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女神ノ穢レ  作者: 紅雪
31/72

四章 主ニ捧グ理明ノ焔 - 30.傷跡

三か月後。


「かわいい!やっぱり、アリアちゃんなら似合うと思ったよ。」

・・・

足が出ていて違和感がある。

何故こんなものを着るのか。

戦闘には向いてない。

「似合うの?」

「うん。」

でも、そう言われるのは悪い気はしなかった。

普通の生活なら、着て当たり前なのかもしれないけれど、そういう生活はしてないから。

そもそも、傷だらけの肌を晒すのにも抵抗がある。

まぁ、人が居なければ気にはしないのだけど。

そういえば、ガリウの前ではやっちゃったな。

「でも、現状を考えると・・・」

「あたしが買うの!着ろ。」

・・・

命令!?

不敵な笑みを浮かべて右手を握ったり開いたりしているリリエルがちょっと恐い。






イギールに復讐を果たした後、一か月程かけてエルメラデウスの城に戻った。

もちろん、私とリリエルはエルメラに小言をもらったが。

撃たれた足の件で。


そこで紹介されたのが、遠征から戻っていた‘ア’だった。

歳は二十代半ばくらいだろうか、腰まで伸びた髪がとても綺麗な女性だった。

前にも話に出たが、すぐに私の傷の話しが出たのは言うまでもない。

ただ、これもその時に言ったが、私は復讐が終わるまでは傷をどうこうするつもりは無いと。


言った瞬間リリエルが詰め寄ってきて、

「女の子なんだから絶対に傷は消すの!」

と言い、

「余の命令じゃ、治せ。」

エルメラまで詰め寄ってきた。

否定を口にしようとすると駄目だだの、許さないだの、それぞれ口にして嫌と言わせてくれない。

私の身体なんだけど・・・

昔の私だったら強引にその場を抜け出していたかもしれないが、そこまで否定的にならずに渋々と受け入れられた。


マリウテリア・トルシュ・ア・テウベンツィー。

それが‘ア’と呼ばれていた女性の名前で、通称はマリア。

マリアは私の傷を見ると、口を噤み涙を流した。

それ、私がやる事。

と思ったけど、黙っている事にした。

マリアが何を感じたかわからないけれど、私はもう自分の境遇には慣れてしまっていたから。


マリアの手は不思議なほど冷たく、魔法を使うときは薄い闇の様な、仄暗い膜に包まれた様な見た目だった。

その手が傷跡に触れると、やがて熱と痛みが襲ってくる。

刺傷、切傷、火傷、といった痛みに比べればましだけど、それが半日ほど続く。

事前に説明は受けたものの、体験すると実は目に見えない傷を体内に与えられているんじゃないかと疑った。

だが、痛みが引いた時には傷は消え、綺麗な肌になっていたから驚いた。

以前エルメラが再構成の様な感じと言っていたのを思い出したが、確かに治療とは感じない。

その部分に何かが起きている程度の感覚だったけど。


傷跡を消すのに痛みを伴い時間がかかるため、毎日少しずつ消していった。

来る日も来る日も痛みとの格闘は気持ちも体力もかなり疲弊したけど。


今更どうでもいいと思っていた身体の傷跡が消えて、綺麗な肌に変わっていくのを見ていると、気持ちに変化も出てきた。

エルメラやリリエルが無理矢理でもやらせようとした態度がわからないでもない。

肌は、傷が無い方が良い。

そう思ってしまったから。

復讐が終わったら、報告のついでにお母さんにも見せてあげたいな。

そんな事すら思ってしまうほど、マリアの魔法で気持ちが変化した。




「デダリオは数年前に居をメイオーリア王国からランフェルツ公国に移しておった。」

一か月近く経過し概ね傷跡が消えると、エルメラが次の目標について話してくれた。

「メイオーリアで待っていたところで、デダリオが都合よく来るまで待つのは時間の無駄じゃ。」

エルメラが奴隷商人デダリオの行方を掴んだ。

国外に居るとは言っていたが、住む場所を変えていたらしい。

「じゃ、行くの?」

「うむ。待っておっても埒があかんじゃろ。ランフェルツ公国へ行き、直接デダリオの屋敷に向かうのが良いじゃろう。」

「そうね。決着をつけるなら早い方が良いわ。」

私もそれで問題無い。

シシルの時以上の遠出になるけれど。

その間、エルメラからの仕事をしなくて良いなら全然構わない。

「余も隣国までは伝手が回っておらぬ。メイオーリアを出たら心するがよい。」

「わかってるわ。」

「くれぐれも、傷を増やすでないぞ。」

・・・

顔が恐い。

「もちろん気を付けるわよ、言われなくても。」

「あたしも見張っておくから。」

「次はお仕置きじゃからな。」

「わかってるって・・・」

リリエルもエルメラの圧に押されてたじろいだ。


出発の日、陽光に照らされた庭園で、椅子に座って寛いでいるマリアに声を掛ける。

「マリア、ありがとう。」

「いいの。」

憔悴しきった顔を見る度に、申し訳ない気持ちになる。

連日魔法を使い続けたため、疲弊が激しいらしい。

眼の下に隈ができ、頬もこけた様に見えた。

「アリアの表情、温和になった。それだけで十分よ。」

マリアは私の頬に手を伸ばして触れると、優しく微笑んで言った。

「うん。大切にする。だからゆっくりして。」

「えぇ。」

力なく私から手を離すと、マリアは目を閉じて椅子に深く凭れ掛かった。

「行ってくるね。」

言ってみるが、その後の反応は無かった。

エルメラから言われるまでもなく、今後の戦いは気を付けようと思った理由がこれだ。

こんなに疲弊するなら、魔法を使わせる状況は作らない様にしようと。






「アリアちゃん、次これ着てみて。」

「え、まだ着るの?」

「当り前じゃん!」

何が当たり前なのかわからないわ。

リリエルが着るならいいのだけど、何故私ばかり。

でも、楽しそうにするリリエルを見ると、もう少し付き合おうと思った。


エルメラデウス領から約一か月。

今はメイオーリア王国王城、テンセルエルゼ城。

その城の堀を隔て広がる城下町アイクレッセに私とリリエルは居る。


メイオーリア王国南東に位置するテンセルエルゼ城は、南端にあるエルメラデウス領から東に暫く進んでから北上した。

ここから更に一か月程東進すると、ランフェルツ公国との国境がある。

まずは国境を目指すのだが、リリエルが城下町で買い物がしたいというので付き合う事にした。

てっきりリリエルの買い物かと思ったら現状なわけだけど。


「宿の近くに美味しいお店があるんだ。前に来た時に食べたんだけど、アリアちゃんにも食べさせたくて。買い物したら行こうね。」

「えぇ、わかったわ。」

城下町に入ってからというもの、完全にリリエルに流されるままになってしまった。

たまには、悪くない。

そう思えるのも、リリエルやマリアのおかげね。





-同刻、エルメラデウス領-


応接間でエルメラデウスが、対する男性を睨みつけていた。

「はて、余の聞き間違いかの?」

「いえ。」

「ローデルベリウがはっきりとそう言ったのかと聞いておる。」

「わたくし如きが陛下と直接会話などできませぬ。宰相殿より、陛下のお言葉として伝えに来たまで。」

対する男性はエルメラデウスを見返して淡々と答えた。


「国家の安寧に寄与している余が?」

「領主殿の寄与がいかほどのものかわかりかねますが、もう一度言いましょう。貴女には国家転覆の疑いがかけられています。」

エルメラデウスは男性を睨んだまま口の端を吊り上げた。

「ほう。ローデルベリウが直接言ったのであれば誤解の解きようもあろうが、狸の戯言に付き合うてはおれぬな。」

「王家を敵に回すおつもりで?」

「余が直接ローデルベリウと話すと言っておる。」


「はて、それはどうでしょう。」

淡々と語っていた男性が、薄ら笑いを浮かべて言うと、一枚の羊皮紙をエルメラデウスに差し出した。

「手際の良い事じゃ。」

エルメラデウスは羊皮紙を受け取ると、男性から目を離さずにエウスに渡す。

「こんな事が・・・」

内容を見たエウスも驚いた後、男性を鋭く睨み付けた。



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