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女神ノ穢レ  作者: 紅雪
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四章 主ニ捧グ理明ノ焔 - 39.撤退

エウスが扉を開けると、両側から男が斬りかかってくるが、エウスは一人目の首を剣を薙いで飛ばし、身体を翻して二人目の眼に突き入れる。

「待ってたぜぇ、エルメラデウス。」

エルメラデウス達が城内に入ると、大剣を担いでいる体躯の大きい男が声を上げる。

「コソ泥が余の城で何をしておる。」

「コソ泥なら金目の物でも物色してんじゃね?」

目を細め威圧を放つエルメラデウスの態度にも動じず、男は笑みを浮かべたまま惚ける。


「奪う前なら痛い思いで終わらせても良かったのじゃが、覚悟はできておろうな。」

エルメラデウスは男の足元を睨む。

「あぁ、これか。ちょうど使い物にならなくなってな。だが代わりも来たし、あんたならもっと楽しませてくれんだろ。」

虚ろな目を虚空に向け、口や鼻から体液を流し動かない裸の女性に足を乗せていた男は、言った後にその身体を蹴り飛ばした。

女性は近くに首を切断され横たわる男性の傍に、鈍い音を立て落下するも、動く気配は無かった。


「速いだけじゃ物足りねぇな。」

女性が蹴られると同時に動いたエウスとエルメラデウスの攻撃を男は防いで言う。

エウスの突きを大剣の腹で、エルメラデウスの寸打を左手で受け止め。

「雷転!」

だが、エルメラデウスが言葉を発すると男の左手との間に紫電が弾け、男は吹き飛ばされ背後の壁に激突した。

エウスは直ぐ様追撃を行うが、突き出した剣は男が振り上げた大剣に弾かれる。

男は振り上げた大剣を途中で斬り下ろしに移行、隙を狙おうとしたエウスは慌てて後方に跳び退る。

石造りの床に叩きつけられた大剣の鞘は留め具が外れ、刀身が露わになった。

「なんという剛腕・・・」

砕けた床の破片を払いながらエウスは目を細める。

「軽いな。」

男はそれだけ言うと、左手を挙げた。

「やれ。」

その合図と同時に、二階の通路に並んだ者たちが一斉に右手を掲げ、発現する幾重もの朱色の光にエルメラデウス達は照らされた。






エルメラが言う様に裏口はすぐに見つかった。

城の外周を通り、正面入り口が見えなくなってすぐくらい。

人一人が通れるくらいの小さな扉。

(鍵が掛かってる。)

取手に手をかけ、静かに押したり引いたりしてみたが、金属音は聞こえるものの動かない。

おそらく中から鍵がかけられている。

(入れと言われたのだから、壊してもいいよね。)

鍵穴は無いから内側から閂のようなもので閉じていると想定する。

であれば、その止めている棒を斬ってしまえば。

「炎刃。」

右手の人差し指を扉の隙間に向け、熱線を放ちながら上から下へ移動させる。

もう一度取手を引いたら、扉が開いた。


城の中に入ると、既に剣戟や悲鳴、怒号が遠くに聞こえた。

裏口を入ってすぐに、上に続く螺旋状の階段が横にあったので、私はそれを駆け上る。


駆け上った先の廊下に出ると、男二人が無言で斬りかかってきた。

まるで私が来ることを予想していたような布陣と反応。

対応良すぎ。

後ろではさらに二人、私に向かって右手を突き出している。

(魔法使いまで!)


二人の斬撃を避けながらいつもの手首飛ばしをして、一人を蹴り飛ばす。

直ぐに右手人差し指を残った一人に向けた。

「颶煉。」

指先から炎の渦が噴き出し、目の前の男を飲み込み、火の魔法が発現したばかりの二人も飲み込んだ。

廊下は隙間なく炎の渦が駆け抜け、熱気が肌を焼く。

・・・

(勢いでやってしまった。ここ、エルメラの家だった。)

炎は直ぐに消えたが、部屋と廊下を隔てる木製の扉は燻っている。


廊下の突き当りは一階からの吹き抜けになっているようだったが、突き当りから左右に延びる通路の手摺は吹き飛んで、切れた端もやはり燻っていた。

(後で謝ろ。)

ただ、その奥に見える反対側の通路は無傷。

多分、敵の魔法を防ぐためにリリエルが氷壁を作ったのだろう。

私の魔法もそれに防がれたみたい。

なんて考えていると、その通路の左右から数人の男が雪崩れ込んで来た。

(え、同じ目に遭わないと思っているの?)

と、思ったけど次にやったら確実に部屋と廊下を遮るものが無くなってしまいそう。






「俺以外の雑兵じゃ役に立たねぇな。魔法も全部防がれちまうし。」

大剣を担いだ男は、動かなくなった部下を見て、続けて囲うように張られた氷壁を見る。

「相手が誰か認識しておったろう。」

「そうなんだが、一応精鋭だぜ?」

その時、二階を照らす光と轟音に一同が目を向ける。

「まだいたのか。」

「あやつ、余の家までも燃やす気か・・・」

熱気で揺らめく廊下の方に目を向け、エルメラデウスは呆れを漏らした。

「知られちゃったし、どうせもう使えないでしょ。」

「別に隠れ家ではない。事が落ち着いたらまた別邸として使えるわ!」

苦笑して言うマリアをエルメラデウスは睨み付ける。


「ちっ・・・」

一同が二階に目を向けている時、背後から近づいていた黒ずくめの短剣がマリアに振り下ろされた。

だがマリアはゆらりと避けつつ、黒ずくめの身体に右手を近づける。

禍繰まがくり。」

黒ずくめの動きが一瞬止まり、直後に咽て覆面から赤黒い液体が垂れ始める。

男は胸を押さえると、床を転げのた打ち回った。

胸から染み出した血が、床を赤く染めていく。

やがてうつ伏せになった黒ずくめは何度も床を搔きむしり、剥がれた爪から流れる血で何本もの朱線を描いて事切れた。

「私は戦い、得意じゃないのよね。」

「どいつもこいつも、塵ってのは厄介だな。」

短剣を避けられ舌打ちした男も、辟易した表情になって吐き捨てた。


「えげつな・・・」

「リリエルちゃんに言われたくないわ。」

その光景を見て引くリリエルに、マリアが笑みを向けた。

「いや、あたしは凍らせるから苦しまないって。」

「へぇ。凍らせるのは足だけなのに?」

「う・・・」

リリエルは近付いてくるマリアの笑顔から顔を逸らした。


「そんな事よりリリエル、あやつを抑えられんか?」

「無理。エルを捉えられない様にあいつも機敏そうだから。何より、あの膂力じゃあたしの氷は耐えられないよ。」

男を警戒しつつ言うエルメラデウスに、リリエルは悔しそうに答えた。

「この広間を氷漬けに出来る程の力も無いし。」

「うむ。己の力量を把握できておるのは良い事じゃ。エウス、二人であやつを倒し撤退するぞ。マリアとリリエルは退路の確保じゃ。」

「承知いたしました。」


「おいおい、逃げる気かよ。」

会話を聞いていた男が、つまらなさそうに言う。

「撤退は逃走ではない、脳まで筋肉とは恐れ入るわ。それに、言った通りお主は殺すから気にする事でもなかろう。」

「気の強い女は嫌いじゃないぜ。どんな声で鳴くのか楽しみだからなぁ!」

「紫線。」

男が言いながら大剣で床を叩き、石礫を飛ばす。

エルメラデウスは同時に右手を翳し、放射状に紫電を放ち弾く。

「雷破。」

続けてエルメラデウスが声を上げると男の頭部付近に一瞬、紫電が煌めく。

男は咄嗟に横に跳んだが、耳を劈く破裂音と共に吹き飛ばされた。

「エウス、今じゃ!」


「てめぇ・・・」

耳を押さえながら男は立ち上がるが、足元がふらつく。

「鼓膜が破れたじゃろ。」

男は嗤うエルメラデウスを睨み付けたが、視界を遮りエウスの剣が繰り出された。

「馬鹿の一つ覚えか!」

「同じ攻撃でも状況が違いますな。」

男はエウスに向かって大剣を薙ぐが、脳を刺激されふらつく足では当初の剣速と精度は発揮されなかった。

エウスは屈んで横薙ぎを避けると、男の左右の太腿に連続で突きを入れ跳び退る。

打ち下ろされた大剣は空を薙ぎ、床を砕いただけに終わった。

「小賢しい真似をしやがって。多少傷物になってもしょうがねぇな。」


男は全身に力を籠めると、大剣を担いでエルメラデウスに歩を進め始める。

「エウス、あまり効いておらぬようじゃぞ。」

「あの男の筋力が常人離れしておりまして。」

「まぁよい、時間の問題じゃろう。」

エルメラデウスは再び男に向かって右手を翳し、エウスが剣を構えて突撃姿勢に移行する。

「矢雷。」

一直線に迸る光の本流を男は大剣の腹で受け止めると、露払いする様に振る。

その大剣は帯電しているように刀身に光がちらつき、小さな放電音を上げていた。

「厄介じゃの。」

「特別製だ、お前ら塵と戦う用のな。」

言うと男は口に端を吊り上げる。






二階の敵を全滅させた私は、階下に目を向ける。

大男が大きな剣を構えてエウスを迎え撃とうとしているところだった。

(あの剣、なんで光ってるの?)

と思ったがそんな状況じゃなさそう。


エウスの突きを大男が腕で受けると、持ったエウスごと横に振り払う。

振り回され始めた時に、エウスは手を放して着地した。

(あれ、筋肉で剣を絡めとったのね・・・化け物。)

でも、生物である以上、私の魔法は有効なはず。


そう思って私が右手の人差し指を男に向けたところで、エルメラが私に気づいた。

ほんの一瞬、私を見て頷く。

遠慮はいらない、と受け取った。

「槍禍・終」

巨大な炎の槍が生成されると、大男に向かって加速する。

「どいつもこいつも役に立たねぇなぁっ!!」

気付いた大男が槍を大剣の腹で受け止める。

どれほどの剣か知らないけど、そんなので受け止められる魔法じゃないわ。


槍は大剣に着弾すると、朱から白へ輝きを増し細く長くなっていく。

閃光とともに前後に伸びた槍は、まるで天から堕ちた光の柱が、屋根を貫き床を貫いて突き刺さった様に建物を貫いた。

「な・・・んだ、こりゃ・・・」

当然、大男の大剣と胸部も貫いて焼いている。

「よくやった。」

エルメラは大男に一足飛びで近付き右手を添える。

「雷包。」

その言葉と同時に、一瞬紫電が大男の身体を迸った。

眼球が白濁として湯気を上げ、耳や鼻からは赤い体液が流れ出す。

「よし、撤退じゃ。」


エルメラが言って扉に向かうと、エウス、リリエル、マリアが続く。

私も階段を駆け下り後を追った。




「これは、骨が折れるのう・・・」

お城の外に出ると、塀が囲うように兵士らしき者たちが屋敷を囲んでいた。

数十・・・ではないかもしれない。

「あの狸め、ここまでするとはよほど、余が嫌いなようじゃのう。」

「エルメラデウス様に動かれては困ると言っているようなものですな。」

エウスが一歩前に出て、仕舞ったばかりの剣を抜く。

「どうすんのこれ?あたしじゃ無理だよ。」

「私も無理よ。多数を相手に出来る力は無いし。」

「余とエウスが切り開く、お主らは逃げよ。」

エルメラがエウスに並んで言う。


多分、ここは私の出番よね。

「エルメラは目的があるし、エウスはそれを支えるのに必要。」

その目的、まだ教えられてないけど。

「マリアは、ウリカを治して欲しい。」

代わりはいない。

ウリカは絶対に助けたい。

「リリエルも、ウリカの火傷の緩和にどうしても必要。」

それに、この数を相手にするのは厳しい。

対多数戦に有利と言っても、軍隊並みの数は論外。

だから、私しかいない。


「先程から何を言っておる。」

エルメラが怪訝な顔を向けてくる。

「ここ、私が引き受けるから、みんな天馬で抜けて。」

「ちょっ!何アホな事言ってんの!」

「そうよ、アリアちゃんだけ置いていけるわけないでしょ。」

ありがとう。

そんな風に思ってくれて。

復讐だけがすべてだった私に、出来た居場所。

護りたい。


「エウス、操作は頼んだぞ。」

「承知致しました。」

エウスは私に一礼すると天馬に乗り込んだ。

「ちょ、エル、本気なの!?」

「お主らも乗らぬなら気絶させてでも詰め込む。嫌なら自ら乗るのじゃ。」

エルメラが右に紫電を迸らせながら言う。

「でも・・・」

マリアは天馬に向かったが、リリエルは納得いかなそうに私を見た。

「行って。後で合流するから。」

「絶対だよ。」

そう言うと、リリエルは渋々天馬に向かった。

「死ぬ事は許さぬ。」

「もちろん。次は、私がウリカの居場所になるんだから。」

最後にエルメラが乗り込む前に言った。

私の返事を背中で受けながら、車内に消えていく。


天馬はゆっくり動き出すと、加速して塀に向かった。

居場所をくれたエルメラのために。

天馬は塀に並ぶ兵士を吹き飛ばし、塀を突き破って草原に出る。

大多数を相手にするのは、私の魔法が一番向いている。

天馬が抜けたのを見た後、右手の人差し指を兵士たちに向ける。

殺すつもりは無い。

引いてくれればそれでいい。

天馬が、エルメラが逃げるまででいい。

追いかけ始めた兵士も足止めしなきゃ。

私の魔力、尽きないといいな。

「十重・業終。」

指を頭上に掲げると、十の大火球が上空を埋める。

意識が薄れそうな中、私はそれを後退りする兵士の方に向かって放った。




四章 了


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