歩したいと思ってた!」

察しが良い。

ウリカは思った以上に、物事の分別が出来る。

それに、賢い。

「そんな余裕は無ぇだろ。‘ヒ’の治療が終わったら大人しくメイオーリアに向かうぞ。」


「独りで行くなんて許さないよ?」

遠回しに言ってものらりくらりと躱しそうなので、はっきり言う。

グエンは聞いた後に苦い顔をした。

「巻き込みたくなかっただけだ。」

「おねぇが居なかったらヘタレのままだったよ、きっと。」

「ぐ・・・」

いいよ、もっと言ってやれ。


「ねぇグエン。」

「・・・」

目だけ向けて来た。

何か言われるとわかってるんだよね。

「はぁ、いいわ。」

「え?」

グエンは気の抜けた声を出して私に向き直った。

「肝心な事は話してくれない、教えてくれない、相談してくれない。自分で何とかしようとするんだ。自己満足で終わりたいならどうぞ。」

「ワタシ、カナシイよ。きっと、レウもこんな気持ちをいつもしていたに違いない、ヘタレの所為で。」

と言って、ウリカは昼間、冷めた後に集めたレウの骨を入れた袋に目を向ける。

「そうよね、死ぬまでヘタレを見せつけられて旅立たされて。」

「それでもヘタレは変わってないよ。」

二人でレウの遺骨に残念そうに言葉を続けた。


「お前らな・・・」

「お姉さんも凄く残念だわ。あまり進歩が無いと流石の私でも怒っちゃうかなぁ?」

「痛い、痛いって・・・」

満面の笑みでマリアはグエンの肩を掴んでいた。

既に怒ってる。

マリアは怒っている時、満面の乾いた笑みを浮かべる。

今がその顔だ。

「はぁ、揃いも揃って物好きだいてぇ!」

グエンが肩を押さえながら腰掛から落ちて地面に転がった。

「今物好きって聞こえた気がするわ。この場所で、こんな思いしているのは私たちが物好きだかららしいわよ。」

「へぇ、私たち物好きでこんな嫌な思いしてるんだね。」

「ワタシ、そんなモノズキじゃないよ。」

という会話を、みんなグエンを向いて言った。


「だぁ!もううるせぇな。少しは感傷に浸らせろよ。昨日の今日でそんなすぐに切り替えられるわけねぇだろうが!」

あ、怒った。

「なんで切り替える必要があるの?」

「あ?」

「まだ何も終わってない。切り替えるのも、感傷に浸るのも、弔うのも、終わらせてからでいいじゃない。」

許せないなら、今怒りを鎮める必要はない。

弔うなら、静かな気持ちで送り出してやればいい。

浸るなら、終わらせた後に穏やかな気持ちで思い出せばいい。

だから、今じゃない。

「そうだよ、今じゃない。今は、暴れる時間。」

派手にいきたいな、二人に届くように。


「彼女たちはあなたより先を歩いている。それでも、あなたを置いて行ったりしていない。どうでもいい奴は放置されるものよ。きっと、レウやメウだってそうだった筈じゃないかしら。」

「・・・」

グエンは、マリアに言われるとまた泣いた。

「あぁ、そうだな。」

「オッサンの泣き顔は見飽きたよ。」

「うるせぇよ・・・」

ウリカの言葉に私たちが笑うと、グエンもぎこちない笑みを浮かべた。

多分、これでいい。


「よし、‘ヒ’の回復が終わったらバルグセッツの散歩といくか。俺が住んでいた街、その領主ヴェゴフのところまで案内してやる。」

街はさておき、そいつが殺しを仕向けた奴か。

「ワタシ、街でご飯したい!」

「私も。ここの肉は飽きた。」

「お姉さんも宿でゆっくり休養したいわ。」

「まかせろ、全部案内してやる。ゆっくり休んで、食後の運動は領主館への散歩だな。」

すでに泣き止んだグエンが得意げに言った。

まぁ、その方がいい。

「食後はデザートと決まってるの!」

「・・・じゃ、それ食ったらな。」

ウリカの言葉に、また笑いが起きた。

森に入ってから、ずっと重い空気だったから、久々な気がした。


「しかし、お姉さん気付いちゃったわ。」

・・・

勘弁してよ。

なんで微笑んで私を見るかな。

またろくな事じゃないのが目に見えている。

「言わなくていい。」

「え?大事なことよ。グエンの今後に関わってくるもの。」

なんだ、グエンの事か。

ならいい。

「俺かよ、いったいなんなんだ?」

「思えば今の今までもそうだったわ。アリアちゃんはグエンの首に縄を付けて引っ張っているのよ。」

「えぇ!?」

「はぁ!?」

グエンと驚きが重なる。


「今更じゃん。おねぇが縄を引っ張らないとオッサンが動かないんだよね。」

・・・

何それ。

「俺は犬じゃねぇぞ。」

「あら、似たようなものじゃない。」

やっぱりろくな事じゃなかった。そういうのは気付かなくていいよ。

「あのねぇ、今があるのは引っ張ってもらったからじゃなくて?」

「それは、そうだけどよ・・・」

否定しなよ。


「もういいから寝ようよ。マリアは魔法使って疲れたでしょ。」

「そうね。面白いけれど、また明日以降にするわ。」

しなくていい。

私も、昼間連続で魔法を使ったせいか、身体が怠い。

「アリアだって疲れてんだろ。寝た方がいい。それと、レウのためにありがとな。」

別にレウのためじゃない。

けど、まぁいいか。

「ウリカ、寝よ。」

「ウン。」





三日後、大森林を出た私たちはグエンが住んでいたというヤーウェルツの街に到着した。

夕方だったため、宿をとり食事して、久々の寝台で横になった。

翌日は、早めの昼食とデザート。

そこから街はずれにある大きな屋敷まで散歩をしていた。


「ここがヴェゴフの屋敷だ。」

大きい。

豪邸だ。

「エルメラの別邸より遥かに大きい。」

「本当ね。」

エルメラが居ないからか、マリアの同意はそれだけだった。

「もうヤルの?」

「待て待て、早まるな。まず俺が話しをしてくる。聞きたい事があるからな。」

そりゃそうだね。

「私も連れてって。」

弔いのつもりじゃない。

グエンが一人だと不安というわけでもない。

ただ、これは私の復讐の延長な気がしたから。

「いや、一人でいいって。」

「連れていきなさいよ。それくらい問題ないでしょう?」

マリアに言わると、グエンは私を見て諦めた顔をした。

え、失礼じゃない。


「おねぇ・・・」

「大丈夫。ウリカが待っててくれるから、私はもう自分に負けたりしない。」

「ウン。」

心配そうな顔をしたウリカの頭を撫でながら、笑顔で応える。

「始めるときは、派手に合図するから。」

「待ってる。」

「私は見ているだけよ。この子を背負いながらは無理だもの。」

「わかってるって。」

‘ヒ’を背負っているマリアは初めからそのつもりだった。

だから、この屋敷は三人で潰す。


「行くか。」

「うん。」


門番から、屋敷の入り口は、グエンが名前を出しただけで案内された。

いったいどういう関係なんだろう。

今更そんな事を気にしても仕方ないけど。


部屋に案内され入ると、恰幅の良い禿あがった男が、大きな椅子に座っていた。

が、風貌とは別で、人を威圧するような鋭い目をしている。

「久しぶりだなグエン。自ら出て来るとは思わなかったぞ。」

「まぁ、俺も用があったしな。」

太く低い声音も、子供なら泣いてしまうんじゃないかと思う程恐かった。

だがグエンは、気にした風でもなく答える。


「で、餓鬼はどこだ?」

「死んだんじゃね?」

「メウも手下も戻って来ていない。死んだのは向かった方だろう。」

確かに、その通り。

「そもそも、何で俺が知ってると思ってんだ?」

そこでヴェゴフが目の前の机を蹴り上げた。

短気。

気分が悪い。

「塵を確保してすぐに郊外の建物が潰された。居た奴等を皆殺しにしてな。」

確保した?

それって、保護じゃなく拷問よね。

じゃなければ、グエンがそんな事をするとは思えない。

「そりゃ大変な事で。」

「お前がやったんだろうがっ!」

今度は拳を机に叩きつけた。

うるさい・・・


「血塗れのお前が、家に戻ってメウとレウを連れすぐに街を離れたのはわかってんだ。」

「へぇ。」

その建物がヴェゴフの管轄だったって事ね。

街の領主でもあるから、グエンが家族揃って家を離れたのなら、わからないわけがない。

「メウが街に戻ったのは僥倖だったさ。まさか大森林の中だったとは、よく考えたものだ。あそこを探す気にはならないからな。」

「メウにはしてやられたが、仕方ねぇ。」

グエンは、今のところ大丈夫そうね。

相手の態度に圧されてもいないし、何よりあの森での出来事にまだ飲まれていない。

「置き去りで出て来たわけでもないだろう?餓鬼はどこだ?金が欲しいなら出すから言え。」

金で解決できるならグエンがあんな行動に出ないと思わないかな。


グエンは明後日の方に視線を向けると頭を掻いた。

「まぁ、教えてもいいが、俺の家族を殺してくれた代償は払ってもらいてぇな。」

「馬鹿を言え、招いたのはメウだろうが。」

「お前が唆さなけりゃ生きてたって。」

「それはメウの弱さであって、お前の言っている事はただの責任転嫁だ。まぁいい、言い値を払ってやる。」

まぁ、高い代償になるけどね。


「ガキは敷地の外にいる。で、代償はお前のすべてだ。」

「ふざけるな!」

「ふざけてんのはてめぇだ!」

ヴェゴフ以上の声を張り上げ、グエンはヴェゴフの目の前にあった机を拳で叩き壊した。

「なっ・・・」

グエンはその後、シャツを脱ぎ始める。

ちょっと、頭がおかしくなったの?

止めようとすると、制して左腕を出した。

「知らなかったろ?」

「お、おまえ、塵なのかっ!?」

「俺が逃げたのはガキを保護するためだ、お前の様なクズ共からな。だが甘かったよ、最初から潰しておけば良かったな。」


ヴェゴフは部屋の中にある鐘に走り寄ると、力いっぱい叩いた。

屋敷中に響いていそうな程大きな音が鳴り響く。

うるさい。

「アリア、やれ。」

グエンは言いつつ、部屋の扉に右手を向ける。

「拒塔。」

振動と共にしたから音が響いてくると、扉の前に地面が隆起してきた。

「これでしばらくは入れねぇだろ。」

「業終。」

私の生み出した火球は窓を突き破り、空中で破裂し火の雨を降らせる。

「まさか、その女もか!」


人を指ささないで欲しいな。

私はもう用が無い。

「後はグエンの好きにすればいい。私は外でウリカと掃除してくる。」

「あぁ、ありがとな。」

私はグエンの言葉に、笑顔を作ってみた。

ちゃんと出来たか、わからない。

「貴様ら、ただで済むと思うなうっ・・・うぇ・・・げほ・・・」

グエンの拳がヴェゴフの胴にめり込んだ。

「楽に死ねると思うなよヴェゴフ!」

続けて胃の逆流物を吐いていたヴェゴフの顔面に回し蹴り。

ま、後は好きにすればいい。


私は自分で壊した窓から外に飛び出すと、走って来たウリカと合流した。

「ハデな合図だったね。」

「でしょ。」

まだ燃やすわけにはいかないよね。

そう思うと、私は短刀を抜いた。

「多い・・・」

「おねぇとワタシなら大丈夫だよ。」

そうね。

笑顔のウリカを見て、私も笑顔で返した。





外を片付け、三人で話しをしているとグエンが戻って来た。

「お前ら血塗れじゃねぇか・・・」

「グエンに言われたくない。少しは気が済んだ?」

「済まねぇな。あいつらが還ってくるわけでもねぇし。まぁただ、少しは気分が楽にはなったか・・・」

「復讐はただの自己満足、それで何か晴れるわけじゃない。」

「先輩は言う事が違うねぇ。」

「黙れ。」

言うとグエンは笑みを浮かべて両手を上げて見せた。

余計な一言を言ってくれて。

「さ、ここを離れましょう。もう国境に向かうのでしょう?」

「あぁ。街で馬を調達してさっさと逃げようぜ。」

「その前に着替えたい!」

私は遠目に見える川を指差して言う。

「確かに、この格好じゃ街には入れないか。」


「おっと、その前に。」

自分の格好を見ていたグエンは思い出した様に、屋敷に向かって右手を向ける。

「葬壁・咢!」

屋敷を挟むように巨大な壁がせり上がり、その後大きな音を立てながら屋敷を飲み込んだ。

「行くか。」

「うん。」




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