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女神ノ穢レ  作者: 紅雪
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三章 愚者ニ捧グ血ノ射陽 - 22.跡地

オルブゲン跡地へはケープニアに向かう街道より北にある街道を通る必要がある。

その街道はやがて、リュオンカ領とを隔てる岩山に沿うように続く。

既に、左手に岩肌が続く崖の様な光景を見続けて数日、変化の無い景色にも飽きてきた。

平地であればある程度景色に変化もあるが、只管同じ色を見続けるのは何とも。


岩山と言っても草木が無いわけではなく、所々に生えてはいるが、緑に染まるほどの場所は無い程度。

今のところ歩いて登れそうな気はしないが、目的の場所はリュオンカ領との経由地というのだから、今と景色は変わるのだろうか。


「あ、この道だね。」

街道から南に伸びる道が目に入ると、馬首を巡らしながらリリエルが言った。

ポアルという小さい町。

ケープニアへ続く街道と違い、途中の村や町も少なく、活気も少ない。

おそらくこの町もそうなのでしょうね。

利用する人間が多いか少ないかで、明らかに違う。

「最後の晩餐。」

「違うから!リュオンカ領に入るまで無いってだけだから!」

言ってみただけ。


この町からは徒歩で向かう事になる。目的地のオルブゲン跡地までは徒歩で二日程。

馬は山を越えられないから、預けて行くしかない。




「跡地について、詳しい事聞いた?」

「聞いてないわ。」

町の宿を兼ねている食堂で、晩ご飯を食べている時にリリエルが聞いてくる。

人は少ない。

住人らしき人が数人、お酒を飲んだりご飯を食べている程度。

宿泊しているのは私たちだけのようだった。

「二十二年前、暴走した塵によってなくなった。」

「うん。で、当人を含むそこにいたすべての人が死んだため、詳細は不明。だよね?」

「そう。それしか聞いてないわ。」

エルメラから聞いた話しでは。

確かに、当人ごと村が無くなったのであれば、誰にも原因はわからない。

けれど、何故それが塵によって齎されたと判明しているのか。


「暴走しなくても、あたしなら村を壊滅させる。」

目に怒りを浮かべながらリリエルが言う。

現地が近付いたから話してはいるものの、気分が悪くなるのは目に見えているので道中、お互いオルブゲンの話題には触れなかった。

「私も。場所がデニエラ村かオルブゲン村かの違いだけよ。」

「壊滅という結果は同じでも、違いは意図したか事故かの違いだよね。」

気分は晴れないにしても、復讐は達成という意義を感じる。

でも、当人の心は耐えられず壊れてしまったのかもしれない。


デニエラと違い、オルブゲンは経由地だった。

人の往来がある中で、塵に対する蛮行が隠し通せる筈もない。

と、聞いた時は思った。

でも、オルブゲンで起こっていた事はそれどころじゃない。

経由する人間を見て、話しを持ち掛け、拷問を商売としていた。

そのため、オルブゲンに塵が居たことは判明している事実。

村が一日で滅んだのであれば、塵の影響と結び付けるのが可能性としては高い。

むしろ、現地に居た人間がいなくても、そう考えるのが自然よね。


私は殺されるために来る日も来る日も拷問を受けた。

だけど、オルブゲンの塵は拷問をするために生かされた。

私との大きな違い。

想像も出来ない。

そんなの、発狂したって不思議じゃない。


「ご飯の時にする話しじゃなかったね。」

「そうね。」

この場にエルメラが居るなら文句も言いたかったが、それを承知でこの場所に行かせたのでしょうね。

何を考えさせたいのか。

何を思わせたいのか。

それは未だわからない。


「明日野宿だし、ちゃんと食べてゆっくり休も。」

気持ちを切り替えるように、リリエルが言うと追加の注文をした。

身体の疲れや空腹はここである程度満たせるけれど、現地でどうなる事か。

それが不安だった。

どちらにしろ行かない事にはわからないので、私もリリエルの言う通り身体をゆっくり休める事にした。





「どういう・・・事?」

一泊の野宿をして辿り着いた場所は、黒かった。

ただただ黒い。

岩肌も、地面も黒く、草木すら生えてない。

見渡す限りの黒一色。

「これが、暴走の結果?」

「だよね。」

街道からそれた道までは、草木はあった。

途中から開けた景色には、村があったであろう広範囲で何も無い。

「これ、アリアちゃんも可能なの?」

「え、無理よ。」

近いのは黒灯・蝕だけど、あれは対象を食らった後には消える。

発現して今日までこの状態って、いったい何をやったらこうなるのよ。


「でも、‘ハ’の暴走による結果なら、潜在的に同様の力を持ってるって事だよね。」

確かにリリエルの言う通りだけど。

「そうだとしても、使い方がわからないわ。」

それに、使いたいとも思えない。

復讐の対象は人間であって、自然の法則を捻じ曲げるような事じゃない。

でもひとつはっきりしたのは、私にもこの景色が可能な力が内在しているという事。

「でもこれは、使うべきじゃないよね。」

「えぇ、私もそう思う。」

知らなくていい、こんな力。


「人が訪れるのは何年振りか・・・」

私とリリエルが圧倒されていると、微かに声が聞こえた。

声の方を見ると、黒と緑の境界に一人の老人が立ってこちらを見ていた。

杖をついているのは、左足の膝から下が木の棒だからだろうか。

何かで左足の膝から下を失ったのでしょうね。

「誰だろ?」

「さぁ・・・」

無視しようと思っていたが、老人はこちらに近づいて来ている。

面倒事じゃなければいいけど。

「もう、行こうか?」

「だね。それが良いかも。」

私とリリエルがその場を後にしようと、跡地に背中を向けたが、老人は慌てて動き私たちの前に倒れこんで来た。

この爺・・・


「まさか・・・まさか・・・また女神様と見える事ができるとは。」

老人は私を見ると、目に涙を浮かべながら口を開いた。

「人違いよ。」

女神、が何を指しているのか不明だけど、相手にしたくない。

「儂にはわかるのじゃ、女神様の力が。この景色を創った女神様と同様の力を持っていることが。」

!?

まさか・・・女神の浄化の塵の存在を感知できるの!?

「アリアちゃん・・・」

「そうね。場合によっては殺す。」

真面目な顔を向けてくるリリエルに、私も頷いた。

「そうじゃなくて。どういう事か聞こうよ。」

それはわかっているけど。


「どういう事か、説明してくれる?」

リリエルは私の前に出て、老人に話しかけた。

「そうか、お嬢ちゃんもそうなのか。」

本当にわかるのか、出会う女性みんなに同じことを言っているのか。

後者なら蹴る。

待て、よくよく考えるとこの景色の原因である塵を知っているようだったわね。

「偶然じゃ、儂が生き残ったのは。」

老人は地面に座ると、遠い目をしながら話し始めた。


「儂は、オルブゲン唯一の生き残りでな。」

全滅、と聞いていたけど。

「生き残りは居ないんじゃ?」

「そうだな。儂も今初めて口にした。」

胡散臭い。

「できれば、命尽きる時まで抱えておくつもりだったのだよ。」

「何故?」

それなら黙ったまま死ねば良かったのに。

「頼む女神様、儂を殺してくれ!」

話しが飛んで、事情がまったくわからないわ。


「あのさ爺さん。生き残りなら事情を教えてくれない?」

苛立つ私に代わり、リリエルが聞いてくれているが、当人も苛立ちを隠せてはいない。

「どこまで知っておるかわからぬが、儂が知っている事は話そう。ただ、最後に関しては儂は森へ出ていたので、わからぬ。」

それで助かったって事?

「突然村が黒い光に包まれてな。儂の左足もその時に失った。踏み込んだ先が範囲だったんだ。」

老人は左足の膝部分の布を捲った。

そこには黒く染まった断面と、浸食されたのか黒くなった太腿が露わにされる。

人体にもその影響は残るのね。

「痛みは無かったから、最初は無くなった事に気が付かなかった。立とうとしたときに、立てなく気付いた程だ。同時に、これが女神様の力だと儂は思った。」

まず間違いないでしょうね。

「私たちは女神の浄化の塵、女神ではないわ。」

「その力を宿しているのだから、女神様だよ。儂がそう改めたのは、村が無くなってからだが。」

都合の良い解釈だこと。


「村では何をしていたの?」

あまり聞きたくないけど、リリエルが確認した。

改めたって事は、それまではそういう扱いじゃなかったわけでしょ。

聞いていた話しの信憑性が増しただけな気がした。

「村には、火の魔法が得意な少女がいたんだ。名をアリーシャ。」

老人は思い出すように、懐かしむように、空を見上げて過去について話し始めた。

「生活と火は切り離せぬ。アリーシャは誰からも頼られ、本人も嬉しそうに笑顔を振りまく優しい少女だった。」

ますます聞きたくなくなってきた。

「特に、宿では窯で焼いた料理が評判でな。」

「それならどうして、こんな事になったのよ!」

リリエルも聞いていて察したのでしょうね、声に苛立ちが現れている。


「誰かが言ったんだ。あれほどの力は忌み子じゃないのか?と。」

後は、なんとなく想像がついた。

「あんな良い娘が、そんなわけはない。と、誰もが口にした。だが、口ではそう言うものの、一度落ちた疑問は消えることはなく波紋となって広がった。不安とともに。」

でしょうね。

懸念は疑念になり、疑念は疑惑となり、疑惑から生まれる不信と不安で狂走へと駆り立てる。

「ある日、突然アリーシャは姿を消した。儂は知人数人に聞いて回ったが、突然居なくなったとしか答えは返ってこなかった。」

老人はいつの間にか目線を地面に移していた。

その目線はやがて、私たちを通り越し黒い大地に向けられる。

「言動が怪しい奴を何度も問い詰めた。姿を消す前日、男数人で帰宅中のアリーシャを襲い、服を脱がせたと。それ以降は、村長の家に拘束しているのだと吐露した。」

それが始まりってわけね。


「ちなみに、その子の身体は見たの?」

老人は唇を噛んでゆっくりと頷いた。

「儂自身も、疑念を晴らしたかった。」

そう。

「これ?」

私は上着をずらし、肩甲骨部分にある痣を老人に向ける。

「あぁ・・・あぁっ!・・・アリーシャ!!」

大粒の涙を流し、嗚咽混じりに老人は少女の名前を叫んだ。

どんな思いがあるかなんて知らないし、興味ない。

でも、私に転移する前は此処に在ったことだけはわかった。

それが、何人前かはわからない。

アリーシャが死んだのは二十二年前。

私が生まれたのは十七年前だから、その五年の間にどれだけの人間を渡り歩いたかまでは。


「すまぬアリーシャ・・・すまぬ。儂は、儂は・・・」

話しが途切れてしまったわ。

「私はアリーシャじゃない。続きを話す気が無いならもう行くわよ。」

胸糞の悪い話しだとわかってはいる。

けれど、事の顛末は聞いておきたいと思った。

それは、アリーシャがどうなったか気になったのではなく、私の復讐心を再確認するために。

「すまぬ。」

それだけ言うと、老人は服の袖で涙を拭って私を見た。

未来も希望も生気もない、在るのは悔恨。

そんな気がした。

「村長の家に行った儂は絶句した。たった数日。たった数日だ。裸で拘束されていたアリーシャの身体は全身痣と傷だらけで、新しい傷からは血が流れ、本人の判別すら難しいほど顔は腫れ上がっていた。」

どいつもこいつも、やる事は同じ・・・

「儂の中で何かが壊れた気がした。人間という生き物はここまで残酷なのかと。生活している日常はそれを隠すための偽りでしかないと。」

そうよ。

それが人間。

私もそう思ってずっと生きてきた。

エルメラに遭っても、今でもそう思うところは無くなりはしない。


「儂はアリーシャを解放しようとした。連れて逃げようと。忌み子と呼ばれようと、アリーシャも同じ人間。何より!儂はあの子がいた日常が忘れられなかった!あの優しい笑顔に戻って欲しかった!」

「めずらし。」

老人の話しを聞いていたリリエルは言うが、その声は酷く冷めていた。

そうしていたら、こんな事にはなってなかった。

この老人だけ生き残ってはいなかった。

想像に難くない。

「ある日の夜、儂は村長の家に忍び込んでアリーシャを連れ出そうとした。」

本来、この老人の様な思いをみんなが持っていたら、この村は無くなってない。

「だが、儂の動きは察しられていた。捕まった儂も暴行を受け暫く動けなかった。」

殺されても不思議ではない。

何故生かされたの?

「数日後奴らは、儂に無理やり短剣を握らせ、アリーシャの腹部に突き立てさせた。」

そう。

そいつらにとって、人間すら愉悦の道具としたわけね。

「必死に抵抗した儂は、その感触が手に伝わった瞬間絶叫した。たとえ、やらされたとしても、アリーシャを傷つけてしまった事に。そして、叫んでいる中、自分の中で何かが崩壊していくのが分かった。」


それから老人は、嗚咽を漏らしながら何度も地面を殴っていた。

拳の皮膚が裂け血が滲み、やがて地面を赤く染め始めるまで。

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