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女神ノ穢レ  作者: 紅雪
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一章 友ニ捧ぐ塵灰ノ光 - 4.嫌悪


お金が・・・

街を出る前にガリウの衣類を調達した。

毎回川で洗って乾くまで裸放置は勘弁してくれ、って言うし。

それと、獲物を捌く用に一番安い短剣を買い与えた。

少しは自活出来るように。


多分、次の目的地でお金も厳しくなる。

となると、どこかで仕事をして貯める必要があるかなぁ。

暫くは節約しながら向かわないと。

と言っても、次の街に着くまではほぼ野宿だからそこまで切羽詰まらいと思うけど。


私はそんな事を考えながらホーリエルの街を出た。






「エルメラデウス様、偵察からの伝言が届きました。」

店先のテラス席で紅茶を飲む女性に、燕尾を着た中年男性が近付き一礼すると伝えた。エルメラデウスと呼ばれた女性は笑みを浮かべる。

「ホーリエルを出たか。」

「はい、ご推察の通りでございます。」

「馬車の準備は出来ておろうな?」

エルメラデウスは笑みを浮かべたまま中年男性に細めた目を向ける。

「は、滞りなく。こちらへ回しましょうか?」

「よい。市井の民に迷惑故、余が向かう。」

「承知しました。」

エルメラデウスは立ち上がると、小さな鞄から紙幣を取り出した。

「悪いがエウス、代わりに支払いを頼む。」

「は、少々お待ちを。」

エウスと呼ばれた中年男性は、エルメラデウスから紙幣を受け取ると、足早に店内へ移動した。


「急がずともよい、どうせ道中で鉢合うのだからな。」

会計を終わらせたエウスが戻るとエルメラデウスは言いながら軽く手を振る。

「恐れ入ります。」

エウスはテーブルに立てかけてあった日傘を手にすると、開いてエルメラデウスの頭上に差し、先導するため前に回り込んだ。

「’ハ’の目的地は此のセアクトラ故、道中必ず接触する事になる。」

腕を組みゆっくりと歩き始めたエルメラデウスは街道へ目を向けながら言った。

「寄り道で街道を逸れても問題無い様、監視には伝えてあります。」

「うむ。」

周囲を警戒しながらエウスが伝えると、エルメラデウスは前に向き直り嗤った。

「さて、何処まで知っておるか、どの様な反応をするか、楽しみよのぅ。」






「服の金はいつか働いて返す。」

街を出てすぐに、ガリウが言ってきた。

一応、遠慮はあるらしい。

出来ればそうして欲しい。

「いいよ、今回は。」

だけど、服も買えない状況にしてしまったのは私。

復讐だからそこまで考えてあげる必要は無いと思っているけど、一緒に旅をするなら考える必要があると思ったから。

「なら、働いて金が手に入ったら何か奢るよ。」

「そう、楽しみにしておく。」

それなら目標値、という範囲だからいいか。

生きるか死ぬか、その垣根を彷徨っている状況だから口約束なんて無いに等しい。

でも本人がそうしたいという思いまで、否定する必要もないよね。

だから、今はそれでいい。


「ところで、目的地聞いてねぇんだけど。」

「あっち。」

私は道の先を指差す。

「いやわかんねぇだろ!こっちは村以外知らねぇんだよ!」

進む先だけじゃダメなのね。

ワガママ。

「街道を歩いていくと街がある。」

「それくらいわかるわ!街と街を結ぶ道だから街道だろ、バカにしてんのか。」

あ、なるほど。

そうなのね。

「もっと名前とか、名物とか、大きさとか、そんな情報は無いのかよ。」

面倒だなぁ。

着いたらわかるじゃん。

「知らない方がワクワクする。」

「しねぇわ!」

してよ。

「情報を聞いた方がするもんだろ。」

「あんまり騒ぐとお腹空くわよ。」

「だ~か~ら~・・・」

ガリウはそこまで言うと、溜息を吐いて続きを言うのを止めたみたい。


でも、何れは知る事になるから、今話しても変わらないのよね。

「旅は道連れって言うし、覚悟はあるのよね?」

昨日聞いたけど、再確認しておく。

私自身、あまり話したい内容じゃないし。

「あ、あぁ・・・イヤな内容なのか?」

騒いでいたガリウも真面目な表情になる。

そこまで構えて聞く必要もないんだけど。

「私にとってはね。真面目に捉えなくていいから楽に聞いて。」

「分かった。」

村ぐるみで私とお母さんを殺した奴等には復讐を果たした。

次に向かうのは、父だった物が居る場所。

お母さんと私を放り出し死地に追いやった。


「これから向かう場所はリグレテス領にあるセアクトラという街。」

そこにあいつが居る。

「大きいのか?」

「大きいと思う。領主館があるから。」

「知らないのかよ。」

「行った事がないもの。」

そう。

正確には物心着く前、生まれた時に少し居ただけ。

そんなもの、覚えているわけがない。

「まさか、街ごと燃やすとか言わないよな?」

「街ぐるみなら果てるまでやったかもしれないけど、今回は違う。」

「なら、いいけどよ。」

良くはない。

多い少ない、大きい小さいの問題じゃないもの。

私とお母さんの結果に関わった奴等全員なのよ。

「良い悪いをガリウが判断しないで。一人だろうと街ごとだろうと私の復讐。規模は関係無いの。覚悟ってそういう事なのよ?」

「・・・ごめん。それと、わかってる、ちょっと口に出ただけだ。」

本当にそうなら良いけど。

今後、都度こんなやりとりはしたくない。

申し訳なさそうにしようとも、譲る気はない。


「でね、狙うのはその領主館。」

「は?まさか・・・」

そう、そのまさか。

領主、ケイヴス・グエフェルが私とお母さんを放り出した当人。

「これでも令嬢だったのよ。」

「あ?」

あ?って何よ。

疑わしい目を向けてガリウに目を細める。

「何て言うか、想像つかねぇ。そもそも令嬢なんて別世界の人間くらいにしか思ってねぇし。」

まぁいいわ。

それならそれで。

「あまり変な事を言うとご飯無くなるからね。」

「え、いや、それは勘弁。」

ふふん。

暫くはご飯でいけるね。

焦るガリウを見て、今まで感じた事の無い気持ちになる。

これ、なんだろ?


「察したと思うけど、ケイヴスが私の父で、私とお母さんを捨てた。」

名前を口にした途端、吐き気が込み上げる。

「それって、前に言っていた女神のなんちゃらが関係しているのか?」

そう、女神の浄化の塵。

それを言おうとしたが、言葉が出ない。

何故かガリウの表情が恐怖に変わっていた。


ケイヴス・・・

こんなに気持ちを逆撫でするとは思わなかった。

1回口にしただけなのに。

気持ち悪い。

殺したい。

ケイヴス・・・

ケイヴス。

ケイヴス!

「ケ・・・うぇっ・・・」

「・・リア。」

胃液が逆流してくる。

ケイヴスも、その家族も、全部殺す。

何もかも燃やしてやる。

私が受けた苦痛を味わわせたい!

恐怖を刻み付けたい!

何もかも・・・

存在自体滅茶苦茶にしてやる!

「アリア!!」


「・・・」

ガリウが涙目になりながら私を見ていた。

右手が上がり人差し指を虚空に向けている。

「元に、戻った・・・」

戻った?

私の事?

ガリウの言っている事がよくわからない。

自分で自分が見えてないからかな。

「大丈夫か?」

またなのね。

「うん。」

「ごめん、話したくない事、話させてしまって。」

「ガリウは悪く無い、気にしないで。」

これは私の根幹に在るもの。

だから、ガリウは関係無い。




「女神の浄化の塵は、その言葉が示すように穢れを祓って堕ちるもの。」

進むだけ進んで、今は野宿をしている。

街で食料は買ったものの、生ものは痛むので買ってない。

幸い、この辺にも川があるので魚を現地調達。

「話して、大丈夫なのか?」

「これに関しては。それに、知らないなら教えておくね。」

「あぁ、ありがと。」

気分も落ち着いたので、あの名前さえ出さなければ。

それに、女神の浄化の塵は私だけの話しじゃない。

「その塵は地上に堕ちて、人に付着してしまう。」

「イヤな奴だな、女神。」

確かに。

本当よね、こんな事になるんだから。

「女神、だからか人間の妊婦に堕ちて、生まれて来る子供にその塵が付着する。と言われているの。」

妊婦以外に付着した、という話しは語られていない。

だとすれば、その確度は高いと思える。

「いい迷惑だな。その塵が付着するって何人もいるのか?」

「居るらしいけど多くはない、と聞いているわ。」

そう、数は少ない。

でもどれだけの人間が現存するか、そこまでは分からない。


「生まれた子供は烙印と呼ばれるものが、身体に付いている。だから、生まれた時点でわかるのよ。」

「アリアも在るって事か?」

「うん。」

多分、ガリウも目にしたかもしれないけど、夜だったし傷だらけの方が印象に残ったかも。

「ちなみに何処に出来るんだ?」

普通乙女の秘密を聞く?

「え、ヤダ、変態・・・」

「何でそうなるんだよ!」

ガリウは立ち上がって声を大きくした。

「女の子の身体の秘密を聞こうとするなんて・・・」

「そうだ!何で俺はそんな事を聞いちまったんだ・・・」

今度は頭を抱えて悶えている。

面白いから放っておこう。


私の場合は背中。

右の肩甲骨あたりに存在する。

痣の様なものかと思って、鏡を使って見た事がある。

何かの紋様のような印がそこには在った。

不思議な事に、背中も傷だらけなのにその印だけは傷ついていない。


「続けて良い?」

「あ、うぅ・・・」

まだ立ち直れていないようだけど、飽きた。

「烙印を持って生まれた子は、忌み子として扱われる。」

人間なのに、人間扱いされない。

どこまでいっても不浄な存在として見られる。

「イミゴ?」

「うーん、不吉な存在、みたいなものかな。街が滅ぶとか、国が亡ぶとか、大げさだと世界が滅ぶとか。だからその前に殺そうとするのよね。そうする事で、初めて塵は消えゆくんだと。」

「バカじゃねぇの?」

あ、立ち直ってる。

そのうちからかおうっと。

「今、そう思えるのは、目の前に私がいるからじゃないと言える?」

「・・・」

そう、そこが問題。

大衆心理は覆らないし、個人の思いを無視する。

「責めているわけじゃないの。人間はそうだと言っているだけ。それに特異な力を持って生まれるため忌み子として恐怖されるというのも一理あると思う。」

認めるわけじゃないけど、それが人間。


「アリアの言う通りだ。あの村に居て、そうだと教えられたらそういうものだと受け入れていたと思う。」

素直ね。

物分かりがいいというか。

まぁ、私が壊滅しちゃったけど。

それは私だけの復讐。村が1つ亡くなったからと言って、塵に対する世の中の認識が変わるわけじゃない。

「はい、説明は終わり。」

どう受け取るかは、ガリウ次第。

結果をどうこう言うつもりも無いし。

「少なくとも、俺はアリアをそんな風には見てないからな。」

「どうも。」

そういう事は顔を逸らさずに言ってよね。

「もう寝る。」

ガリウはそのまま横になってしまった。

今、どんな事を思って言ったのか、私にはわからない。

少なくとも、話しを聞いてくれて、敵意を持たれなかった事は良しとしておこうかな。


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