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女神ノ穢レ  作者: 紅雪
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三章 愚者ニ捧グ血ノ射陽 - 26.決闘

「すご!遠くから見ていた時も大きいって思ったけど、近くで見るとすご。」

塞壁の町、トルヘン。

町の奥に聳え立つ壁は、天を衝くような人工の絶壁だった。

国境を隔てる山は、リュオンカ領に入る時に越えた岩山とは高さが違う。

「本当に凄い。」

「作った人頭おかしいよね。」

これを人の手で造り上げたのだとしたら、どれだけの労力と年月を要したのだろうか。

壁と思って興味はなかったけれど、見れて良かったと思える。

「壮観だわ。」

「崩れたら町が壊滅しそうだけど。」

なんて事を言うのよ・・・


トルヘンまでの数日、あの時のような夜襲は無かった。

襲われるのは夜だけとも限らないのだけど。

それでも、平穏に旅を続けられたのは良かった。

執拗に狙われるのも辟易するけれど、一度受けてしまうと無いのも不穏に思ってしまう。

できれば、面倒だからこのまま何事も無くシシルに辿り着く事を願う。


「とりあえず宿を確保して、スェベリウのところに行こうか。」

「わかったわ。」

この町にいる滓。

エルメラは彼に会えと言っていた。

それが何を意味するのかは聞いていない。

アリーシャと同様に、私に何かを伝えようとしているのだと思う。

状況の確認、とは言われていない。

だから、そう考えている。

「予兆もないから戦闘にはならないって言っていたけど、どんな人だろうね。」

「この旅をしている間に状況が変わっていなければいいけど。」

「それね。」

リリエルもエルメラの言葉を鵜呑みにしているわけではない様ね。

いくら予兆が無いと言われても、二回も目の当たりにした滓の暴走は不安の方が大きい。

どちらにしろ、顕現した場合は私たちしか相手にできないわよね。




スェベリウの家は、聳え立つ壁の傍にある。

傍と言うよりは、隣接しているというほど近い。

壁と家の間は人が一人通れる程度の隙間しか空いてないほど密着している。

他に同様の家は無いため、スェベリウの家だけがその状態だ。

「よほど壁が好きなんだね。」

リリエルの皮肉なのか不明だけど、そうじゃないとは言えない。

とりあえず会ってみない事には。


「あ、エルメラから聞いているよ、入って。」

家を訪ねると、髪が長く線の細い青年が笑顔で迎えてくれた。

勝手な印象だけど、もっと体躯のしっかりした人物を想像していた。

それは、既に暴走してしまった滓を先に見ている所為かもしれないけれど。

「ちょうど良かったよ。今日は決戦の日なんだ、見ていくんだよね?」

家の中に入ると、スェベリウが当たり前の様に言う。

「決戦って?」

「あれ、エルメラ聞いてないの?」

「会えとしか言われてないよ。」

リリエルの言う通り、本当に会えとしか言われてない。

「もう、相変わらず適当だなぁ。」

スェベリウは言うと、苦笑いを浮かべながらお茶の準備を始めた。


「此処が国境だという事は知っているよね?」

「えぇ。小競り合いが絶えないとも。」

用意されたお茶を前に、スェベリウが確認してくる。

「実はそんな大層なものじゃなくてね。他は知らないけど、トルヘンは平和なものだよ。」

「どゆこと?壁の間で殺し合いしてんじゃないの?」

聞く限りではそんな話しだった。

私に殺し合いを見る趣味はないから、それならさっさとシシルに移動したい。

「あはは、そんな野蛮な事はしないよ。いや、ある意味似たようなものかもしれないね。」

要領を得ないわね。


「一応越境するには通行料が必要な事になっててね。その通行料を賭けて闘っているんだよ。」

何それ・・・

相手の国にそれぞれ払えばいいだけじゃない。

「殺し合いに勝った方が全取り!」

「いや殺しあわないから。」

リリエルが妙に力を入れて行ったが、スェベリウは苦笑いで否定する。

「通行料ってそれぞれが勝手に決められるからさ、昔は確かにそれで揉めたりしてたらしいよ。」

そういう事。

どっちが高いとか、くだらない話しで争っていたわけね。

「そうなると通行止めになってしまって、回収出来た通行料が回収出来なかったり、越境したい人からの不満も増えたわけだ。」

そりゃそうよね。

「そこで協議の結果、通行料は同じにして、その一部を定期的に賭けて決戦を行い勝った方がもらう。その決め事が今でも行われているんだよ。」

結局通行料の取り合いって事には変わりないじゃない。

「それで町に人が多いんだ。」

リリエルは納得したようだけど、それでどうして人が多くなるのよ。

私には理解できない。


「そうそう。今ではお祭りみたいなものでね、決戦を見に来る人が増えちゃって。」

闘いを見に集まる?

私にはよくわからない。

何が楽しいの?

「それって、勝った人がもらえんの?」

取る気なんだ。

「違う違う、それじゃ無法地帯になっちゃうだろ。町の財源を賭けるんだから、当然勝った方の町の財源だよ。」

「なんだ、じゃぁいいや。」

貰えるなら出る気だったの?

「でも、それって私たちには関係ないじゃない。」

エルメラがそんな決戦をわざわざ見せたかったのだろうか。


「そうでもないよ。多分、エルメラが見せたいものはその決戦の中にあるから。」

「どういう事?」

決戦を見て塵や滓に繋がる情報なんて得られるとも思えない。

一体何を見せたいのだろうか。

「行けばわかるよ。」

強制って事ね。

「エルメラにも言われているからね。」

「わかったわ。」

何を見せたいのかわからないけど、エルメラが見せるという事は、無駄ではない気はする。


「そろそろ時間だね。」

スェベリウは言うと椅子から立ち上がる。

「決戦ってどんな感じなの?」

「その時によるけど、概ね一対一での決闘かな。決闘用の服に着替えてくるからちょっと待ってて。」

「え!?あんたが出るの?」

「そうだよ、僕が闘うのさ。」

スェベリウは笑顔で答えると、奥の部屋に入っていった。

「弱そ・・・」

スェベリウが部屋に入るのを確認するとリリエルが呟いた。

確かに、それは私も同感。


「お待たせ、行こうか。」

部屋から出てきたスェベリウは、かなりゆったりとした服装になっていた。

どんな戦いをするのか、それは見てみるしかない。

エルメラの真意も。





「本当にお祭りじゃん。」

壁に設えられた小さな扉を潜って、壁の内側に入ると既にかなりの人数がその場所に居た。

リリエルの言う通り、幾つかの屋台やそれに並んで食べ物を買う人、既に食べている人も居るのを見ると確かに、まるでお祭りの様。

それに、中央付近にはかなりの人数が集まっていた。


「スェベリウ!今回も頼んだぜ!」

「バルグセッツの奴なんかやっちまいな!」

門の内側にスェベリウが入ると、待っていたトルヘンの町民であろう人たちの声が飛び交う。

スェベリウはそれに笑顔で手を上げながら応えて進む。


「意外と人気じゃん。」

「そうね。」

線の細い男性に見えたけど、町民の熱を見る限り弱くはないのでしょうね。


通った門とは違い、通常越境のために開放されるであろう大きな門からは、バルグセッツ側まで石畳の舗装がしてある。

それはバルグセッツ側からも同様だが、中央付近は大きな円形状の広場の様になっていた。

人々はその広場を囲うように集まっている事から、決闘はその場所で行われるのでしょうね。

「げ、あれ人間?」

「のようだけど・・・」

リリエルの疑問もわかる。

集まった人々の中にあっても、広場に立つ大きな男が確認できた。

胸の位置が他の人の頭上に来ているのだから嫌でも目に付く。

軽装に頭部を保護する兜、獲物はこん棒。

いくらこん棒といっても、あの巨体から繰り出される一撃は必死な気がするのだけど。


「スェベリウよ、今回は我らが勝たせてもらうぞ!」

中央に辿り着いたスェベリウに、バルグセッツ人であろう男が意気を上げた。

「いやぁ、僕も町の財政のため、負けるわけにはいかないんだよねぇ。」

「そりゃこっちも一緒だ!ここ数回は負けっぱなしだからな。エルボア警備隊の面子にかけても絶対倒す!」

「こんな小僧に負けていたのか?」

巨体の男が、スェベリウに息巻いている男に呆れた目を向けた。

そりゃそうでしょうね。

見た目通りなら。

「バカ!油断するなよ。弱そうに見えるのは今だけだって。」

「ふん、どっちにしろ俺の敵ではなさそうだな。」

巨体の男は、目の前に立ったスェベリウ見下ろすとこん棒振り上げた。


「あれは当たったら頭が爆ぜるよね。」

リリエルって思った以上に過激よね。

「そうなったらシシルに向かうだけよ。」

「そだね。」


そんな会話をしている間に、こん棒は振り下ろされた。

だが、スェベリウは避けようともせずに左手を上げると、身体が膨張してこん棒を受け止めた。

「狂暴化!?」

「げ、こんな時にめんどいって!」

私とリリエルは急いで人をかき分け、決闘が始まっている場所に向かった。


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