五章 在処ニ捧グ這生ノ炎 - 46.困惑
腹部に奔る痛みで目が覚めた。
目の前には睨み付けて来るウリカ。
私は、ウリカにお腹を殴られたらしい。
「死にたいんだぁ?ワタシには好都合だけ・・・」
「ウリカ・・・ウリカ!良かった!」
目が覚めたウリカを見ると涙が溢れて来る。
顔は霞んでよく見えないけど、私は強く抱きしめた。
「ちょっと、何してんの!」
「だって、目が覚めなかったらどうしようって。」
「お姉さんがやったんじゃん。何言ってんの!」
腕から逃れようとするウリカだけど、戸惑っているのか強引さは感じない。
「なんで、ワタシと一緒に寝てるの?」
「起きるの、待ってた。」
良かった、嬉しい。
マリアにもリリエルにも、またお礼しなくちゃ。
「バカじゃないの。どうして助けたのよ、居場所が無くなってまで生きたくない。」
「ウリカを見てたら、私を見ている気がした。」
「意味ワカんねぇし。」
「私、塵だから昔酷い事された。で、その村の人間皆殺しにして家も全部燃やした。」
「・・・だから?ワタシと同じだって?」
ちょっと違うかな。
「そんな目に遭わせた事に関わった奴、全部殺す。それだけが私のすべてだった。」
「・・・」
「でも、生きる事はそれだけじゃないって、気付かせてくれた人達が現れた。」
何を思っているのかわからないけれど、ウリカは黙って聞いてくれている。
私の我儘でしかない。
受け入れられないかもしれない。
でも、気持ちだけは伝えておきたい。
「私はウリカの居場所を奪ってしまった。」
「今更・・・わかってた事じゃん・・・」
「私はウリカの居場所になりたい。」
「奪っておいて?」
そう。
わかってる。
でも決めたから、強引にもなってみる。
「そう。ご飯を一緒に食べて、服を一緒に買いに行って、お茶したり、散歩したり、旅行したり、一緒にしたい。」
「殺そうとしたくせに・・・」
「その時までは、復讐しか見えてなかった。」
「ふぅん。死ななかったから助けてやろうって?」
「わかんない。でも、闘っている最中、私はウリカの居場所になりたい!って思ってしまった。」
「なにそれ、本当に意味ワカんないょ。」
「私も。」
いつの間にか、お腹に押し付けられていたウリカの腕から力が抜けていた。
「復讐しかなかった私は、いつの間にか居場所をもらっていた。それが無かったら、きっと殺していたかもしれない。」
「・・・」
「あの人達に居場所をもらったから、私もそうなりたいって思った。」
ウリカは抵抗もせずに話しを聞いてくれている。
伝わっているのいないのか。
今の私には、自分の気持ちを話すしかできない。
「売られた時、絶望を感じた・・・」
きっと、両親の時かな。
「真っ暗だった。世界が見えない。生きている感じがしない。」
そっか。
「デダリオに連れられた。もう殺されようがどうでもいいと思った。」
デダリオは、何を思ってウリカを引き取ったのだろう。
今となってはわからない。
「いつしか、デダリオと居るのが当たり前になった。デダリオの仕事に加担させられたけど、必要としてくれた事が嬉しかった。」
そうか、そうだよね。
「同時に、怒りが込み上げた。だから、あいつらに会った後、村ごと潰した。」
それが、デダリオが言っていた消えた村か。
「デダリオは、娘として扱ってくれてたと思う。」
たぶんそれ、合ってるよ。
デダリオ、ウリカの未来を心配してたもの。
「それも、お姉さんに奪われた。」
「うん、ごめん。」
「・・・」
自分の事を静かに語ったウリカは、それから少し黙ってしまった。
「お姉さんは、裏切らない?死なない?」
何も言えず黙っていると、私を見て聞いて来た。
「うん。」
「そう・・・」
それからまた沈黙が流れると、ウリカの閉じた目から涙が溢れていた。
「じゃぁ、ちゃんと、居場所になってよ。」
「うん。」
私は頷くと、ウリカを抱く腕に力を込めた。
「あれ・・・」
どれくらい時間が経っただろうか。
どれだけでもいい。
ウリカが落ち着いてくれるなら。
「どうしたの?」
疑問の声をだしたウリカに聞く。
「腕が・・・って、火傷も?」
ウリカは自分の身体を見て怪訝な顔をした。
「魔法で治してもらった。」
「そんな事、できるんだ。」
「不思議だよね。私も身体中傷跡だらけだったけど、ほとんど消してもらった。」
「そんな事まで・・・」
本当に、未だに信じられないけど、マリアの魔法はすごい。
「アリア、いつまで寝ておるのじゃ!」
その時、部屋の扉が勢いよく開かれエルメラが入ってきた。
私とウリカは驚いて同時に目を向ける。
「なんじゃ、起きておるではないか。早う食事をするのじゃ、片付ける方の事も考えよ。」
「ごめん、今行く。」
言うだけ言うとエルメラは去っていった。
「行こ。」
そう言って手を差し出すと、ウリカは無言で頷き私の手を取った。
食事をする部屋に入ると、マリアとリリエルが二度見してきた。
私を確認したあと、一緒にいるウリカに驚いたのかな。
「目が覚めたんだ!」
リリエルが嬉しそうに言った。
「お姉さん憔悴しているのに、アリアちゃんちっとも看病してくれなかった。」
あ、ウリカの事じゃないんだ。
でも、マリアが居たからこそ。
私はマリアの後ろに近付くと、後ろから抱き着く。
「マリア、本当にありがとう。」
「うーん、今はこれで我慢してあげるわ。」
今は?
我慢?
何を?
とりあえずマリアは放置して、ウリカを手招きする。
「一緒に食べよ。」
こくんと頷くと、隣同士で座って朝食を食べた。
いつ目覚めるかわからないウリカの分は用意されていない。
だから、半分こ。
なんか、闘った時までと態度が違う。
理由はわからない。
大人しいのは、何故だろうか。
食事をしながら、ウリカにリリエル以外を紹介する。
「あ、そうだ。私ね、バルグセッツに行かなきゃならないの。」
ウリカが目覚めるかどうか、数日待たせて欲しいって待たせてもらってた。
「え、お姉さんいなくなっちゃうの?」
パンを齧っていたウリカが私を見る。
その目は、不安と怒りが混じっているように見えた。
わかってる。
「ううん、ウリカも私と一緒に行くの。」
「ワタシ、も?」
「うん。嫌?」
「・・・行く。」
瞳から不安や怒りは消えたような気がする。
変わりに、戸惑っている感じ。
かわいい。
妹というものがいたなら、こんな感じなのかな?
「おいおい、家族旅行かよ。遊びに行くんじゃねぇんだぞ・・・」
口を開いたグエンを睨んだけど、こっちを見ずに食事を続けていた。
見はしないけど、聞こえる様に言ったところがちょっと態度悪い。
「止めよ。そこまでにしておくのじゃ。」
「後腐れなくはっきりしておこうぜ。」
グエンはそこで食べるのをやめ、私に目を向けた。
「俺も含め塵の扱いに対し、エルメラに同調しているから協力している。必要だから二人の同行も問題ない。だが、ガキのお守りまで請け負うつもりは・・・」
「黙れ。」
「なっ・・・」
真面目な表情でグエンは言う。
言った内容は、もっともだとわかっている。
でも、私はそれを許容できない。
「あ、アリアちゃんのその目久々に見た。おっさん、その辺にしとかないと首飛ぶよ。」
「なんだそりゃ!?」
「リリエルは私を何だと思ってるのよ。」
もう。
そんな事はしないってば。
顔を逸らしたリリエルはさておき。
「グエンの言いたい事はわかった。でも、私も譲れない。ウリカとは一緒にいたいの。」
隣に居るウリカの肩を抱き寄せて言う。
今手を離したら、きっともう二度と触れる事が出来なくなりそうだから。
これ以上、ウリカの心に闇を落とすわけにはいかない。
そう思ってグエンの目を見返す。
「二人とも余にとっては必要な存在じゃ。どうしても嫌だと言うなら、交代するしかないのう。」
エルメラがそう言ってくれたのは嬉しかった。
例え、それが利用という目的から出た言葉だったとしても。
「あたしはおっさんのお守りしたくないんだけど。」
エルメラに目を向けられたリリエルが嫌そうな顔をする。
「おい・・・」
それにはグエンも納得がいかなさそうにリリエルを睨む。
「わかったよ。」
グエンはやれやれという様に両手を上げて言った。
「ただし、何かあっても俺は手を貸さんからな。」
「別にいいよね?」
「うん、いい。」
私がウリカに向かって言うと、ウリカも頷いた。
聞いたグエンは何故か不満そうな顔をしている。
「おっさんあれか、かまってちゃんか?」
「違ぇよ!」
それを見たリリエルが冷めた目で言うと、いつものグエンになった。
「さて、時間も無い事じゃ、明日には向かうがよい。」
食事が終わると、エルメラがグエンに言う。
「言われなくても。予定より遅れているからな。」
と、私に向かって言う。
納得して待ったくせに、嫌味とか大人げない。
「明日出発だから、この後街に買い物行こうか。」
「うん、行く。」
起きたばっかりですぐ長旅は、大変だろうけど。
「目覚めたばっかりなのにごめんね。」
「いい、ワタシの居場所はもうココじゃないから。」
「あ、あたしも行きたい!」
街に行くことに、リリエルも便乗してきた。
私がウリカを見ると、頷く。
「じゃ、三人で行こう。」
「うん、準備してくる。」
リリエルが部屋から出ると、私とウリカも出た。
「私はまだ体力の回復が必要だからゆっくりしているわ。」
マリウテリアも部屋を出ると、残ったグエンが天井に目を向ける。
「どいつもこいつも、聡いというか、ガキらしくねぇな。」
「生まれた境遇、世の中の環境が、子供でいる事を許してはくれぬからじゃ。お主だってそうであろうよ。」
天井を見たままのグエンに、エルメラも目は向けずに言った。
「・・・もう忘れた。」
グエンはそれだけ言うと、部屋を後にする。
「エウス。」
「はい。」
「グエン達が出発したら、余らもメイオーリアへ帰るぞ。」
「承知しております。」
「うむ。いよいよ狸狩りじゃ。」
エルメラは言うと不敵な笑みを浮かべ、紅茶を口に運んだ。




