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女神ノ穢レ  作者: 紅雪
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五章 在処ニ捧グ這生ノ炎 - 48.同行

翌日、朝早くから馬車に乗った。

国境付近にある町、カウレシオに向かう乗合馬車に。

経由する街や休息地を挟んで、五日の旅。

乗合馬車はカウレシオに向かう人だけじゃない。

途中の街で降りる人も居れば、乗ってくる人も居る。

メイオーリアでは、ほぼ馬だったし、エルメラが手配してくれていたので乗った事は無い。

街を抜け、景色が変わらなくなると私は目を閉じた。



-同日 ニーメルラッゼ家執務室-

「フィナ。」

「承知しているわ。うちはメイオーリアへ行けばいいのね。」

執務机の横に佇むフィナメルシェに、リヴィラエは視線を向けずに話す。

「話しが早くて助かる。」

「うちが居なくて大丈夫かしら?」


「居た方が良い気に決まっている。だが、この好機を逃す方が私にとって面白くない。」

リヴィラエは立ち上がると、窓の傍に行き外の景色に目を向ける。

「恩を売ってくるがいい。私の都合の良いようにな。」

「それはもちろんだわ。」

フィナメルシェは当然だと言うが、リヴィラエは遠い目をして今を見ていない気がした。


「遅かれ早かれ技術流出は起きる、それが盗まれるのか、売るのか、提供なのか。だがそれは問題ではない。」

突然話し始めた内容に、フィナメルシェは黙って耳を傾ける。

「私はその中心に居たいのだよ。この国の中枢として。」

振り向いたリヴィラエは不敵な笑みを浮かべてフィナメルシェを見た。

「うちも一緒?」

「当然だ。特等席だろ?」

「えぇ、そうね。」


「何れ火薬を含めた燃料を使用する機器が波及していくだろう。そうなれば、多かれ少なかれ動乱が起きる。」

リヴィラエはまた窓の外に身体を向けた。

「個人が技術を手にすれば利便性を考慮するだろうが、国が手にした場合は誇示の道具になる。」

「それを、貴方が導くと?」

「そうだ。貴族院の連中は馬鹿ではないが、現状維持が出来ればいいと思っている。それは停滞を生み、時代に遅れ、気付いた時には朽ち果てている。」


「さて、ここまでは一般的な話しだ。」

リヴィラエは再びフィナメルシェに身体を向ける。

「エルメラデウスが塵を集めて何を企んでいるかだ。集めているという事は、塵が何人も必要なのだろう。」

「それで、恩を売れなのね。」

「あぁ。それと天馬の構造が知りたい。修理で預かったが、修理を優先で構造までは把握できていないからな。」

リヴィラエは目を細めると、口の端を上げた。

「遺物と言っていたが、塵に都合のいい遺物が見つかるとは限らない。だったら作ればいい。フィナの魔法を原動に動作する機関をな。」

「ふーん。」

フィナメルシェもその言葉に妖しい笑みを浮かべた。


「火薬や石炭といった資源燃料を使った機関は進化していくだろうが、私が作りたいのはそこに魔法を加えたものだ。塵は何れ進化した各道具に手も足も出なくなるだろう。だが、自分の魔法を使って利用出来る道具があれば話しは変わる。」

「魔法使いの在り様も変わりそうね。」

フィナメルシェは言うと、リヴィラエの後ろに広がる景色に憂いの目を向ける。

「歴史の流れは止められない。なら私は、渦中にいたいと思っている。」

「変わって、行くのね。」

「あぁ、もう止める事は出来ない。」

リヴィラエの想定する未来を考えると、フィナメルシェは多少寂しくなった。

今のまま、一緒に過ごすのが当たり前だと思っていたから。

環境が変わるという事は、その中にいる人間の思考も行動も変化する。

何れ、リヴィラエも変わってしまうのかと思うと。


「憂うな。私は私のままだ。フィナを迎えに行った時からな。」

見透かされた様に言うリヴィラエは、変わらず不敵な笑みを浮かべていた。

「はい。」

フィナメルシェはその言葉に、笑顔で頷いた。

この態度こそが、一緒にいたいと思って来たリヴィラエだと思えば。






アリアーランが旅立った翌日、エルメラデウス一行はニーメルラッゼ家を訪れていた。

「天馬の修繕は終わっています。」

「うむ、世話になった。」

「初めから貴女と話せたらどんなに良かったか。伝手も無い中、ヘルベイウに釣られた事が悔やまれる。」

リヴィラエの言葉に、エルメラデウス笑みを浮かべる。

「気にするでない。怪我の功名ではないが、余も得られるものが多かった。お互い、それで良いのではないか?」

「配慮いただきありがとうございます。」


エルメラデウスは修理された天馬の外装に触れる。

「外装と車輪は修繕できましたが、内部の機関については構造が不明なため触れていません。」

「じゃろうな。余もわからん。」

リヴィラエはその言葉に一瞬顔を曇らせたが、悟られないように直ぐ消した。

「領を取り戻したら連絡する故、暫し時間をもらうぞ。」

エルメラデウスの合図で、リリエルが後部座席に乗り、続いてエウスが操作席に移動した。

「はい、問題ありません。楽しみにしております。」


「え?なんで乗ってんの?どっか行くの?」

いつの間にか乗り込んだフィナメルシェに、リリエルが疑問を向ける。

「うちも同行させてもらいます。」

「はぁっ!?」

後部座席に座ったフィナメルシェが微笑んで言うと、リリエルが大きな声を出した。

「どういう事じゃ?」

「入用では?」

エルメラデウスが剣呑な目をリヴィラエに向けると、笑顔で受け流し言う。

「塵として利用していただいて構いません。どうか、フィナに知見の機会を。私ではどうにもなりません事ですから。」


「そういう事ならば、預かるとしよう。」

頭を下げるリヴィラエに、エルメラデウスは言葉を投げると天馬に乗り込んだ。



「どの様に向かいましょうか?」

「一度ミェインツで休憩を取るのじゃ。サリュヘンリオは夜のうちに抜ける。あそこにはまだ狸の兵がおるじゃろうからな。」

「承知致しました。」

エウスは言うと、手綱を振って馬を歩かせる。

「では改めて名乗りますね。フィナメルシェ・トルシュ・レ・メルディアです、道中よろしくお願いします。」

「えぇ!?」

フィナメルシェが名乗ると、リリエルが驚き声を上げながら本人を上から下まで見る。

「エルは知ってたの?」

知らなくても驚きはしないだろうと思ったが、既知かどうかを確認した。

「うむ。そちらの意向で伝えてはおらぬ。別に困る事もなかろう?」

「ご配慮ありがとうございます。」

「そうだけどさ、なんか仲間外れみたいじゃん。」

笑顔で言うフィナメルシェを見ながらリリエルが不満を口にした。

「別にお主だけではない。察する察しないはあるやもしれぬが、誰にも言ってはおらぬ。」

「まぁいいけどさ。よろしく。」

「はい。」

まだ腑に落ちない感はあるものの、リリエルの言葉にフィナメルシェは笑みを浮かべて返事をした。


「ところで、リヴィラエとはどの程度の関係なの?」

塵である事よりも、リリエルは二人の関係の方が気になり興味を顕わにする。

「えっと・・・主と従者。だけなんですが、それじゃ納得しなさそうな雰囲気ですね。」

リリエルの輝きを増した瞳を見ると、フィナメルシェは苦笑しながら言った。

「余計な事は詮索するでない。」

「えー。じゃぁ王様との関係、詳しく聞くけどいい?」

「さて、暇じゃし仮眠でもとるかの。エウスよ、後は頼んだ。」

「はい。」

矛先が自分に向いたところでエルメラデウスは話しを逸らし、ミェインツまでの道程をエウスに頼むと目を閉じた。



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