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女神ノ穢レ  作者: 紅雪
39/72

四章 主ニ捧グ理明ノ焔 - 38.別邸

「ふむ・・・」

黙って私の話しを聞いたエルメラは、考えるような仕草をして声を漏らした。

「お主とリリエルをスェベリウに逢わせておいて何だが、余も滓でありながら意識を保った状態で力を使える者を他に知らぬ。」

エルメラですらスェベリウ以外に知らないんだ。

「そもそもスェベリウ自体が稀有な例じゃ。ウリカの存在は希少かも知れぬ。」

エルメラはそれまで落としていた目線を私に向ける。

「どうするのかはお主の好きにすれば良い。余とお主は協力関係、それはマリアにしろリリエルにしろ同じじゃ。」

そっか。

私はエルメラとは主従関係の様な気でいたけど、違うのね。


「依頼はするが各々自分の意志で動いてもらっていると思っておる。ただ、余に立ちはだかる様な事であれば容赦なく排除するがの。」

そういう事か。

「ウリカを助けたいのであれば、直接マリアに言うのじゃな。その是非について余が異を唱える事は無い。それはお主も心しておくのじゃ。」

それぞれを尊重しているって事なのかな。

それはわかっている。

やったのは私だ。

虫の良い話しだってのもわかってる。

だから、断られたとしてもマリアやエルメラに遺恨を持つなどしない。


私は改めてマリアにお願いしようと目を向ける。

だけど、マリアは私ではなくエルメラを見据えていた。

「協力関係って聞こえは良いけど、それこそ束縛の言葉よね。」

え?

「指図されるよりいいじゃろ。」

笑みを浮かべているが目を細めて言うマリアに、エルメラも怪しく嗤って返す。

「無意識に協力を扇動するのは指図と変わらないわ。」

「自分の意志で協力している、と思わせる方が効果的じゃろ。それともなんじゃ、命令される方が好みか?」

いやいやいや、なんでこんな会話になっているの?

普通に恐いんだけど。

私の所為?


「大丈夫、たまにある事だから。放っておいていいよ。」

戸惑っている私に、リリエルが小声で言ってきた。

たまにって・・・

それならいいのだけど、いきなり見せられると困る。

「リリエルちゃん、聞こえてるわよ。」

「げ・・・」

マリアの笑みがリリエルに向けられる。

リリエルは慌てて目を逸らすと、マリアの方は見ない様に食事を続けた。


「まぁいいわ。アリアちゃんのお願いは聞いてあげる。でも、それぞれ思惑があって動いているって事は認識した方がいいわよ。」

それって。

マリアの言葉の後半はエルメラに向けられていた。

私も釣られてエルメラを見る。

「別に思惑という程のものでもあるまい。隠す気もないしの。」

どういう事?

「希少という事はそれだけ利用価値があるって事よ。」

あ・・・

「その通りじゃ。あわよくば、じゃがな。その程度の打算、あって当然じゃろう。」

そういう事か。

私も似たようなものだものね。


エルメラが声を掛けてくれなければ今は無かった。

利用できるものは利用してやる、そう思って情報提供を受けたのだから。

それはエルメラも同じよね。

ウリカが治った場合、それはウリカにも言えるという事。

それだけの話し。

だったら、問題無い。

「ウリカがどうするかってだけの事だよね。是非については異を唱えない、だっけ?」

「う、うむ。」

「ふふ、アリアちゃんいいわよ。」

エルメラに言うと、詰まりながら頷いた。

私がそんな事を言うなんて思ってなかったのでしょうね。

マリアはそれを見て楽しそうに笑う。

先程までの含みのある笑みではなくなっていた。


「要は好きにせよという事じゃ。その中で利用出来る隙があれば、余は遠慮なく利用する。」

「それでいいんじゃないかな。」

そういう集まりだって、理解できた。

「食事が終わったらウリカちゃん見るね。」

「ほんと!?」

「ただ必ずとは言えない。可能かどうか判断して、可能なら魔法を使うという事。」

「わかってる。」


ウリカの事をマリアが受けてくれて嬉しかった。

今までは自分の事ばかりで、周りが見えていなかった事もわかった。

自分の事に一段落ついたからか、この集まりの関係性が初めて見えてきた気がして、本当に見てなかったんだと思う。

だって、自分の復讐だけがすべてだったから。




「これは、お主が遠慮しなかったのか、こやつの生命力が強いのか・・・」

改めて確認したウリカの状態に、エルメラが眉間に皴を寄せる。

どうしても熱を持ってしまうため、リリエルの氷で寝台付近を冷やしてはいるが、漏れた冷気は部屋の外まで冷やしている。

「この火傷で生きているのが不思議だわ。」

マリアの表情も厳しい。

やっぱり無理かな・・・

「さすがに加減は出来なかった。」

「滓相手ならば想像に難くない。余とて油断すれば一瞬で殺されるじゃろう。」

と、エルメラは言うけど、私はエルメラの強さを知らない。

経験の浅い私よりは強いのでしょうけど。


「あ、これもあるけど?」

「なんじゃ、ご丁寧に持ち帰ったのか・・・」

氷漬けになった、切断されたウリカの右手をリリエルが出すとエルメラが嫌そうな顔をする。

「これだけ焼けておれば無駄じゃろう。」

「私の魔法は治療じゃないわ。だから、接合出来ない状態でも可能性はあるかも。試した事はないのだけど。」

そっか、そうだよね。

焼き斬ったのだから、切断面が熱によって変形しているから、普通であればくっつかないよね。

その後、さらに追い打ちかけちゃったし。

「難しい?」

「やった事が無いからわからないわ。だから実験。」

・・・

含みのない笑みを浮かべてマリアが言う。

ただ、私がそれに対してどうこう言うことなど出来ない。


「腕は試すとして・・・問題は火傷よね。」

そっちは問題ないんじゃ?

「私のも変えてくれたじゃない。」

「傷跡、であれば問題無いのよ。問題なのは症状が治まってない事ね。でもこれだけの火傷、落ち着くまで様子見も危険だからやるしかないかなとは思っている。」

そうか。

私のは跡として残っていたからその構成を変えたんだ。


「ただ、今日の今日は難しいわ。もう少し状態が落ち着いてからにしたいの。」

治療ってわけじゃないものね。

私には何も出来ない。

だから、マリアがそう言うのであれば、それに従うしかない。

「うん、わかった。」


「ならば、明日は全員別邸に移動じゃ。現時点での本拠点になる場所じゃからの、生活を何処でするにせよ一度は確認しておくのじゃ。」

エルメラの言葉に、私とリリエル、マリアが頷くと本人は部屋を出て行った。

それに続き、マリアとリリエルも部屋を後にする。

(苦しいだろうけど、もう少し待っててね。)

私はウリカに目を向けると、心の中で呟いた。





綺麗に整えられた石畳。

隣接している敷地など無く、必ず道を挟んでいる。

大きな敷地は広大な庭と、その奥に見える屋敷。

貴族街はいままで見た街並みとはまるで別世界だった。


エルメラとエウスは天馬で移動し、都市に戻る予定の私たち三人はエウスが手配した馬車からその街並みを眺める。

敷地は国、道は国境。

権力の縮図の様にすら感じる。


馬車は幾つもの敷地の間を縫うように進むと、一本の林道を進む。

道の両側に並んだ木の先は草原しかない。

貴族街でも外れの方なのだろうか。

やがて林道の終点であろう場所に鉄柵が見えて来た。


道と敷地を隔てる門を馬車は抜け、庭の整備された石畳を進んでいく。

エルメラ自体は領にいたため、荒れているのかと思ったが綺麗に手入れされた庭が窓の外に流れていった。

別邸にも人が居て、手入れされているのだろうと思わせる。


馬車が停車し、御者が扉を開けたので外に出ると、そこには他とは違う建物が目に入る。

遠目には見えていたのだけど・・・

「お城よね、小さいけれど。」

「城だね、小さいけど。」

「お城だわ、小さいけどねぇ。」

「小さい小さい言うでない!余はこの国の住人でも要人でもない。それでも貴族街の外れに小城を構えている事こそに礼賛すべきであろうが!」

天馬の横に立っていたエルメラが私たちを見て捲し立てる。

聞こえてたんだ。


「怒ったね。」

「うん、怒った。」

「そうね、器も小さいわ。」

いや、私はそこまで思ってないから!

そう思ってマリアを見ると満面の笑みを浮かべていた。

「なるほど。余の居城は小さい故、そなたらは収容できぬようじゃ。場所の確認は終わったのだからもう帰るがよい。」

不貞た・・・


それより。

「エルメラ・・・」

「聞かぬ!」

もう。

「調子に乗ったのはごめん。そうじゃなくて、このお城に住んでいる人は何人?」

「・・・二人じゃ。」

私の態度を察したのか、エルメラは表情を無くし小声で答える。

「三十・・・くらい。」

「確かに、言われるまで油断しておったが頼んでもおらぬ使用人が多いようじゃな。」

エルメラは城の方は見ずに、エウスに目配せをすると、続けて私たちを見る。

マリアとリリエルからも笑みは消えていた。


「まさか掃除からとは思わなかったわ。」

「そうじゃな。そうならぬ様に雇っておったのだが、主に掃除させるとは不届きな奴等もいたものじゃ。」

マリアが城に目を向け笑みを浮かべると、エルメラも続いて不敵に嗤う。

「アリア、お主は気付かれぬ様裏口から入るのじゃ。右手に回ればすぐにわかる。」

「うん、わかった。」

「あたしは?」

「人数が減ると訝しむじゃろう、向かうのは一人のみじゃ。」

何故私なのか?

いくつか思い当たる節はあるけれど、今はその答えを探す時じゃない。


エウスが先頭に立ち扉に近付くと、来訪を知らせるための叩き金に手を掛ける。

私はそれを確認すると姿勢を低くして裏口に向かった。


「さて、掃除の時間じゃ。」

エルメラの合図の後、扉を叩く音を背後に聞きながら。


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