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女神ノ穢レ  作者: 紅雪
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六章 塵ニ捧グ覆滅ノ灯朧 - 54.懇願

「もうそろそろかな・・・」

マリアは傷だらけの小さな身体を見て言う。

「傷が治らないと駄目なんだろう?」

「完治までとはいかなくても大丈夫。ウリカちゃんで確認しちゃったし。」

「実証済みか。」

グエンが呆れた目を向けた。

でも、そのおかげで私とウリカは一緒に居られる。

「別に人体実験のつもりでやったんじゃないわ。」

マリアが頬を膨らませた。

実際のところは、腕の接合含め試しはあったんだけど。



‘ヒ’を連れ出して一週間ほど。

傷口の手当て、塗布薬を塗って包帯を巻いたりと、交代で行っている。

最初は熱もあり近くの水場で冷たい水を汲んできて冷やす部分は冷やしたり。

熱は落ち着いて、傷も治ってきたが、意識はまだ戻らない。


同様に、レウもうなされたりしながらずっと眠っている。

グエン曰く、レウは普通の人間。

ここに集まっているのは、みんな塵関係だから、唯一の一般人と言える。


場所は森から出ていない。

小屋からはだいぶ離れ、水場の近くで野宿を続けている。

外に出て見られるよりは、良いだろうという事で。

幸い、植物や動物で口に出来る生物が多いため、食には困ってないし、水場も近くにあるので生活する分には問題無い。

人数も少なくないので手分けして生活出来ているから、まだ退屈もしていない。


懸念があるとすれば、後発で追手が来ないかだが。

この場所を見つける事自体が至難。

メウの手引きが無ければ、そもそも見つかる可能性は無いに等しかった。

新たに森を探そうと思っても、見つける事自体が難しい。

この広大な大森林で、この場所だけを見つけるのは、余程の運が必要だろうとグエンは言っていた。

それに、もし誰か来たとしてもこの面子であれば問題無いだろうとも。

確かに、誰か来た場合に関しては大丈夫だと思った。


「おねぇ、そろそろ調達いこ。」

「そうね。」

狩りに関しては私とウリカが担当している。

それが妥当だと思うから。

「たまには魚が食いてぇな。」

注文を付けてくる奴がいる。

「グエンはイラナイって。」

「みたいだね。」

「待て待て、要らないとは言ってないだろうが。」

無視でいいか。

ウリカも同じことを思ったのか、二人でグエンを相手をせずに移動を始める。

「お肉でいいんで、俺の分もお願いします・・・」

そこで、後ろから小さく聞こえて来た。

ついでにマリアの笑い声も。


あれ以来、グエンは少し変わった気がする。

まぁ、変わってなければ相手にしないけど。


「ウリカさぁ、大きくならなくなったよね。」

前から思っていて、聞こうかと思い機を逃していた事を口にした。

「ウン。ならなくても今のところ対処できるから。」

「前もそうだった?」

「違う。前は、普通の人より少し、早く動けて力が強い程度。」

なるほど。

やっぱり違っていたのか。

となると、あの傷から回復してからって事だよね、多分。

「傷が治ってから、身体がスゴイ軽くなったし、力も強くなったんだよ。」

「マリアの魔法の影響かなぁ。」

それ以外に考えられない。

マリアの魔法は治癒じゃない。

再構成と言っていた。

ウリカの場合、私の傷跡を消しただけとは状況が違う。

火傷も治りきってないし、切断した右手首も繋げたのだから。

それに、ウリカは滓として顕現していた。

その辺が何か、きっかけとなっているのかもしれない。


「大きくなった方がイイノ?」

「ううん、そのままでいいよ。」

私は言って、不安を浮かべた目をしたウリカの頭を撫でる。

きっと、ウリカもなりたくないのだろう。

頭を撫でたらウリカが抱き着いてくる。

歩きにくい・・・

でもなんだろう、この気持ち。

ウリカと一緒に居るようになってから、ずっと在る。

穏やかな気分。

「あ、イノシシ。」

「よし、狩ろう。」

「ウン。」




「ねぇマリア。」

夜、焼いた猪肉を齧りながらマリアに話しかける。

「どうしたの?」

昼間の疑問、やっぱり気になるから。

「ウリカがマリアの魔法を受ける前と後で、身体能力がかなり変わったんだけど、やっぱり魔法の影響?」

「うーん。その可能性は低いと思うわ。」

え?

予想していた返事と違って戸惑った。

「あくまで再構成。その過程で傷跡が消えたりしているだけだから。それだと構造自体に変化が起きた可能性があると思うわ。」

よくわからない話しになった。

構造が変わる?

見た目は特に変わってないけど。

「アリアちゃんだって特に傷が消えただけで、身体に変化はないでしょう?」

言われてみればそうなんだけど。

「うん。」

「はっきり言うけれど、私が傷跡を変える過程で今までウリカちゃんに起こったような事はないわ。」


マリアは幾度となく魔法を使ってきて、無いと言い切った。

でも、実際には起きている。

「可能性があるとすれば、外部要因。」

「えーと・・・」

「わかり易く言うと、ウリカちゃんの身体と、私の魔法以外の何かが魔法の効果中に影響したとか、反応したとか。」

と言われてもなぁ。

「流石に食事程度では影響はないはず。内臓をどうにかしたわけじゃないから。あるとすれば取り込まれた成分とか?」

私の魔法を受けてから、マリアが魔法を使うまで何日も開いている。

流石に当時の食べ物が影響したとは考えにくい。

食事から摂取される成分で変化があるとすれば、それはみんなに言えることだ。


「特殊な薬を使ったとか、身体に何か埋め込んだとか、別の生物の何かを身体に入れ込んだとか。自分の身体を構成している成分以外の何かが混じった可能性は考えられるかもしれないわね。」

私の魔法による火傷、は関係ないよねぇ・・・

「ウリカ以外の何かねぇ・・・」

と、考えていたら思い出した。

「あ!?」

「あ・・・」

私とウリカが同時に声を上げる。

「何か、心当たりでも?」

「ワタシ、おねぇのお腹を抉った時に、その皮膚と血を食べた。」

それね。

「ただ、他人の血や皮膚程度で影響するとも思えないよね。」

と、苦笑してみるがマリアは考える様に顎に指を運んだ。


「それが普通の人間だったらね。」

マリアは私を見て言った。

つまり、私は普通じゃない、塵だからという事なのだろう。

「でも・・・」

「普通の人と塵の血肉が同じという証明は出来ないわ。」

確かにそうだけど。

「でも、傷の治りが早い、身体能力が高い、魔力が高い、致命傷でも死なない、何より傷つこうが焼けようが跡も残らず変わらずに在り続ける烙印。違うところならいくらでもあるわ。」

・・・

マリアの言う通りだ。

意識しなくても、嫌というほど認識させられた事。

言葉にされてしまうと、私が原因でウリカの身体に変化を齎したのかもしれない。

そう思えてしまう。

どう言っていいのか、どうしていいのかわからないけど、ウリカに目を向けると笑みを浮かべていた。


「ワタシ、ウレシイよ。もし、おねぇの血のおかげでイマがあるなら。」

「でも・・・」

「本人が言っているのだから否定しない。それに、原因が確定したわけでもないでしょう?」

そう、だね。

何より、ウリカが受け入れてくれているなら、いつまでも私が引きずるわけにいかない。

「今の話しが本当なら、滓の顕現を塵の血が抑える事も出来るんじゃねぇか?」

突然割って入って来たグエンの言葉に、私とマリアは顔を見合わせる。

もしそれが可能なら、予防として被害を抑えられるかもしれない。

「確かに効果があればね。でも、現実的じゃないわ。」

「あぁ、まぁそうだな・・・」

「それに、誰がどこでいつ顕現するかなんてわからないわ。顕現した後は、もう手遅れだと思うし。」

一瞬、光明が見えた様に思えたが、現実は荊の道でしかない。

結局、今まで通りにするしかないのだろう。


「それより、そのヒト目開いてない?」

塵の血の話しを遮り、ウリカがレウを指差して言った。

「何!?レウ!」

確かに、目は開いている。

グエンが急いで近付くと、身体を抱き起した。

「レウ、無事か?良かっ・・・」

「いやぁぁぁぁぁっ!!」

グエンが抱き起した瞬間、レウはグエンを突き飛ばし手足を必死に動かしながら後退った。

瞳は恐怖に怯え涙を流し、口はガタガタと震え、両手で抱きしめた身体は酷く震えていた。


意識が無くなる前の恐怖だろうか。

レウにとって、何も終わってない。

途中で意識が飛んだなら、戻ったら続きでしかないのかもしれない。


「レウ・・・」

グエンはどうしていいかわからずに項垂れた。

私にもわからない。

「大丈夫よ。貴女を苦しめる人はここには居ないから。」

近付いたマリアが優しく、横から包み込むように手を回して言った。

ゆっくりとレウがマリアに視線を移すと、身体の震えが小さくなった。


暫く無言の時間が流れ、レウは呼吸も落ち着き身体の震えもほぼ収まった。

マリアに目を向け、私に目を向け、ウリカに目を向ける。

どうしていいかわからないけど、見られた時微笑んでみた。

視線を動かして周囲を確認しているだけの様だったので、何か与えられのかは不明。

「グ・・・エン?」

最期に、項垂れたままのグエンに視線が行き、小さく漏らした。

「あぁ。待たせて悪かった。ごめんな。」

顔を上げたグエンも、目に涙を浮かべながら静かに言った。


レウは聞くと、弱弱しい笑みを浮かべて、大粒の涙を流し口を開く。

「良かった・・・私を殺して。」

微かな声だったがはっきりと聞こえたその言葉は、時間が止まったように静寂を齎した。


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