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女神ノ穢レ  作者: 紅雪
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二章 姉妹ニ捧グ静寂ノ黒 - 14.氷使

「うわぁぁぁ。」

「きゃぁぁ。」

一般的な悲鳴。

私たちとすれ違うように町の外へ走って行く人。


「やめろ!どうしちまったんだ!?」

「ふざけんな、何してくれてんだよ!」

怒号。

たぶん、そんな事を言っても意味は無い。

一度見た限り、アレに言葉は届かない。


「いやぁぁぁぁぁっ!」

絶叫。

恐怖によって出たか、誰かの死を目の当たりにしたか。

叫ぶ前に逃げれば良い、と思うけどきっと身体が硬直してるのかも。


「うがぁぁっっ・・・」

断末魔・・・

きっと致命傷か重症。

それに、間に合わない。


上半身と下半身を捩じり切られたのだろう。

滓の両手にそれぞれ握られていた。

苦悶の表情で白目を剥いている。

痛みに悶絶してそのまま死んだ可能性は高い。

千切れた上半身からは腸が地面まで垂れさがり、赤黒い血溜まりを作っている。


走ってここまで来たけど、やっぱり間に合わなかったわね。

「リリエル様とアリアーラン様ですね。」

現状を目にして立ち止まった私とリリエルに、男性が横から声を掛けてきた。

誰?

何故知っているの?

「エルメラデウス様より本日到着予定と聞いておりました。」

・・・

どうやって情報伝えているの?

「あれが監視対象で合ってるよね?」

「はい。デリオは町の警備隊をしており、好青年でした。」

男性は悔しそうな表情をしながら、リリエルの問いに答えた。


もう助ける事は出来ない。

それも理解しているのでしょうね。

「一カ月ほど前から・・・」

男性が何か伝えようとしたが、リリエルが手で制した。

「状況報告は後ね。先にアレ止めないと。」

私もそう思う。

じゃないと被害が広がるだけ。

もっとも、誰も近付かなければいいだけなのよね。


「アリアちゃんは休んでいていいよ。」

短刀を取り出した私にリリエルが笑顔を向けてくる。

やらなくていいならやらない。

「うん。」

それに、リリエルの力は未だ見ても聞いてもいない。


リリエルがアレに向かって歩き始めてすぐ、気付いたアレが持ちっぱなしだった上半身を投げて来た。

嫌な光景・・・

「拒霧。」

すかさずリリエルが左手を掲げて言うと、上半身は粗末な音を立ててリリエルの手前で何かに衝突した。

透明な板の様な物がリリエルの前に出来ている。

「可愛くないのよね。」

表情は見えないが、そう言ったリリエルの声は楽しそうに聞こえた。

「雹絶。」

リリエルが頭上に掲げた右手の上に、大きな氷塊が生成される。

氷!

戦闘じゃなくても使い道がありそう。


氷塊からリリエルの右手に柱の様なものが伸びると、リリエルはそれを掴んで一気に振り下ろした。

巨大な質量はアレの頭部に接触すると眼球が飛び出し脳漿が撒き散らされる。

そのまま胴体を潰して地面に激突した。

もう人間だったのか判別不能なほど肉塊と化している。


すぐ火を点ける私が言えた立場じゃないけど、酷い有様・・・

周囲に飛び散った血、内臓、肉片を見て辟易した。


後々の事を考えれば、エルメラの魔法が後始末という点では良いのかもしれない。

これ、片付ける方、すごくイヤ。

「終わったよ。」

飛び散った血を顔に付けながら、リリエルは笑顔で言った。

恐い・・・

滓の影響を受けたとはいえ相手は人間・・・

いや、私が何かを言える立場ではないわね。


「終わったは良いけど、片付けるの大変じゃない・・・」

「え、そこまで言われてないから知らないよ。」

このまま放置って。

私でも気が引ける。

エルメラは普段どうしているんだろう?

帰ったら聞いてみよ。

「どうしたい?」

横で項垂れている男性に聞いてみる?

「せめて、弔ってやりたい・・・」

そうよね。

「火葬で良いなら、手伝うけど?」

「ほ、本当ですか!?」

男性は大きな声を出すと、涙を流し始めた。

滓に囚われなければ、良い人だったんでしょうね。


「火葬が可能な場所まで運ぼうか。」

「わかりました。」

「えぇ、そこまでするの?」

不満そうに言うリリエルだけど、私がそうしたいだけ。

どうすれば良いのか指示されてないなら、私の好きなようにする。

「それよりあの氷、いつ溶けるの?」

下の方が赤黒く染まった氷塊に目を向けて確認する。

「もう少しで砕け散るはずだよ。」

そう。




「火走・朧」

火の粉の様な煌めきが集まった筋が、肉塊を覆うように幾重にも光の線を描く。

村の外れにある焼き場まで運んだあと、私は火を点けた。

煌めきの一粒一粒がやがで炎となり燃え上がる。


死傷者は五人。

死亡したのは二人。

犠牲が少なかったためか、夜には仮初の日常を取り戻していた。

お陰で寝床と食事は確保できたが、町の空気は重い。


「ところで、何故私たちが着くより早く情報が伝わっているの?」

今までもそうだ。

私の動向が徒歩や馬よりも、かなり早く伝わっている。

「あぁ、伝書だよ。鳥を使ってるんだよ。」

鳥!?

確かに鳥なら速く長い距離を移動できそう。

「それ、ちゃんと目的地に着くの?」

「うん。大丈夫ってエルが言ってた。」

まぁ、エルメラが言うなら大丈夫そうな気はする。


「で、アリアちゃんはここからケープニアに向かうのよね?」

「そうよ。」

リリエルはここまでの同行と言っていた。

ただ、必要であればこのまま同行しても問題ないと、エルメラからの許可も貰っているらしい。

どうしようか。

あんな使い方じゃなければ便利なんだけど。

「氷の具現時間って調整できるの?」

「できるよ。」

リリエルはあっさり答えた。

造作もない事のように。

生物が痛まないようにもできるわね。


「食材の保存とか言わないでよね。」

・・・

読まれた?

「このまま一緒にケープニアまで行ってくれる?」

「うん、いいよ!一人だとつまんないって思ってたから良かった。」

リリエルは笑顔で答えたが、私は一人の方が気楽。

ただ、利用出来るものはしたい。

食料保存はさておき、ちょっと試したい事があるのよね。

「途中で寄り道するけどいい?」

「いいよ。何するの?」

「試したい事があってね。その時が来たら教えるわ。」

「えぇ、今教えてよ。」

「ダメ。」

「ぶー。しょうがないなぁ、じゃぁ楽しみにしておくよ。」

楽しみにするようなものじゃないけど、まぁいいわ。


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