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女神ノ穢レ  作者: 紅雪
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二章 姉妹ニ捧グ静寂ノ黒 - 20.餞別

「そう、復讐よ。」

抜剣して降りてくるゼラウスを睨んで言う。

「そうか。くだらぬ。」

くだらないかどうかなんて、お前が決める事じゃない!

ゼラウスの打ち下ろしを避けながら、短刀で手首を狙ったが察しが良い。

手を引いて飛び退き、距離を取られた。

「乗り込んで来るだけはあるな。」

エルナとユルナも始めたのが横目に入る。

それはゼラウスも同様で、気にはなっているようだ。

ただ、私にとっては姉妹の生死はどうでもいい。


向こうを意識するなら意識したまま死ね。

私は短刀を構えて間合いを詰める。

長剣相手では不利な短刀でも、速度で潜り込めば有利に変わる。

再びの打ち下ろしを左に身を逸らして避け、そのまま手首を狙いに行く。

「っ!?」

相手の右側に回った直後、剣を持っていた筈の右手で裏拳を食らった。

気付けばいつの間にか剣は左手に握られていて、よろめいた私に向かって横薙ぎが向かってくる。

私は身体を逸らして剣先を避ける。

「くっ!」

ゼラウスは横薙ぎしていた剣から手を放して勢いで私に飛ばしてきた。

寸でのところで短刀を使い軌道を逸らした瞬間、腹部に蹴りを食らって壁まで飛ばされ激突した。


「剣など道具の一つにすぎん。意識し過ぎだな。」

講釈なんか要らないわ。

「同感ね。」

「ほう。」

どこぞの肥え腐った領主とは大違い。

盗賊団とはいえ、頭だけあってそれなりの強さは持っていた。

でも関係ない。

どんなに強かろうと、必ず殺す。


短刀を左手に持ち替えて、右手の人差し指を動かしながら距離を詰める。

対峙するゼラウスは素手のまま構えた。

素手で十分ってこと?

私は間合いに入る直前で足を止める。

だが、ゼラウスに動く気配はない。

私の隙を探すかの様な鋭い視線が向けられているだけ。

後の先でも取ろうってわけ?

なら・・・


短刀で右手を狙って薙ぐ。

ゼラウスは右手を引きつつ、左手で私を掴みにきた。

私は回転を止めずに身を屈め、腱を狙って回し蹴りを放つ。

堅い!

「その様な細足で動かせるとでも思ったか!」

私に力が無いわけじゃない。

普通の男性より威力は確実にあるのに、この男の耐久性と体幹がおかしいのよ。


動きの止まった私の隙を逃さず、ゼラウスは引いた右手を勢いを付け打ち下ろしてくる。

でも、それでいい。

後の先だろうと、攻撃がわかれば。

「刃煉。」

右手に掴んだ炎の刃で拳を受け止め振りぬく。

「ぐ!ぬぅぅぅっ・・・」

私も勢いで床に叩きつけられたけど、ゼラウスの右拳から肘まで、腕を半分焼き斬った。

「塵は魔法が使えることを失念しておったわ・・・」


焼き切られた断面は尋常じゃない激痛の筈。

これで反応も鈍る。

炎の刃を持った私の手も焼け爛れているけど、この程度。

お母さんが受けた痛みに比べれば大した問題じゃない。

その結果に加担したお前も、簡単に死ねると思うなよ!

「二重・緋雨。」

続けて小さな炎の槍を生成し、ゼラウスに飛ばすと同時に距離を詰める。

ゼラウスは槍を焼き斬られた右手で受けながら、左手で迎え撃ってきた。

傷に塩を塗るどころじゃない行動を平然とやってのける精神が尋常じゃない。


私は拳を避けたが、狙っていたのは短刀を持っていた左手だったらしい。

指の骨を砕かれ短刀が宙を舞う。

本当に、予想以上の精神力。

だけど・・・

「うぬぅっ!」

後追いで飛んで来た炎の槍が左腕から左足にかけて突き刺さる。

私は舞った短刀を右手で掴み、一瞬動きの止まったゼラウスの左足首を斬り落とした。

激痛で右手から短刀が落ちる。


「何故、私を攫った?」

右膝を付いて倒れずにいるゼラウスに聞く。

「愚問にも程がある!」

「くっ・・・」

左手で左足首から溢れ出る血を、飛沫として飛ばし、体当たりをしてきた。

油断した。

まだそんなに動けるなんて。

でも、ここで止まるわけにはいかない。

それに、そろそろ。

私は短刀を銜えてもう一度ゼラウスに近付く。

体制を崩しても、迎え撃とうとまた右膝を付こうとするゼラウス。


その時、城に激震が走った。

大きな音と共に城が揺れる。

私は構わず走り、銜えた短刀を右手で掴む。

今の揺れで再び倒れたゼラウスの右足の腱を斬った。

下手に突き刺しても動きそうだから、確実に動きを止める。

「お前の仕業か!?」

「どうでもいいでしょ。」


続けて大きな爆発音が鳴る。

最初に食堂。

その音で起きた奴等は、部屋から出られずに直撃しているでしょうね。


「これでも黒鷲を率いる者だ。金になるなら何でもやったさ。」

仰向けになったゼラウスが口にした。

さっきの続きってこと。

そう。

「それ以外に理由はない。お前の境遇を聞いたところで、俺には関係ない。」

まぁ、いいわ。

内容はどうであれ、理由は聞いた。

殺すことにも変わりはない。


あの音で何人かは部屋の前に駆け付けたようだが、リリエルが扉を氷漬けにしていた。

爆音と悲鳴が扉の外から聞こえてくる。


「俺を殺すのは構わん。だが、勝手な言い分ではあるが、関与していない子供は助けてくれ。」

本当に勝手だわ。

「私は乞うても泣き叫んでも願っても、誰も止めなかったわ!」

「・・・」

死を受け入れた奴を苦しめても効果が無い。

目を閉じて何も言わないゼラウス見ると、苛立ちが込み上げてくる。

だからと言って、もう何をしても気が晴れそうな気はしない。


ふと絶叫が聞こえたので、ユルナの方に目を向ける。

二人とも床に這って、血に塗れた状態だった。

ユルナが逃げるエルナの足に短剣を突き刺している。

「やめろ!!ユルナ、それ以上は止めてくれ!」

気付いたゼラウスが、叫んでいた。

「頼む・・・」

自分の子供は助けたいらしい。

私を見上げて口を開いたが、無駄だと悟ってそれ以上は何も言わなかった。


短剣を足から抜いたユルナは、更にエルナの服を掴んで引き寄せると振り被った。

エルナは必死に、玉座の横に設えてある棚の引き出しを掴んで、ユルナの頭部を殴打する。

横倒しになったユルナに、エルナは引き出しを振り被って叩きつけた。

鈍い音と共に赤黒い液体が飛び散る。

更に振り被った瞬間、ユルナが下から突き上げるように、短剣を腹部に突き立てた。

「・・・」

それを見たゼラウスが無言で床に目線を落とす。

すべてを失くした気にでもなったのかわからない。


何を口にしているかわからない怒声と、鬼の形相でエルナはユルナの頭部に何度も引き出しを叩きつける。

服も、身体も、引き出しも、床も。

飛び散る赤黒い液体が染めていく。


「恨まれるような稼業をしていたのだから、当然覚悟の範疇でしょ?」

「・・・」

「自分だけ、自分の子供だけ、助かるなんて甘い事考えてたんじゃないでしょう!」

「くっ・・・」

何時までも項垂れるゼラウスの頭部を蹴り飛ばす。

私には手詰まりだった。

でも、私ではなくユルナが精神的苦痛を与えた。

納得は出来ないけど、少しでも苦しんだところを殺せるならいい。


「早く殺せ・・・」

「巫山戯ろ。お前はそこで死に至るまで現状に苦しんでいろ。」

そんな簡単に死なせない。

傷から言えば、もう死ぬのは確実。

だから、そこで自分のした事の後悔と、それが引き起こした現実で苦しめばいい。




「終わった?」

ゼラウスを放置して、リリエルに目を向けると聞いて来た。

「黙って見ててくれてありがとう。けどもう少し。」

「例え死んでも、手を出されたくないでしょ?」

「そうね。」

私は答えながら、ユルナの方に向かう。


ユルナの頭部は原型が無いほど殴打され、脳漿と血で髪の毛が床に張り付いている。

それでも、エルナの服を掴んだ手は固く握られていた。

死んでも離さない、逃がさない、そんな意思を感じる様な気がした。

刺傷だらけのエルナも目を見開いたまま絶命している。

全身がもともとその色だったのかと思うほど、すべてが赤黒く染まっていた。

「壮絶・・・」

普段、明るい口調のリリエルも目を逸らしてそれだけ口にする。

方向性は違えど、それぞれの自由を勝ち取りたかった姉妹は、お互いが邪魔して潰しあった。


「短い付き合いだったけど、さよなら。」

私は右手の人差し指を二人に向ける。

ユルナ、そっちで自由を掴めることを祈ってるわ。

「黒灯・蝕。」

二人の周りに黒い灯りが揺らめくと囲む。

その勢力をゆっくりと内側に広げ、二人の身体を飲み込んでいった。

「なに・・・それ・・・」

リリエルが気持ち悪そうに見ている。

私も気持ち悪い。

黒い炎は有機物を蝕み、飲み込み終わるまで燃え続ける。

骨が残る通常の火葬と違い、骨まで食らいつくす。

この場に残るより、この場所からすべて解放されたらいいね、という私からユルナへの餞別。

「気持ち悪いよね・・・」

「う、うん。」

やっぱり。


「帰る。」

踵を返して部屋から出ようとしたら、凍った扉が目に入った・・・

「残りはどうすんの?」

「出るときに火を付ける。それだけ。相手にしてられない。それよりあの扉・・・」

と言った瞬間、氷が砕けた。

リリエルが親指を立てて笑みを浮かべる。

たまたまでしょ。


一階の扉を背に、中に人差し指を向けて動かす。

このお城は、黒鷲の根城。

だったら、遠慮はいらない。

「十重・焔。」


城内で連続して吹き上げる火柱を背に、私とリリエルはゲールデリク城から立ち去った。



二章 了

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