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女神ノ穢レ  作者: 紅雪
22/72

三章 愚者ニ捧グ血ノ射陽 - 21.療養

「お待たせ~。」

リリエルの声で、落ちかけていた意識が呼び戻される。

思った以上に疲れていたみたい。

身体中痛い。

左手の骨折した指は、伸ばして添え木をしている。

暫くはまともに使えなさそう。

包帯を巻いた右手も、痛すぎる。

「起こしちゃった?」

「ううん、大丈夫。」

今の状態で街に入ると奇異の目を向けられると思って、無傷のリリエルに馬の調達をお願いしていた。

外で外壁に寄りかかって待っていたら、意識が朦朧としているところで声をかけられる。

実際、痛みの事を考えれば意識が無くなった方が楽な気はした。

「次の村までは、あたしが手綱を握ってあげるよ。」

「そう、ありがと。」

「一応包帯や塗り薬は買ってきたけど、施療院行った方がいんじゃない?」

「大丈夫。」

行けば拘束されそうで嫌だ。





「お主は復讐に出向く度、何故満身創痍になるんじゃ!」

あれから十日、無事にエルメラのお城へと帰り着いた。

傷の方は、まぁ動けない事もない。

ゼラウスの体当たりで折れた肋骨も未だに響く。

折れていた事に暫く気が付かなったけど。

左足首を飛ばした後、油断したのは私だから仕方がない。

「そんな軟弱に育てた覚えはないぞ!」

「育てられた覚えもないわ。」

「む、そうじゃな・・・ってそういう事を言っているわけではないのじゃ。」

わかっているけど。

「エウス、すぐに療法師を手配するのじゃ。」

「承知いたしました。」

エルメラの後ろに控えていたエウスは、一礼するとすぐさま動き出す。

「いや、そこまで・・・」

「駄目じゃ。お主は暫く此処から出さん。」

・・・


仕方ないか。

また、遠出する必要もあるだろうし。

復讐のために、今は身体を万全の状態にした方が良いわね。

「まったく。戻ったら一仕事頼もうと思っておったのに。」

溜息を吐くようにエルメラは言うが、滓の対応くらいなら出来ない事もない。

「それくらいなら・・・」

「ん?」

言った途端、凄い睨まれた・・・

「まずは食事じゃ。傷を治すのに栄養も必要じゃからの。」

「あたしもあたしも!お腹すいた。」

私より先にリリエルが手を挙げた。

「うん。」

私もリリエルの後に頷くと、城内に向かうエルメラの後に続いた。

ここで終わりじゃない。

だから、また動けるように早く治さないと。


「次の情報については食事をしながら聞くのじゃ。聞いてすぐに飛び出すほど愚かではあるまい?」

教えるけど大人しくしておけって事ね。

わかってる。

そこまで馬鹿じゃない。

「わかってるわ。」

「うむ。飛び出そうとしたら余が動けなくするからの。」

・・・

声音が本気だ。

恐いから言う通りにしていた方が、良さそうね。


「奴隷商人のデダリオは現在国外に居る。そのため、次に向かうのは司祭イギールじゃな。」

セアクトラで司祭をしていた奴か。

確か、今はリュオンカ領のシシルってところだっけ?

「覚えておるか?」

テラスに着き、椅子に座ったエルメラが確認してくる。

エルメラ、ここ好きね。

「シシル。」

「そうじゃ。セアクトラの北東にあるリュオンカ領の村じゃが、領内でも東端にあるためかなりの遠出となる。」

領内横断するような感じかしら。

「故に、傷はしっかりと治すのじゃ。」

椅子に座るとすぐに出てきた紅茶に口を付けてエルメラは釘を刺してきた。


長旅なら、骨折は完治させてからの方がいいわね。

「やった!」

とか考えていると、すぐに料理が出てくる。

早すぎ。

用意していたとしか思えない。

「とりあえず、今日はゆっくりするがよい。」

「そうする。」

既に肉を頬張っているリリエルを横目に、私は頷いて食事に手を付けた。





二週間後。


朝から部屋にエルメラが来た。

まだ眠いのだけど。

療法士による治癒促進魔法で傷はすっかり治っている。

「この二週間で教えた事は、把握しておるじゃろうな。」

室内の椅子に座ると、エルメラが口を開いた。

聞いた後、何度も反芻しているから問題ない。

「えぇ。」

続いて部屋に紅茶が運ばれてくる。

・・・

何故私の部屋で?

しかも朝ご飯まだなのに!


「余からの依頼はさほど重要ではない。」

滓の確認ね。

それはそれで重要な気はするけど。

「お主にとっては、とある塵の顛末を知る事の方が重要じゃ。」

それは、私が‘ハ’として生まれる前の話し。

私の前に、それを持っていた人間の結末。


滓が稀に、力の顕現により自我を失い狂暴になる事は身を以て体験させられた。

それはエルメラデウス領に来た時と、ケープニアに向かう途中で。

個人差があるかは不明だけど、二回とも現象は同じ。

エルメラの話しでは今まで遭遇したその事象に大差はなく、概ね同じ状態との事だ。

あくまで、今までの話しなので、違う事象が起きないとは言い切れない。


今回の話しは、塵の暴走。

塵の場合は顕現ではなく、既に力を宿した状態のため暴走と呼ばれる。

もともと特異な身体能力に魔法力を持って生まれる塵は、狂暴化とは比較にならない。

という事らしい。


目的地はテルメウス領の地図から消えた村。

リュオンカ領へはセアクトラを経由せず、テルメウス領とを隔てる岩山を超えて行けるらしい。

地図から消えた村の名前はオルブゲン。

リュオンカ領側のエセット村とは、岩山を越える経由地となっていたが、オルブゲンが無くなってからは行き交う人間も減ったとか。

エルメラは、私にその跡地を見ろと言ってきた。


忌み子として扱われる一端が垣間見えるからと。


それを見たからといって、私の行動に変化は無いと言ったけど、変わる変わらないに拘わらず知っておくべきと言われた。

見る事が何を意味するのか、エルメラは私に何を伝えたいのか、それは行ってみないとわからない。

もちろん、今回も同行するリリエルにも同じ事を言っていた。


オルブゲン跡地へ一緒に行くのは良いとして、シシルまで同行は不要と言ったのだけど・・・

私がまた傷だらけにならない様、お目付け役だって。

余計なお世話。


「準備は終わったのか?」

「えぇ。朝ご飯を食べたら発つわ。」

「うむ。発つ時は声をかけるがよい。」

「わかった。」

エルメラは私の返事を聞くと、立ち上がって部屋から出る。

侍女が当たり前のように器を片付けてそのあとに続いた。




二週間の療養は、私にとって一番長い休養だった。

期間という意味ではなく、気持ちを落ち着ける時間として。

エルメラは優雅にお城で過ごしているわけじゃない事も気付けた。

領主としての仕事も多く、エウスと共に忙しくしている時間の方が長いし、頻繁に出かけていく。

来訪者も少なくない事もわかった。

此処は、普通に領主館であり、エルメラは領主なんだと。


リリエルもエルメラの指示でよく動いていたし、それを見ると私だけ何もせず時間を過ごしていた。

何れ、私もリリエルの様にエルメラに使われるのだろうか。

復讐が終わったら、当たり前の様にここで仕事をするのだろうか。

ふと、そんな事まで考える程に時間と気持ちに余裕があった期間だった。





「おはよ、アリアちゃん。ちゃんと寝れた?」

食卓のある部屋に入ると、いつも通りのリリエルが既に座って待機していた。

それもいつもの光景。

「うん。」

頷きながらリリエルの向かいに座ると、すぐに料理が運ばれてくる。

「今回は一か月以上の長旅だね~。」

「そうね。」

置かれたそばから料理を口に運ぶリリエルの言葉に相槌を打つ。


シシルは遠いので二十日前後は必要らしい。

途中、経由する場所を考えれば、行きは一か月くらい見ておいた方がよさそう。

「一人で遠征が多かったから、楽しみなんだよねぇ。」

私はその辺、あまり意識したことはない。

初めて一緒に旅をした子は、丘の上で先に眠っている。

「一人よりいいの?」

「会話できる相手がいるって全然違うよ!」

そうなのね。

言われてみれば、そうかも。

「あと独り言が増える・・・」

・・・

何とも言えないわ。

「でも今だけだよ。そのうち独りで行かされるから。」

そうなんでしょうね。


「よし、お腹も満たされたし、荷物取ってくるね。」

先に食べ終わったリリエルが椅子から立ち上がると、扉に向かいながら言った。

「わかった。」

「お城出たところ集合でいいよね?」

「うん。」

元気に出ていくリリエルを見た後、私は残りの朝ご飯を口に運んだ。




「ではリリエル、しっかりと見張っておくのじゃぞ。」

「まっかせて!」

外壁の外まで見送りに来たエルメラが、私を見ながら言う。

別に好きで傷を負っているわけじゃないのに。

「じゃ、いくね。」

今回はリリエルが前で手綱を握っている。

「気を付けよ。」

「ありがとう。」

笑みを浮かべ小さく言ったエルメラに、言葉を返すと同時にリリエルが馬の腹を軽く蹴り、馬が歩き始める。


先ずは、地図から消えた村に向かって。


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