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女神ノ穢レ  作者: 紅雪
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一章 友ニ捧ぐ塵灰ノ光 - 10.母親

深夜、街の灯りもほぼ消えた中、闇夜に紛れて領主館を見上げる。

建物は大きい。

灯りがないとちょっと不気味。


正門を飛び越え、館の扉の前に移動する。

引いても押しても開かない。

鍵が掛かっていて当然よね。


私は観音開きの扉の中心に、右手の人差し指を当てる。

「炎刃」

指先から迸る高温の熱線をゆっくりと下げて、内側の鍵を焼き切った。

鍵については想定でしかないが、概ね内鍵は縦に断てば機能を失うはず。

そう思って。


案の定、その後扉を押したら開いた。

手入れがされているのか、特に音も立てずに動く。



館内は静寂に包まれ、人影もない。

私は二階へ続く階段の脇にあった扉を開けて中を確認した。

侍女と思しき女性が三人、就寝している。


一番手前の侍女に近付くと、短刀を抜いてそっと口に手をあてる。

侍女はゆっくりと目を開くと驚きで身体が跳ねた。

だけど、短刀を見ると竦んだ様に動かなくなり恐怖の視線を私に向ける。

「質問に静かに答えて。それ以外の動きをした場合は首を斬る。」

私は言って、侍女の首に短刀を近付けた。

侍女は涙目になりながら、小さく頷いたので口から手を離す。

「十七年前、領主ケイヴスに女神の浄化の塵、烙印を持った子供が生まれた。その事は知っている?」

館内の人間が、その事実を知っているか気になった。

そんな事、本人は口が裂けても言いそうにないけど。

「いえ、存じません。わたくしは此処に来たのが一年程前ですので。」

そう。

一年前だろうと十年前だろうと、時間は関係無い。

でも、私と同じくらいの歳の見た目である侍女は、嘘を言っている様に見えなかった。


「他の二人は?」

寝息を立てている残りの侍女二人について聞いてみる。

「侍女頭は三十年ほどこちらに仕えているそうです。もう一人も二十年ほど。ですが、お二人からそんな話しは聞いた事はございません。」

知ってても話すわけないわよね。

話せばケイヴスに始末される可能性もあるし。

「そう、ありがとう。最後に・・・」

私は一度深呼吸する。

「ケイヴスは何処にいる?」

「に・・・二階の一番奥の寝室です。」

多少躊躇ったものの、答えてくれた。それが本当かどうか、行ってみればわかる。

「起きて。」

私の指示に、侍女は素直に従った。

「入口に向かって。静かに。」

「はい。」

「家族はここにいる?」

歩きながら気になったので聞いてみる。

「いえ、田舎に居ます。」

ならいいわ。


・・・

何がいいの?

何故、私はこの娘を助けようとしているの?

自分でもわからない。

でもなんとなくそうしたかった。

「じゃ、田舎に帰って。」

入口まで連れて行くと、私はそれだけ言って背を向ける。

寝巻のままだったけど、そこまで面倒は見れない。

「あの・・・」

「・・・」

声を掛けられ、顔だけ侍女に向けた。

何を言いたいのかわからない。

けれど、何を言われても私がする事に変わりは無い。

少し待ったが、侍女は何も言わず背を向けてその場を去って行った。

結局、何を伝えたかったのか、私にはわからない。


私は侍女が居た部屋に戻ると、残りの眠っている二人の首を切断した。

事情を知っているか知っていないか関係無い。

いちいち確認等していられない。

当時、此処に居ただけで、私にとっては十分。




館内にどれだけの人が居るか不明。

片っ端から部屋を確認している間、当人に逃走されても面倒。

だから、先ずは彼奴から殺す。

侍女に教えられた通り、二階に上がると突き当りの部屋へ真っ直ぐ向かった。

ところどころに人の気配はしたが無視。


突き当りの扉を開けると、大きな寝台に男が一人。

もう一つの寝台に女。

現在の夫人なのだろう。

殺すのはいつでもできる。

私は男の前に行くと、直ぐにでも殺したい衝動を抑えて短刀の棟で頭部を殴りつける。


飛び起きた男は声も出さず頭を押さえて私を睨み付けた。

「何者だ?」

以外と冷静。

もっと喚き散らすかと思ったのに。

「メルフェア。」

「な・・・ん、だと・・・」

名乗ると目を見開いて、漏らすように驚きを口にした。

「十七年前、お前が捨てた娘よ。」

「生きているとは驚きだ。それで復讐に来たのか?それとも金か?」

お金目的ならこんな時間に忍び込んで殴ったりしないわよ。

「何故捨てたの?」

「それはお前自身が身を以てわかっただろう。」

そうね。

言う通りだわ。


「お母さんは死んだわ。」

「だろうな。お前も死んでいる筈だったんだが、何故生きている?」

捨てただけじゃなく殺す予定だった?

そう、そういう事。

逃げた先で塵だと知られたのはそう言う事なのね。

この男はどこまで!


「うがぁぁっ!・・・」

私は男を寝台から引き摺り下ろすと左膝を踏み抜いて歩けないようにした。

その悲鳴で女が飛び起きる。

「な、なに!?」

構わず短刀を左手の甲に突き刺し床に縫い留める。

「うぐ・・・」

中指の爪を掴んで剥がす。

「・・・っが!」

女が恐怖の顔で寝台から降りると、扉に向かって走り出した。

「あっ・・・」

顎を殴って動きを止める。

「終わるまで黙って寝ていろ!」

私が声を上げると恐怖の表情のまま固まった。

私は男に向き直ると、続けて爪を剥がす。

小指。

薬指。

人差し指。

親指。

その度に男は声にならない悲鳴を上げた。

私が受けた痛みは、こんなものじゃない!


「次、右手。」

「ま、待ってくれ!何でもする!金もやる!だからこれ以上はやめてくれ・・・」

涙、涎、鼻水を垂れ流しながら懇願し始めた。

その程度・・・その程度!!

「あっ、く・・・」

右手に短刀を突き刺すと、唇を噛んで苦鳴を上げる。

私は顔の左側の充て布を取った。

「私とお母さんが来る日も来る日も受けた拷問はこんな程度じゃない!」

「メルフェアは、お前の、母じゃない・・・」

え?

「お前を生んだ奴なら、ほら、そこ・・・そこに、いるぞ。」

男が顎で示した先にいるのは、この部屋に居た女。

体液で顔中を濡らしながら首を左右に振っている。

「メルフェアは、侍女だった、お前を、捨てるのに反対するから、一緒に追い出した。」

そう。

でも誰が生んだかなんて関係ない。

私を最後まで抱いて、護ってくれたのはお母さんだけだから。


次の爪を剥がそうと思ったけど、私はその場を飛び退いた。

気配を消して後ろから斬りかかるのは正解だけど。

動く事で生じる空気の流れの変化や、小さな音までは消せてない。

斬り下ろしから剣が跳ね上がり続けて斬りつけてくる。

それも更に一歩後ろに跳んで躱す。

「何者だ!?」

さらにもう一人が部屋に飛び込んできて誰何の声を上げる。

私は姿勢を低くして後から来た男の抜剣中の手を斬り飛ばし、そのまま喉を斬り裂いた。

部屋に入る前に抜いてないとか馬鹿としか思えない。

私は屈んで首を狙ってきた横凪を避けると、身体を反転させながら起きあがり、斬り下ろしに来ていた右手首を斬り飛ばす。

そこから短刀を逆手に持ち替えて喉に突き刺した。

左手で掴みに来たが、姿勢を低くくする同時に、喉に刺した短刀を下まで振り抜きつつ躱す。


他には居なさそうね。

「逃げるな!!」

私は這って扉に向かう女に右手の人差し指を向ける。

「緋雨。」

「あぁぁぁぁぁっっ!」

小さな炎の槍が女の手や足、胴体に刺さり刺さった部分を焼く。

「お前もだ!」

女の方に意識を向けている間、男も這って扉の方に動き出していた。

「ひっ・・・あがぁっ!」

右足首を踏み抜いて骨を砕くと涎を撒き散らしながら悲鳴を上げた。

「あぁぁあついたいいたいいたいいたいいたいぃっ!」

女が焼ける傷口に叫びながら転がっている。

死ぬまで苦しんでいろ。

「くそ!あの女がお前を庇わなければ!あの女がお前を守らなければ!お前は死んでいた筈なのに!くそ!くそっ!」


もう少し、人間らしい話しを聞けたかもと思ったけど、そんな事は無かった。

心の片隅で少しでもと思っていた私が馬鹿だった。

一言でも謝罪が混じるかもなんて、愚かな私の妄想でしかなかったんだ。

「陽炎。」

動かしていた右手の人差し指を止めて、掌を上に向ける。

揺らめく拳程の大きさの炎が出現した。

掌をどけると、揺らめきを大きくしながら炎はゆっくりと降り始めた。

私は念のため男の左足と、女の両足の腱を切断する。

それから扉の外に出た時には、揺らめく炎は絨毯に降り立ちゆっくりとその勢力を広げ始めた。

「火走。」

扉の前から部屋を一周させるよう炎を走らせる。

逃げられないように。

揺らめく部屋の中、男と女が陽炎に飲み込まれるのを見届けると、私はその場を後にした。



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