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女神ノ穢レ  作者: 紅雪
25/72

三章 愚者ニ捧グ血ノ射陽 - 24.種火

坂を上った先は、多少の傾斜はあるもののかなり広く均された土地が広がっていた。

その片隅、上った先の左側に家が二件並んで建っている。

一晩凌ぐための建屋、という感じではなく生活感があった。


「畑があるよ!」

リリエルが声を出し指差した先には、確かに畑があった。

種類は不明だが、数種類の野菜が青々として並んでいる。

「こんな場所でも、住んでいる人がいるのね。」

「残念、今晩使おうと思ったのに。」

私も少し期待していた分、残念な思いはある。

同時に、こんなところでも人が住んでいるのだという思いもあった。

「せっかくだから、片隅でも野宿に使わせてもらえないかしら。」

「だよねぇ。あの道で野宿はちょっと怖い。」

崩れる心配は無さそうではあったが、閉塞感が気持ちを疲弊させる。

「聞いてみよ。」

「そうね。」


家に向かって歩いていると、一人の男性が出てきた。

ちょうどいい。

「うわ、人が来るなんて珍しい事もあるもんだ。」

声をかけようと思ったが、男性の方が先に驚きの声を上げる。

「ここに住んでんの?」

「あぁ。村間の中継宿みたいなもんなんだが、今は来る人もいなくなったけどなぁ。」

男性は遠い目を、オルブゲン村の方へと向けた。

村が無くなった所為で、という事なのでしょうね。

「で、なんの用で此処に?」

「エセット村に向かっていたんだけど、時間的に野宿かと思っていたところにたまたま見つけたのよ。」

「なんも知らずに歩いてたんか!」

と言って男性は驚きから大きな声で笑った。

「って事は、オルブゲン側から来たんか?」

「うん、そうだよ。」

男性はリリエルの返事を聞くと、今度は寂しそうな目をオルブゲン村の方に向けた。


「この場所で、野宿させてもらえないかしら?」

私のお願いに、男性はきょとんした顔をする。

「普通にあっち使っていいぞ。目の前で野宿なんかさせられるか。」

「え!?いいの!」

男性は出てきた家とは別の方を指差して言った。

リリエルも嬉しそうに確認する。

良かったわ。

こんな硬いところで寝たら、身体が痛くなりそうだもの。


「でかい独り言だなザスカ・・・」

続いて家からまた男性が一人。

私たちを見て、やはり驚きの顔をする。

よほど此処に人が来るのが珍しいのね。

「客か!?」

違うから。

「迷子だ。」

それも違う!

「迷子じゃないよ!エセット村に行く途中って言ったじゃん!」

「寝る場所探してたんなら変わんねぇよ。」

と言って、ザスカと呼ばれた男性は笑った。


「泊まるのは良いが、今火を起こせないから大した料理も出せねぇんだ。」

「え、料理でるの?」

びっくり。

そんな事をしてくれるのね。

人が来ないなら宿なんて廃業してても不思議じゃないのに。

「出すが、ちょっとばかり・・・」

と、言い難そうにザスカは目線を逸らした。

あぁ、お金か。

「ちょっとくらいあるでしょ?」

「うん。大丈夫だよ。」

リリエルに確認すると、笑顔で頷いた。

私は旅に慣れていないので、お金に関してはリリエルに任せている。


「よし!そんじゃ、採れたての野菜をご馳走してやる。」

それはそれで、楽しみだわ。

「ところで火が起こせないって言っていたわね。」

「あぁ。火打石が無くなっててな。次の仕入れ時までは使えねぇ。」

もう一人の男性が言った。

不便なのね。

「昔はアリーシャの嬢ちゃんが定期的に種火を置いてってくれたんだがなぁ。」

と、ザスカがまたも遠い目をした。

「アリーシャが!?」

思わず大きな声を上げてしまったが、男二人が驚いて私に視線を向ける。


「何故知っている。村が無くなったのは嬢ちゃん達が生まれる前だろう?」

男二人の顔が険しくなった。

うっかり反応したのはまずかったの?

「聞いたからよ。」

「そりゃそうだよな。会ってなくても聞きゃわかるわな。」

と、男二人は目を合わせたあと笑い出した。

なんなの、こいつら。

それよりも、種火ねぇ。

思い当たると言えば、陽炎しかないわよね。

「その種火、どんなの?」

「ん?そうだな。小さいが数日はゆらゆら燃えてんだ。消えないのが不思議だったよな?」

「あぁ。特別な魔法って言っていたな。」

やっぱり。


「ちょっと待って。」

私は言って、右手の人差し指軽く動かすと、男二人は怪訝な顔でそれを注視した。

「陽炎。」

掌を上に向けると、揺らめく小さい炎が現れる。

「これじゃない?」

「なっ!!!」

「ちょ、お、そ・・・」

何を言いたいのかわからないわ。

「それ!それだ!それなんだよ!」

わかったから。

少し落ち着いて欲しいわ。

指を差したり、炎を見て互いに目を合わ、また炎を見てを繰り返す挙動が怪しい男二人。

と思ったら泣き出した・・・

「アリーシャ~・・・」


本当になんなの、この二人。




「アリーシャは良い子でなぁ、笑顔が可愛い優しい子だったな。」

落ち着いたザスカが懐かしむようにもう一人に言う。

「ほんとにな。大きくなったら俺の嫁になるってよく言ってたもんだぁっ・・・痛ぇな!」

「目が覚めたか嘘つきゲラッド。妄想もほどほどにしとけ。」

・・・

なんか、疲れるわ。

「いいや、きっと心の中では思ってくれてたね。」

「ねぇわ!」

この二人は知らないのかしら。

アリーシャがどんな目に遭っていたのか。

知らないのでしょうね。

こんなに感情豊かにアリーシャの事を話せるのだから。

だからきっと、加担もしていないと思いたい。


「アリーシャって、女神の浄化の塵だったのよ。」

だから、私の黒い感情がその言葉を言わせた。

「アリアちゃん・・・」

咎めるような目をリリエルは向けてくるが、どうしても見たかった。

人間としての反応を。

性を。

本質を。

「それが?」

「聞いた事あんな、忌み子だったか?でもアリーシャはアリーシャだから関係ねぇよ。」

「あぁ。あんな優しい子のどこが忌み子かわからねぇよ。そんな事を言うやつがいたら俺がぶっ飛ばす。」

「もちろん、俺もだがな。」

・・・

そう。

そうなのね。

だからなんだ、という反応をされるなんて、思ってもみなかった。

「そうよね。」

「あぁ。」

「ところで、村が無くなった原因って何?」

こっちはついでだから聞いてみた。

他意は無い。

「知らん。でもあれの所為で俺のアリーシャも巻きまれたんだよなぁ・・・」

「そうだ、くそ!・・・ってお前のじゃねぇわ!」

・・・

こいつらの相手、面倒だわ。

凄く。

組み合う二人を見て思ったが、リリエルはその光景を楽しそうに見ていた。

そう。

こういうのが、楽しいって事なのかしら?



「それよりあんた。火種作れんなら金はいらんから、置いてってくれねぇか?」

・・・

まぁ、いいけど。

数日という長時間を生成するのはかなり疲れるんだけど。

「もっちろん!!」

なんでリリエルが返事をするのよ。

「よし!今夜は焼き魚も付けてやれるぞ。」

いや、勝手に進めないで、私の意向は?

「こんなところに魚なんかいるの?」

「いや。山を下りて川で捕ってくんだ。家の裏に小さいが池を作ってあってな。」

へぇ。

こんな岩山の上で焼き魚を食べれるなんて。

「見たい!」

「おうよ、じゃぁ付いてきな。」

歩き出したゲラッドに続いて、リリエルが家の方に向かっていく。

・・・

ま、いいか。


復讐のための力だけど。

たまには、こういうのもありかな。

楽しそうにする三人を見て、ふとそんな事を思った。


「それじゃ、嬢ちゃんは悪いが火を頼む。」

残ったザスカが笑顔で言ってくる。

「えぇ。わかったわ。」

頷くと、ザスカは家の方を指差して促した。





「アリーシャと同じ事ができるって事は、アリアも女神のなんとかなのか?」

「そうよ。」

あ・・・

晩ご飯をご馳走になっていると、ザスカが聞いてくるので思わず答えてしまった。

「そりゃすげぇな。アリーシャを失った俺に天が遣わしたに違ぇねぇ。」

「だからお前のじゃねぇっての。」

気にも留めてないみたい。

危惧し過ぎかな。

でも、この人たちは少数派。

今回だけよ。

「実は俺らも盗賊団なんだ。」

なに、対抗意識?

「盗んだ事もねぇのに盗賊団ってなんだろうな。」

何それ。


「なんで盗賊団なんて名乗ってんの。」

ザスカの疑問に、リリエルが呆れた目を向けた。

「先代がなぁ、名前に迫が欲しいとか言って、黒鷲の傘下に入ったんだよ。」

「黒鷲ですって!?」

思わず上げた声に、全員食事が止まった。

でも、聞き捨てならない名前だもの。

「あ、あぁ・・・」

ザスカもゲラッドも驚きから怪訝な表情に変わる。

「領間を結ぶ山道の拠点としては機能していたが、それもオルブゲン村があった頃までだ。」

「だな。団員が休んでいくだけで、先代含め俺らはずっとここで生活してたもんな。」

私とリリエルは顔を合わせて、首を傾げた。

「今思えば、本当かどうかも怪しいよな。」

「一応先代は、グスタブに交渉して傘下に入れてもらったって言ってたぜ?」

グスタブ?

誰?

「多分、ゼラウスの前の団長。」

私がリリエルの方を見ると答えてくれた。

なるほど。

「そうそう、リリエルの言う通りだ。今はゼラウスだっけか?」

「だった、だな。ほらこの前、死んだって聞いたじゃねぇか。」

「あぁそうだったそうだった!」

と言ってザスカとゲラッドはお互いに大きな声で笑った。


この二人、本当に盗賊団なのかしら・・・

横を見るとリリエルも笑っている。

「って事は、俺らもう盗賊団じゃねぇんじゃねぇか?」

「言われてみるとそうだな。元々先代が言っていることも、本人が言い張ってだけかもしれんが。」

「あり得るな。」

と言ってまた笑い出す。

何が楽しいのかしら。

「ま、そんな感じだ。」

何がよ!?

いきなり真顔でそんな事を言われてもわからないわよ!

「ダメじゃん。」

「おう、言われてぞ。」

「お前もだよ!」

リリエルの突っ込みに、またもザスカとゲラッドが組み合った。


こんな騒がしい晩ご飯、初めてだわ。



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