二章 姉妹ニ捧グ静寂ノ黒 - 13.迫害
「'ア'が居ればある程度傷を消す事は可能なのじゃが、生憎と暫く遠征に行っておってな。」
ホーリエルから三日かけてエルメラのお城に戻って来た。
その間、火傷の痛みはだいぶ引いたものの、まだ痛む。
馬車の揺れによる衣擦れとか最悪。
包帯を巻いていても痛い。
それに、短期間で何度も馬車に乗っている所為か、お尻も痛いし。
立て続けの馬車はキツイ。
エルメラの馬車は揺れや振動も少なく、座席も柔らかいが限度はあるのよね。
今後の活動についての移動は考慮したいところ。
お城に戻った当日はゆっくり休み、黒鷲の情報は翌日となった。
道中話してくれても良かったのに、気を遣ったのかな?
どちらにしろ、傷が痛むのですぐにでも飛び出そうとは思えなかった。
目の前に居ればそんな事は構いもせず殺しに向かうけれど、時間があるなら確実性を優先する。
で、話しをするのかと思いテラスに集合したら、また新しい名前が出て来た。
リリエルもそうだが、エルメラは何人の塵を抱えているの?
「そうだね。数か月は戻って来ないんじゃない?」
リリエルが焼き菓子を齧りながら言う。
それは良いが、私が知りたいのは人数。
じゃなくて黒鷲の情報。
「余も含め、三人じゃ。おぉ、お主を入れると四人じゃな。」
え?
数に入れられた!?
って、私ってここの住人みたいなものよね。
此処を拠点に復讐を果たしつつ、エルメラの手伝いをする。
復讐が終われば、見返りを求められる。
そんな話しだった。
考えてみれば、復讐が終わった後の事は考えていない。
でも、考える必要も無い。
今は。
復讐が終わるまでは。
「世界の貴重な人材が半分も揃ったよ!」
「そうじゃな。」
確認出来ているのが八人と言っていたわね。
半分と言ってもたかだか四人。
それで何ができるというのか。
滓の対処にだってきっと足りてない。
発現する頻度は知らないけれど。
「でねアリアちゃん。'ア'が戻ってくるまでは、傷は我慢してね。」
いや、別に。
「長期間戻って来ないなら、その前に治るわよ。」
刺された傷も火傷も、何か月も必要無い。
「違うの!'ア'は治療するわけじゃないの。」
は?
「うむ。あやつに治療は出来ぬ。」
何を言っているのかさっぱりなのだけど。
「何て言えばいいのかなぁ?あたし、うまく説明出来ないんだけど。」
いや別に説明してくれなくてもいい。
復讐には関係無いし。
「再構成が一番近いかの。治療は人間の修復力に対して補助を行うものじゃが、'ア'はまったく別の事象を引き起こす。むしろ傷を治療しようとすれば何が起こるか不明じゃ。」
え、怖いのだけど。
そんな奴に私の傷をどうこうさせようとしたわけ?
「アリアちゃんだけが迫害にあってきたわけないよ。」
そんな事、言われなくたってわかってる。
人間のする事に、塵だからという限定は無い。
「リリエル、やめるのじゃ。」
「ううん、これから一緒に生活するのにわだかまりとか無い方がいいじゃん。」
私にはどうでもいい。
お互い関与しなければいいじゃない。
やるべき事さえやれば。
「あたしやエルが何もされずに生きて来たなんて思わないでよ。」
そう・・・なの?
戸惑った私の前で、リリエルはお腹を出した。
左腹部に大きな傷跡が残っている。
でも、その程度。
「何かで刺された時、破片が体の中に残って融着?してるんだって。だからこの傷には触れられないって。」
傷なら私の方が遥かに多い。
お腹程度なら服を着れば隠せるじゃない。
「あたしだってアリアちゃん程じゃないけど、傷だらけだった。でも'ア'の魔法でこれ以外はほとんど消えたよ。」
まさか・・・
そんな事が可能なの?
「塵ってだけでこんな目に遭って、一生消えない傷を付けられて、あたしだって許せないよ。女の子なのにこんな傷残されて・・・」
リリエルは涙目になって訴えている。
言いたい事はわかった。
苦痛を受けたのは私だけじゃないって事ね。
だとしても、私にとっては所詮他人事だし、私のする事が変わるわけじゃない。
「だから、アリアちゃんも傷消そうよ。」
「え?」
「一緒にお洒落とかしようよ・・・」
そっか。
この子は、お前だけだと思うなよ、って事が言いたかったわけじゃないのね。
それなら、そうしたい。
けれど、復讐が終わるまではこのままでいい。
「復讐が終わったら考えるわ。」
「ダメ。'ア'が帰って来たらすぐ。」
いや、決めるのは私なんだけど。
「それより、黒鷲の情報は?」
私はリリエルから逃げる様に、本来の目的をエルメラに問いただした。
「うむ。'ア'についてはもう一人居る、程度のつもりで口にしただけじゃ。」
予想に反してってわけね。
まぁいいわ。
「黒鷲の本拠はテルメウス領ケープニアに存在する。」
テルメウス領・・・ね。
お母さんの故郷。
そんな所に居を構えていたなんて。
「本拠?」
「うむ、幾つか点在しておってな。」
そういう事。
なら、全部潰すだけ。
「イギールに関与しておったのは本拠に居る団長、ゼラウスじゃ。本拠さえ叩けば問題なかろう?」
確かに。
それなら問題ないわ。
他の場所を潰している間に逃げられちゃっても困るものね。
「そうね、それで問題ないかな。」
「ケープニアまでは十日程要する。お主の都合で発ってもらって構わぬよ。」
十日もあれば火傷も問題無いよね。
なら、明日にでも向かおう。
「明日、出るわ。」
「うむ。」
「あたしも行くからね。」
はい?
何故リリエルが一緒に来るのよ。
止めさせようと思いエルメラを睨む。
「ついでじゃが、途中にあるサウルという小さな町で確認して欲しい事があるのじゃ。」
・・・
はぁ。
「そこが目的なのね?」
「うん、そうだよ。」
まったく、都合良く使ってくれるものね。
まぁいいわ。
そういう約束だし、ついでなら良い。
その夜、出発の準備をして備えた。
翌朝には既に馬が用意されており、リリエルを後ろに乗せて出発する。
テルメウス領はエルメラデウス領の北東に位置している。
セアクトラに隣接している領ではあるが、領の中心部に位置しているケープニアまでは遠い。
道中何事も無く進み、六日目にはついでの目的であるサウルに到着した。
小さな、と言っていた通り本当に小さい町。
街道沿いでもなく、少し外れた場所にある町。
ここへの目的は、道中リリエルから聞いている。
エルメラの依頼だから想像はしていた。
そう、滓の確認。
町は小さいながらも、街道から逸れた道の両脇には端が見えないほど畑が広がっている。
農作物や穀物の生産量が多く、テルメウス領の中では重要な町のひとつだそう。
だから、この町の住人にエルメラの息がかかった者がいる。
「名物は川魚なのよ!」
はっ?
馬を降りて町に入る時にリリエルが言った。
私は広大な畑を見まわしてから、リリエルに首を傾げる。
「奥に川があるの。川から水を引いているからこれだけの畑を維持出来ているのよ!」
へぇ。
地理的に有効な場所って事なのね。
「って、エルが言ってた。」
あ、そう・・・
「で、魚と取れたて野菜の料理が美味しいんだって。」
それは、ちょっと楽しみかも。
と思って町に踏み入れた途端、怒号が聞こえてきた。




