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医者

Ep7に大幅な内容の追加があります。

みていない方はそちらからお願いします

うめき声が漏れるジェラルドを撫で続けていると慌ただしい足音が聞こえてきた。

いつも思うが静かに部屋に向かうのはそんなに難しいことだろうか、誰がやって来るだろうと扉を見つめていると宿だからか屋敷よりも控えめに扉が開かれた。


「エーレ、発作を起こしたと聞いたわ」


「お嬢様!」


バレンシアを除けば母に医者、メイド、あまりにも見慣れたメンバーだ。

ようやくバレンシアが飛び出した理由を理解した、母に発作のことを伝えにいっていたのだ。私自身としては精神的なものだった為、さして気に留めていなかったが普通に病弱な人間が発作を起こせば大惨事であることを思い出した。


「少し疲れが出たみたい、バレンシアとジェラルドが側にいてくれたから大丈夫」


「・・・分かったわ。念の為、検査は受けて頂戴」


母は間違いなく疑っていたが今回は見逃してくれるらしい。

検査したところで馬車の中から精神以外何も変化はないだろうが流石に従っておこう。

母と医者を除き皆部屋から出ていく、ジェラルドは涙は止まったようだが赤らんだ顔をクシャクシャにしながらバレンシアに手を引かれて行った。

医者は慣れた手つきで瞳孔や脈、関節など問題のありそうなところを入念に確認する。やはり体に異変はなく何か確信めいた視線を送られる。


「エーレお嬢様、ここが痛くなった理由はわかりますか」


流石にまともな会話をしていなかったとは言えここまで砕かれた言い方をされるとは、わざわざ説明も面倒だし訂正する必要もないだろう。


「初めての外と馬車が楽しくて、ちょっと疲れたのかも」


母と同じで医者も信じていない、彼は寝た切りかつ会話のままならない状態のエーレと唯一真摯に向き合ってきた。それゆえに発作の原因が違うことに気がついている。


「嘘を吐いていませんよね」


「もちろん」


「・・・わかりました。バレンシア様からのお話ですと一時的とはいえかなり苦しまれたご様子ですので一日安静にしていた方が良いでしょう」


医者も見逃すことにしたらしい、私が何を言っても口を割らないと判断したのだろう。

幼い時から側にいるからか私がエーレでないことを勘づいているのか私がエーレの体で目覚めてから度々試すようなことをしてくる、いかにも穏やかそうな中年の顔をしながら食えない奴だ。


「ありがとう、マシューには助けられてばかりだわ。あなたには頼りっぱなしね、今回も私の我儘にも付き合わせてしまったわ」


「いいえ、奥様。子どもたちは皆独立しましたし妻の同行を許してくださいました。それに私にとってエーレお嬢様に何かあることのほうが後悔すると思ったのです」


「マシュー、本当にありがとう」


何かいい感じに話が進んでいく、私をダシにして美しき友情物語が展開される。この話が続くのであれば出来ることならあの記憶によって魂に亀裂が入ったことによる修復で失われた魔力を取り戻すため眠りについてしまいたい、いっそもう一度寝たふりをかましてみるかと考えていると。


「マシュー、これから日程の変更を伝えて来るからエーレを見てもらえるかしら」


「もちろんでございます」


待って欲しい、この医者と二人きりになるくらいなら友情話を聞いていたほうが幾分かましだ。私の願いは虚しく母は部屋を後にする。


「私と二人は苦手ですか」


「そんなことはないわ。ずっと側にいてくれて嬉しい」


真っ赤な嘘である、エーレは好意的だったが私は苦手だ。

本来の私であれば不快に思えば迷わず手を下していた可能性があるが今は何もできない、無防備かつ貧弱ゆえに守ってもらわなければ生活することさえままならない。

私自身もただの悪魔でしかない以上ちょっとでも浄化力のある場所に行けば吹いて消える存在でしかない、いつバレて教会に連れて行かれるか冷や汗ものである。医者は笑顔でそうゆうことをやりそうだ。

結局のところ命の手綱を握られていることが気に食わないのだ。


「そうですか、ならばこちらを飲んでいただけますね」


鞄から取り出したのはいつも屋敷で飲まされている栄養だけを抽出した劇薬だ。

悪魔であれば感じないのだろうがエーレの舌は敏感に薬に含まれる酸味、甘味、苦味が口内で中和されることなく主張し合い地獄のような味を感じる。


「まずいから嫌い」


「エーレお嬢様のためなのですよ」


それは分かっている、ほとんど食事の取れない体に栄養を送るには劇薬が最も効率的であることは。だとしても譲れない、数少ない口にできる物一つがこれだなんて。間違いなくエーレの幸福値が下がっていく。


「おいしいのがいい」


「努力はしていますがエーレお嬢様が取らなくてはいけない栄養値を考えるとこれが限界なのです。そういえば奥様の生家には魔法使いがいらしゃると伺いました、一度魔法で味覚を試してみてもいいかも知れませんね」


魔法使い、この時代では希少な存在だ。魔法を使ってもらうには莫大な金がかかる、そんな存在を在中させられるとは母がかなり控えめに私に伝えてくれたものだ。海に接した領地で貿易と軍が盛んとは聞いていたが想定の倍見積もっても問題ないだろう。

言っていた学友たちも転移魔法を使って来訪しているのであれば間違いなく国の中枢に近い人物ばかりだろう、人脈程度に考えていたが改めて父のいい笑顔を思い出した。

そんなことよりも医者に握らされた劇薬が全ての思考を奪い去っていく、医者は私の体を支え起こし脇に備え付けられていた水を持ち待ち構えている。

意を決して薬を飲み込めばこの世のものとは思えない味が口の中で爆発を起こす、ゆっくりと流し込まれる水を飲むが飲下能力の低いため口の中に味は広がり続けた。

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