表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神ノ穢レ  作者: 紅雪
46/72

五章 在処ニ捧グ這生ノ炎 - 45.取引

「遠路ご足労いただき感謝する。ニーメルラッゼ家当主、リヴィラエと申します。」

フィナメルシェに屋敷内を案内され、通された部屋に入るなり直立していた男性が言い頭を下げた。

「此度は時間をいただき感謝致す。顔を合わせるのは初であるが、名は認識いただいておるじゃろう、エルメラデウスじゃ。」

「もちろんです。先ずは腰掛け、寛いでいただきたい。」

リヴィラエは大きな長椅子に手を差し向け、座る様促した。

「では、お言葉に甘えるとする。」


交易都市サリュヘンリオから更に東に進むと、ランフェルツ公国の中心であるミェインツという大きな街がある。

街の中央には水路を兼ねた堀が円形状に張り巡らされ、その中に在るのが貴族院である。

貴族院の敷地自体は、街と水路で隔てられているだけであり平坦となっている。

中心とはいえ、選出された各地の貴族が集まるだけの場所であり、利便性は考慮するが戦等は考慮していない。

大きな街のため包囲は現実的ではなく、貴族院に人が居たとして街中を進軍されたとしても空いているところから逃げればいい。

選出された貴族が無事であれば良く、貴族院の土地自体を護る必要はないとしている。

エルメラデウスとエウスは、そのミェインツを経由し南下。

ニーメルラッゼ侯爵領を訪れていた。


「表向きな話しであれば、サリュヘンリオから近い貴族院でも良かったのですが、権力者が訪れると要らぬ誤解を与えかねないためこちらへ招待しました。」

「なに、気遣いは無用じゃ。余とて要らぬ詮索は望んでおらぬし、情報洩れの懸念も減る故問題無い。」

「一時的に領主権を奪われたとはいえ、来賓として迎えられぬ事は申し訳なく感じております。」

エルメラデウスは、一時的と聞いた瞬間目を細めたが、気取られぬようすぐにやめた。

奪還したいと言っても、その手掛かりを求め此処を訪れている。

得られた情報で再び領主の座に戻れるかもわからない状況であるのに、それが決まったかの様な言い回しが気にかかった。

「一介の国民故、気にする必要はない。」


「早速ですが、本題に入っても?」

フィナメルシェが用意した紅茶と焼き菓子が揃ったところで、リヴィラエが口を開く。

「うむ。お願いしたい。」

「メイオーリア王国、宰相ヘルベイウとの文書があります。」

「なんじゃと!?」

突然核心から入った内容に、エルメラデウスは思わず声を上げた。

貴族院の誰々が怪しい、形跡がある、等の情報で内定が必要等の話しを想定していたためだった。

「それがあれば、宰相の立場を追う事も、領を取り戻す事も可能な筈です。」

「確かにその通りじゃが、文書の真贋は判断できるのか?」

在ると言われても、惚けられる事を想定して用意しなければならない。

逃げ道など作れない様に。

その文書ととも、本物であるという確証もエルメラデウスには必要だった。


「ヘルベイウの筆跡、はさておき。貴族が封書を閉じる時に使用する印は複製できない。」

「なるほど。つまり応答の辻褄を含め、筆跡と印があれば問題ないという事じゃな。」

「お察しの通り。」

宰相を追い詰める手立ては見つかった。

が、それ以上にリヴィラエがそこまで協力的な理由がわからず、エルメラデウスは警戒の目を向けたままでいた。

「して、ヘルベイウと繋がっていた貴族と言うのは誰なのじゃ?」

物証があるのはわかったが、肝心の相手がまだ出てきていない事に言及する。

「私です。」

「なに?」

リヴィラエが即答した瞬間、エルメラデウスの目が細められる。

同時に、フィナメルシェも鋭い眼光をエルメラデウスへ向け右手を上げようとした。


「止めろ。」

エウスも場の空気に、剣の柄に手を掛けさせられたが、リヴィラエの一言で二人とも手を下ろした。

「説明如何によっては事を構える事になるが?」

「聡明な貴女であればそれは無いと踏んで、この場を設けさせていただいた。」

「ふむ。」

エルメラデウスはその言葉に、背凭れに背を預け腕を組み、足をも組んで説明せよと態度で示す。

「事の発端は宰相からの打診です。」

リヴィエラは話し始めると、紅茶に口を付け湿らせて続ける。


「ランフェルツ公国は決して豊かな土地ではありません。山が多く未開拓の土地も多い。耕作に向いていない土地が多いのと、貴族の怠慢によるものです。対して、メイオーリア王国は肥沃な土地が多く、公国でも乾物を多く仕入れています。」

「それは知っておる。」

リヴィエラの一般的な話しにエルメラは態度を変えず続きを促す。

「特に、南に位置するエルメデウス領は王国内でもかなり豊かな土地だそうで。」

「当り前じゃ。豊かでなければ住む者が豊かになれぬ。豊かになるためには豊かにする努力も必要じゃ。領主はその支えであり、足枷になってはならぬ。」

エルメデウスの言葉にリヴィラエは大きく頷いた。


「耳の痛い貴族は多いでしょうね。」

聞いていたフィナメルシェがその言葉に笑みを浮かべて言った。

「まったくだ。」

「つまり、エルメデウス領を王国の直轄として徴収する事で、物資を融通するなり貴公に得になる何らかの条件で接してきたと?」

リヴィラエは頷いて口を開く。

「ご明察の通り。他国の肥沃な土地へ希望者の移住、商売、耕作物の確保。借地であったとしても魅力的でしょう?」

「そうじゃな。何より選別した土地が良いからのぅ。」

エルメデウスは嫌味を籠めるが、リヴィラエの態度に変化は無かった。

「じゃが、それで宰相は何を得るのじゃ?」

自分に得が無ければ話し自体に意味は無い。


「公国からの擁護、玉座、公国からの庇護、そしてバルグセッツ。」

「大それたことを・・・」

エルメラデウスは呆れた顔で吐くように言う。

可能かどうかはさておき、宰相は器ではないと。

「火薬をご存知で?」

「うむ。」

「何れ世を席巻するでしょうが、それは遠い先の話しでしょう。公にはしておりませんが、公国は話した通り山や未開拓の土地が多い。」

「なるほど、やっと見えて来たわ。じゃが、宰相には無理じゃ。」

エルメラデウスは状況を知ると、溜息の様に口にした。

「同感です。故に、手のひら返しです。」

「調子の良い事じゃ。」


エルメラデウスは呆れた視線をリヴィラエに向けたが、笑みを浮かべるリヴィラエの目は鋭く、底の深い湖面の様に碧かった。

「余は国を追われ公国まで来る羽目になったあげく、奇襲までもらっての。」

「承知しております。」

リヴィラエはフィナメルシェに手を上げると、フィナメルシェは奥の机から紙の束を取り出しエルメラデウスの前に置いた。

「これが、私とヘルベイウのやりとりすべてです。」

「確認するのじゃ。」

「承知致しました。」

エルメラデウスは受け取ると、エウスに渡す。

「貴族街にある別邸については清掃、修繕の手配を致しましょう。現在滞在中の屋敷も登録変更手続きをした上で、公国警備の対象とします。」

「それは構わぬが、余に与して何を欲する?」

手のひら返しは良いが、そもそもの目的が見えない。

リヴィラエは何を求めて宰相を裏切ったのか。


「当初、ヘルベイウから領主が塵だと隠されていた。それに気付いたのは別邸襲撃によって。」

「ふむ。」

それで知られる前に排除しようとしたわけかと、エルメラデウスは悟った。

「フィナメルシェは正体を明かしたのでしょう?」

「うむ。まさか公国にも居ったとは驚きじゃった。」

「一番はフィナメルシェのためにも情報が欲しい。次いで、宰相から提案のあったエルメラデウス領での借地の件も考慮いただきたい。」

「虫のいい話しじゃな。」

「敢えて言っています。代わりに、公国の技術供与を優先できるかと。」

エルメラデウスはそこで顎に手を当て考え込んだ。

当初は宰相と同様と思っていたが、リヴィラエは宰相と違い馬鹿ではなく状況が見えている。

加えて、公国の技術供与とは言ったが、おそらく火薬を利用したものだろうと。

メイオーリア王国で火薬は普及していない。

一部の者が裏で手に入れいる状況ではあるが、一般人はそれを知らない。


「いいじゃろう。借地については考慮する故、詳しい話しは余が領主に戻ってからじゃ。」

一領主が手にしていいものとは思えぬが、今後の事を考えれば技術供与は今後に備え悪い話しではない。

そう思いリヴィラエの提案を、エルメラデウスは飲むことにした。

「ありがとうございます。進展のある話し合いが出来て良かったです。」

「余もそれなりに実入りはあった。」

「では、これを機に引き続きお願いします。」

「うむ。」

エルメラデウスが席を立つと、先導する様にフィナメルシェは扉へと回り込んでいた。


「必要があればこやつに伝えても問題無いな?」

「もちろんです。」

エルメラデウスがフィナメルシェを見て言うと、リヴィラエは構わないと頷いた。






エルメラが方針を話してから一週間。

ウリカの治療は終わって焼けども消え、右手も繋がっていた。

だけど、目が覚めない。

私はどうしていいかわからず、傷が消えたウリカの横でなるべく寝ていた。

もしかすると、起きた途端殺されるかもしれない。

そう思っても、私はウリカを助けたいって思いの方が強かったから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ