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女神ノ穢レ  作者: 紅雪
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五章 在処ニ捧グ這生ノ炎 - 51.在処

「大丈夫、助かるわ。」

上に戻ると、マリアが女性の顔を拭いていた。

グエンの発した言葉から察すれば、彼女がレウなのだろう。

私が四肢を壊した男に犯されていた。

口や鼻から体液を垂れ流し汚れていた顔は、今マリアが綺麗したのだろう。

虚ろだった目は閉じられている。

それでも、腫れた目や鬱血した頬は綺麗にならない。

布を掛けられた身体はわからないが、手や足は痣だらけだ。


男の方を見ると、記憶にない状態に。

股間部分が血塗れで原型を留めていない。

ものすごい形相で泡を吹いている。

「もうイラナイと思って潰した。」

「・・・」

そう言ったウリカの言葉に、嫌な事を思い出したがすぐに振り払った。

「まだ殺さないでね、情報を聞き出さないと。」

殺そうかと思った瞬間、マリアが言った。

私ならやるだろうと思ったのだろうか。

でも正解。

言われなかったら殺していた。

「わかった。」


「何笑ってやがんだ!どういう事か説明しろって言ってんだろうがっ!」

外からグエンの怒鳴り声が聞こえて来た。

同時に、何かが地面にぶつかる鈍い音。

壁に空いた穴から、グエンが地面に横たわる男の胸座を掴んでいるのが見えた。

ウリカが殴り飛ばした奴だろう。


「今は意識を失っているから大丈夫。あっちから情報が聞けるかもしれないし、行きましょうか。」

マリアが促すので、三人で外に出た。

男の方は起きたら、激痛で喚くだろう。

対処はそれからでもいい。

どうせ動けないだろうし。


「察してる通りだと思うぜ。俺が売ったんだよ。」

男が薄ら笑いを浮かべて言うと、グエンがその顔を殴りつけた。

「ガキの頃から一緒に暮らしてきたから、お前らなら大丈夫だろうって思ってたのによ。」

「バカか。そんなのはグエンの思い込みだ。何時までも仲良しこよしでいられると思ってんのか?それこそ妄想だっての。」

呆れた顔をして男が言うと、グエンは拳を振り上げたがそこで止めた。

「レウはなんて言ったんだよ。」


「本当にてめぇの頭ん中は平和だなおい。てめぇの事が好きだったレウに言うわけねぇだろうが。どんだけバカなんだよ。」

「レウ・・・が?」

聞いたグエンは呆気に取られた表情になった。

手の力も抜け、男の胸座が解放される。

「レウも報われねぇな、こんなバカが相手じゃ。」

何を考えているかわからないけど、グエンが無言で項垂れる。

むかつく・・・

まだわからないかな。

と思ったらマリアが向かおうとした。


私はそれを止めて、グエンに向かう。

「なぁグエン、俺らを此処に縛り付けておいて、自分は綺麗どころ引き連れてるなんざいい身分だ・・・」

「少し黙ってろ。」

続ける男を睨むと黙った。

お前の話しはいつでもいいが、この阿呆は今すぐ引き摺ってでも戻さないといけない。

「!?」

私はグエンの髪の毛を掴むと、地面に顔から叩きつけた。

「あんたはまだわかんないのか!!」

さっきの自分を棚に上げたっていい。

そんなのは、私だけで十分だ。

「そうやって、事があるごとに顔を背けんのか!」

「う、うぅ・・・」

横たわったまま、グエンは呻きを漏らしながら拳を地面に打ち付けた。


「そこのバカは気にせず続けろ。グエンへの思いは抜いて経緯だけ話せ。」

私が男に向かって言うと、静かに頷いた。


「もともと、俺らは三人で質素だが普通に暮らしていた。もちろん、塵の事を聞かされてはいたが、暮らしに不満は無かった。」

さっきまでとは別人の様に、男は静かに話し始めた。

「ある時、目的だった塵の情報が入ったんだ。グエンはその情報を得ると、すぐに向かって助け出してきた。」

「それが、地下にいた子?」

「そうだ。それで、前から少しずつ構築していたこの隠れ家に、その日のうちに引っ越した。」

その日のうちね。

バカじゃないじゃん。

ちゃんと、助けて追われない様にすぐ身を隠したんじゃん。

「必要最低限の物しか持てない。こんな何も無いところ、面白くもなんともねぇ。それでも、使命感はあったさ。」


「暫くして、エルメラから連絡が入った。そのために、グエンは此処を俺らに預けエルメラの元へ向かった。」

少し間を置いてから男が続ける。

問題はここからか。

「いつ戻るかわからねぇ。この場所は何も無さすぎる。気が狂いそうになるまでそんな時間は要らなかったさ。」

「誰かに言えばいい。レウには言わなかったの?」

気持ちはわからないでもない。

だからこそ、誰かが居れば。

この男には、レウが居たはず。

「はっ・・・そこのクズに傾倒したあの女は、『メウ、これは私たちの大事な使命なのよ、私たちはグエンを信じて待っていればいいの』と馬鹿の一つ覚えでそれしか言わなかったさ。」


そうか、この男がメウか。


それは、孤独感しか生まない。

メウとレウは見ている先が違った、信じているものが違った、だから会話が嚙み合わない。

「俺が目に入っていないあの女に腹が立って、壊してやりたくなった。だから遊んでやったら、その瞳からは感情が無くなった。俺に犯され、殴られ、蹴られても毎日無表情でガキの手当てをしてそこのクズを待ってたよ。」

「お前ぇぇぇっ!」

そこでグエンが飛び起きてメウに掴みかかろうとした。

「黙ってろ!」

私はグエンを蹴り飛ばす。

悪いけど、あんたの中途半端な態度は今は邪魔なのよ。

「いいから続けろ。」

メウはグエンを見ていたが、すぐに私に向き直ると小さく頷く。


「もうこの場所に居たくもなく、町に出て憂さ晴らしをしようとした。」

それで気が晴れればいいけど、そうはならないわよね。

「飲んでいる時、声を掛けて来た奴が居たんだ。突然居なくなった三人暮らしの家族、塵救出のために起きた惨劇。俺がその中の一人だって察しは、顔を知っている奴なら容易い事だったわけだ。」

それはそうでしょうよ。

だから、この場所で耐える事を選んだわけだもの。

「大金と引き換えに居場所を教えたさ。もうレウも、ガキも、グエンもどうでも良かった。俺だって普通に町で暮らし、遊んで、女と一緒に暮らす、そんな普通を求めたっていいじゃねぇか。」

それは勝手だが、その前に行った事にはけじめが必要ね。


「あと数日、お前らが遅かったら遠くに逃げてたのによ。結局、俺の人生糞みてぇなもんだったな。」

自分で選んだんだろうが。

「待てば、三人でエルメラのところに移動出来たでしょうに。」

「お前にわかるかよ!何日?何カ月?何年?どれだけ待てばいいんだよ、ただ待ってろの一言でここに縛り付けられたこっちの精神が持つと思ってんのか!?」

メウは涙を流しながら喚き散らした。

「あの女なら出来たんだろうが、俺には無理だ!こんな場所で、何に縋れってんだよ!」


広い意味では、塵側に居た所為で起きてしまった事。

かもしれないが、人としての垣根を越えてしまったのも事実。

「そう。あなたは地下で何をしていたの?」

「俺は案内しただけだ。あいつらが斬りつけたところで、上が騒がしくなったから戻ったらこの様だ。」

聞いたところで、私の中で何が変わるわけでもないけど。

「はは、もういいだろ、早く殺せよ。」

それは、私が決める事じゃない。

ただ、場合によっては殺すけど。

「最後にくそむかつくあの女を順番に犯すように言った。それで俺の気も少しがっ!」


起き上がったグエンがまたメウの顔を殴った。

口の端から血が滴る。

呼吸で開けた口の中は真っ赤だったが、メウは嗤いながらグエンを見た。

「汚ねぇ面だなグエン。」

「まったくだ。外だけじゃなく中身までも糞まみれみてぇだったな。」

「あん?」

「メウ、悪かった。」

「何言ってんだ、ついに頭ん中まで壊れたか?」

「いや。俺がもっとお前らの事を見ていたら、思いを感じられていたら、考えを汲み取れていたら、言葉をもっと伝えられていたらと、後悔しかねぇ。」

グエンは泣きながら、悔しそうに言った。

「今更でしかねぇが、配慮が足らなくてごめんな。」

「・・・ほんと、今更過ぎんだろ。」


「なぁメウ、今からでも・・・」

「やめろ!!もう・・・無理なんだよ。」

さっきまでとは違って、メウは子供みたいに、凄く悲しそうな顔をして泣いていた。

子供みたいじゃない。

きっと、子供のまま今になってしまったんだ。

「最後まで押し付けて悪ぃが、終わらせてくれよ。」

もう、メウに生きる気力はきっと無い。

私には、そこから救い上げる術も無い。

死ぬことで、救われる事なんてあるのかな?

「そうか・・・」


「あんた。このヘタレには無理だろうから、やってくれよ。」

「なんで私・・・」

メウが私に向かって言ってくる。

私は殺し屋じゃないんだけど。

「なんか、俺に一番寄り添ってくれたっぽいから。」

「どこが?」

「ちゃんと話し、聞いてくれたじゃねぇか。」

泣いて顔がぐしゃぐしゃだけど、そう言って笑みを浮かべたのはわかった。

「はぁ・・・特別だからね。」

「へへ、ありがとな。」


私はメウに向かって右手の人差し指を向ける。

黒い奔流が身体の中を駆け巡っている様。

きっと、さっきの残りだ。

でも私はもう迷わない。

私の居場所は此処にある。

ウリカをもう不安にはさせない。

ウリカが私の在処を作ってくれた。

だから、どんな目に遭っても、泥水を啜ろうが、這ってでも生きて守っていきたい。

その私に、もうアリーシャが放ったであろうこの奔流は必要ない!

「黒点!」

身体の中を駆け巡る様な奔流は、言葉と同時に指先から抜けて行った気がした。


メウの周囲に黒い光が鏤められたように煌めくと、天を衝くような黒い光の柱となった。

あまりに短い時間だったけど、メウが居た場所は黒く染まり何も無かった。

まるで、あの消えた町があった大地の様に。

(ガリウに使った煌燼とは、まるで正反対の様な魔法・・・)


「苦しまなかったかな・・・」

せめて、それが救い。

「アリア、ありがとう。」

グエンは地面に膝を付いて言った。

ずっと涙が止まらないようだったが、知らない。

「そんなところに膝を付いている暇なんてないでしょ。レウはまだ生きてるんだよ。」

言うと勢いよく顔を上げ、小屋を目にすると駆け出した。


「これで、良かったのかな。」

「いいんじゃない。」

マリアが小屋に飛び込んでいくグエンを目にして言った。

同時に、ウリカが抱き着いて来る。

「おねぇ、かっこいい!」

えぇ。

私は可愛いって言われたいんだけどなぁ。

「お姉さん気付いちゃったわ。」

マリアが笑みを浮かべて突然そんな事を言い出した。

嫌な予感。

マリアのあの笑みは、ろくな事じゃない。


「私たち塵の中で一番恐いの、アリアちゃんだわ。」

いや。

「なんか言った?」

って笑顔を向けたら、マリアも小屋へ向かって行った。

もう・・・




五章 了


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