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女神ノ穢レ  作者: 紅雪
33/72

四章 主ニ捧グ理明ノ焔 - 32.確認

「久しぶりじゃな、ローデ。」

その声に、寝台で寝息を立てていた男性は、上半身ごと跳ね起きる。


男性が声の主を確認すると、月明かりに照らされた女性が妖艶な笑みを浮かべ、室内の椅子に足を組んで座っていた。

その光景に驚きはしたが、男性は深呼吸すると静かに口を開く。

「来ると思っていたよ、エル。」

ローデルベリウは言うと、苦笑した。

「正解じゃな。不躾な来訪ですまぬが、ローデが関与しておらぬと思えばこそじゃ。」

「そうだね、現状エルが訪ねて来るとすれば、この方法しかないと思っていたよ。」


ローデルベリウは寝台から起きると、近くの棚に移動し瓶と硝子製の器を取り出した。

それを一旦丸い台の上に置くと、燭台にある蝋燭に火を灯す。

揺らめく灯りの中、器に赤い液体を注ぐとそれをエルメラデウスに渡した。

「いけるよね。」

「もちろんじゃ。」

「一度起きてしまったからね、寝酒だよ。」

ローデルベリウは瓶の口からそのまま葡萄酒を喉に流し込んだ。

「行儀が悪いのう。」

エルメラデウスは楽しそうに嗤うと器を口に運んだ。

「器が二つあったらおかしいからね。」

「なるほど。」


「領主権剝奪の件だよね?」

ローデルベリウは近くにあった椅子に座ると、エルメラデウスが訪ねて来た理由を確認する。

「そうじゃ。」

「察しの通りだよ。剥奪の報告を受けたのは、エルメラデウス領が王国直轄になった後の、事後報告として受けた。」

「おかしな話じゃな。領主任命と解除の最終決定権は国王のはずじゃが?」

ローデルベリウは苦笑して窓の外に目を向ける。

「緊急時には代行で承認出来る権限がある。一部の役職にはね。」

「どこが緊急じゃ・・・」

「理由はなんとでもなるよ。」

呆れた様にエルメラデウスが言うと、ローデルベリウも諦めを含んで言った。


「まぁよい、起きた事に関しては今更じゃ。余としてはローデの口から直接確認出来ればそれでよい。」

ローデルベリウは笑みを浮かべると、瓶に口を付け葡萄酒を飲む。

「それで、ランフェルツ公国の別邸へ?」

飲み込んだあと、ローデルベリウは真面目な表情となり話しを変える。

「うむ。」

「ひとつ、頼まれてくれないか?」

「宰相の件じゃな?」

エルメラデウスは器に残った葡萄酒を飲み干すと妖しく嗤う。


「ああ。今は無理だが、エルが領主に戻るためには必要となるだろう。」

「ふむ。しかし、ランフェルツ公国とはな。」

エルメラデウスは窓の外に目を向ける。朝日が入る窓、その方向にある公国を見るように。

その間に、ローデルベリウは新しい瓶を開け、空になったエルメラデウスの器に追加で注いだ。

「私としては領主でなくともいいのだが。」

「何の話しじゃ?」

エルメラデウスは窓から視線は逸らさずに疑問を口にする。


「子供の頃に言った事、忘れたのか?」

「あぁ。余の目的の話しじゃな。」

その言葉を聞いたローデルベリウは小さく笑い声を漏らした。

「覚えてるな。」

惚けたつもりが確証を与えてしまった事に、エルメラデウスは一瞬ムッとしたが、すぐに目を細め妖しく嗤うとローデルベリウに視線を向ける。

「確かに、傷だらけの少女に阿呆な事を言う奇特な王子が居た気はするの。」

「その奇特な王子の求婚を間髪入れずに『嫌じゃ』の一言で片づけた偉そうな少女もいたな。」

エルメラデウスは懐かしさに笑むローデルベリウに煙たそうな目を向けた。


「子供の頃の妄言じゃろ。」

ローデルベリウは瓶から葡萄酒を呷ると、呆れた顔のエルメラデウスを真面目に見据える。

「私の想いは今も変わり無いが?」

エルメラデウスは目を逸らすと、残りの葡萄酒を空けて立ち上がった。

「帰る、邪魔したの。」

「あぁ。いつでも来い。」

窓に向かって進むエルメラデウスの背中に、ローデルベリウは優しく声を掛けた。

「鍵は焼き切ったからの、直しておくのじゃ。」

「わかった。ただ、毎回焼き切られると困るから、次からは窓を叩いてくれ。」

聞き終わると同時に、エルメラデウスは窓の外に飛び出した。



ローデルベリウはゆっくりと窓に近付き閉める。

エルメラデウスの姿は既に見えない。

「まったく、久しぶりの再会だというのに忙しない事だ。」

残りの葡萄酒を瓶から呷るが、飲み切れないなと思うと台に置いて蝋燭の灯りを消した。






エルメラデウスがローデルベリウと会った翌日、ランフェルツ公国との国境を越えたアリアーランとリリエルは交易都市、サリュヘンリオに到着していた。


「やっと着いたわ。」

「あたしもここまでの長旅は初めてだよ。そもそも国外に出た事なんか無いけど。」

それは私も同じ。

此処にデダリオが住む屋敷がある。

以前の様に、今すぐにでも殺しに行きたい、なんて思わなくなった。

それは復讐の炎が鎮火したわけじゃなく、無鉄砲じゃなくなっただけだと思う。

これで最後だと思えば、なりふり構わず動いてもいいのだけど、エルメラの情報がすべてではない可能性もある。


それに、手を貸してくれたエルメラにあまり迷惑はかけられない。

なんてどこかで思っているのかもしれない。

それよりもしくじらないために、冷静になる事を覚えた。

確実に殺すために。

「とりあえず宿確保?」

「そうね。エルメラからもらった住所を確認する必要もあるし、今日のところは場所の確認と簡単な調査かな。」



国境を越えて二週間程でこのサリュヘンリオに着いた。

越境も通行料だけで特に問題無く出来た。

初めての国は、どんな世界なんだろうと不安もあったけど、それは知らない事に対するただの恐れだと知った。

越えても何も変わらない。

景色も。

建物も。

人も。

そりゃそうよね。違う世界だったら、メイオーリア王国にもそれらしい人や物、文化が流入している筈だもの。

多少の差異はあれ、基本的には変わらなかった。

一番の違いを感じたものは何かと聞かれれば、料理の味かな。




「大きいね。」

「えぇ。見張りもいるのね。」

宿に荷物を置いて、エルメラから渡された住所に来てみるとかなり大きな屋敷があった。

鉄柵が敷地を囲み、広い庭の先に建っている。

まるでこの国の貴族の様だ。

貴族が治めるこの国は、貴族自体が多いと聞いた。

その一端にでもなったつもりだろうか。


屋敷に通じる鉄柵の門には、両側に人が立っている事から、見張りなのでしょうね。

「あの門番が夜もいると面倒だね。」

「素直に門から入る必要も無いけどね。」

「あ、そだね。アリアちゃんならあの高さ、簡単に越えられるか。」

「そうね。」

私の背丈より五割ほどの高さ。

それなら難なく越えられる。

「それより、あの広さの屋敷だと見取り図が欲しいわね。」

「無理でしょ・・・」

やっぱり。


通りの反対側は普通の住宅や店舗が立ち並ぶ。

今見ている限りでも人通りは少なくない。

交易都市と言われるだけあり、宿も含めここまでの道なりも人が多かった。

人が多い場所はやりにくい。

それを見越してのこの場所なのだろうか。


「昼間訪ねてみて探る?」

「いっそ昼間に殺っちゃうか・・・」

就寝してから探すのはさすがに時間がかかりすぎる。

「それあたしらが実行したってわかっちゃうヤツ。」

「そうよねぇ。」

となると、一度闇夜に紛れて確認するしかないわね。

「外からだけど、夜見に来ようかしら。」

「面倒だけど、それが早いかもね。」


「いや、リリエルは宿で待っていていいわよ。私の復讐だし。」

「ダメ。だって見張りだもん。」

「何の?」

「アリアちゃんの。」

・・・

それ、いつまで続くのかしら。

「見るだけだから。」

「どっちにしろ、外から確認する手もあった方がいいでしょ?」

うーん、そう言われるとそうなんだけど。

「わかった。」

外から見る分には、万が一があっても回避できるわよね。


「それより、顔知ってる?」

「知らないわ。」

「だよね。やっぱり昼間に行くのも必要かもね。」

そうかもしれない。

それか、何日もかけて張り込んで、特定するか。

危険を考えれば時間をかけた方がいいわよね。

顔を知られてしまう、素性がばれてしまう、そんな事態になれば警戒を強められる可能性も高い。


「アリアちゃん、あそこ。」

そんな事を考えていると、リリエルが少し先の建物を指差す。

軒先には椅子と机が並び、お茶を飲んでいる人達が居た。

「お店?」

「そうそう。丁度よくない?」

なるほど。

つまり、あそこで利用者を装ってって事ね。

「確かに。昼間にそれらしい人物を確認するのが現実的かなって思っていたところ。」

「じゃぁ、決まりでいいね。」


王都にはあったような気もするけれど、なかなかあの手のお店は見かけない。

その辺の町や村ではまず見ない。

食事をするところはあるけれど、お茶を楽しむお店なんて栄えた街ならではかもしれない。


「早速行ってみる?」

「そうね。お腹も空いたし。」

思えばサリュヘンリオに着いてすぐに宿を探し、此処に来ている。

それに、早いうちに使えるかどうかも確認しておきたい。

「よし、行こ!」

軽快に歩き出すリリエルに続き、私もお店に向かった。




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