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苦痛な道中

比較的整備され安定した領地間の移動だが馬車移動と言うものは最悪だった。

馬車の中の空気も去ることながらちょっとした段差ですら体に痛みが走るのだ。

どれだけ蓑虫になろうが現在の文明レベルでは限界が存在し内出血はどうあっても逃れることのない宿命だった。

出発して数分の立っていないというのにお尻と揺れる度に僅かにぶつけた腕や足から鈍い痛みを感じる。きっと宿に着いた頃には身体中に内出血だ出来上がっているだろう。

母はしきりに顔を歪める私を気遣わしげに見る、布で包まれ互いに体の位置は曖昧だが恐らく膝の辺りを優しく叩く。


「エーレ、大丈夫?もし辛いなら言ってちょうだい、移動日程はエーレに合わせて多めに設定してあるから気を使わないでいいのよ」


その言葉通り、本来であれば5日で着ける道のりを15日かけて到着するという異例の日程設定をしていた。普通であればありえないが初めての外出に馬車、気候などあげればキリがないがエーレにとって何が体調に影響を及ぼすかわからない状況を考えれば母が警戒しすぎるのも無理はない。


「少し体は痛むけどまだ大丈夫」


安心させる為に母思いな少女の柔和な笑みを作る。


「分かったわ、本当に辛くなったら遠慮なく言いなさい。バレンシアとジェラルドもよ」


「ありがとう、お母さま」


さらにいい笑顔で母に返事を返す私に反してコクリと無言で二人は頷く。

急な決定かつ普段接していない義母と姉に戸惑いがあるのだろう。

改めて見るが見事にあの二人のミニチュアにしか見えない、性格に関しては全く似ても似つかないが。エーレも含め片方の遺伝がここまで強く出ているのも面白い。

バレンシアはぼんやりと外を見つめる、表情が変わらない為何を考えているのかさっぱりであるが少なくとも状況や私達に関して悪い感情を持っていないのは分かる。

それに対してジェラルドは顔を青くさせソワソワと落ち着かない様子で手元を見つめる、分かりやすく不安が付き纏う。

再び馬車に沈黙が落ちる、母も勢いで連れてきたはいいが距離感が分からず目線だけが私とバレンシア、ジェラルドを行き来する。母の視線が煩くなり、逃れるために寝たふりをしようと体を預け目を閉じようとした瞬間、馬車が少しだけ大きく揺れた。

普通の人間であればさして気にするものでないがエーレの体は違う、軽すぎる体は宙に浮き重力に従って椅子に落ちる。


「うぐ!」


あまりの痛さに声が漏れる。

体が反射的に涙がとめどなく溢れ出して止まらない、引くことのない痛みに呻きながら御者を恨んだ。うずくまり歯を食いしばってただ痛みが去っていくのを耐え忍ぶ。


「エーレ!馬車を止めて」


慌てて母は馬車を止めるよう護衛に指示を出す、何もせずにはいられないのか私の体を覆い被さるように包み背中を撫で続ける。

ゆっくりと速度を落とし止まった馬車から私以外は降りて行き付き添いの医者が乗り込んでくる、トウモロコシのように布は剥がれ体の隅々を検診された。結果としては大量の内出血と脱臼しかけたことによる関節の痛みだけだったが馬車での移動が禁止となり、徒歩で行ける範囲に存在する屋敷すぐの宿に泊まることとなった。

私は再度布に巻かれ護衛騎士に抱えられ、移動を再開した。

母と兄弟たちは流石に歩かせるわけにはいかないため、馬車に乗り込んだが窓から母は何度も心配そうに顔を覗かせていた。


「大丈夫ですか、エーレお嬢様。もし不満があればなんでもおしゃってください」


母に目線を向けていると声をかけられる、声の主は騎士の中で若く経験が浅いため任されてしまった可哀想な男だ。精鋭に抜擢される程度には実力者なのだろう、実際抱えられている身としては堅いのいい体と優れた体幹のおかげかかなり安定しておりほぼ痛みを感じずに過ごせている。


「ありがとう、すごく楽だわ。えっと、名前は」


「そう言っていただけてとても光栄です。私の名はマルスです」


「ごめんなさい、名前を知らなくて」


「無理もありません、護衛になったのが今回の任務からですので」


気分を害した様子もなく爽やかな笑顔を浮かべるマルス。

悪くない。鍛えられた肉体に今後の将来性、いささか顔が良く手慣れているところが懸念点ではあるがエーレの結婚相手候補として申し分ない。体の状況を考えると体自体が妊娠出産に耐えられるか保証もない、であれば後継者を必要とする貴族に嫁ぐのはエーレが幸せになれる確率が低くなる。

恋や愛は人を幸せにする、分量さえ守ればエーレに過分な幸せをもたらしてくれるだろう。意識を取り戻すまでの間、候補者だけでも見繕っておけばいい最後に選ぶのはエーレ自身なのだから。

たわいのない会話をマルスと交わしていたら高かった太陽は傾いて行き空を赤く染め上げる。収集できた情報としては年齢は20、結婚相手も思い人もいない。端々に感じる女性への軽蔑は存在するがエーレには向かってきていないので気にするほどのものではないだろう。

マルスは一般的な感性で評価するのであれば端正な顔立ちをした美男子で騎士ということもあり肉体はかなり鍛え上げられている、性格も話した範囲だが誠実で気遣いもできる好青年でもある。こんな男が好まれない筈はなく、マルスに絡み付く執着心の多さから人間関係に悩まされていることが見て取れる。

思ったより地雷物件かもしれないがマルス自体は有力候補であることは違いない、機会があれば権力と金の力で手助けくらいしてあげよう。それにこのまま行くと殺傷事件にでも発展しそうな勢いが執着心と共に薄っすらと漂う愛憎を感じた。


「私の顔に何かついておりましたか」


「絵本の中の騎士さまみたいでかっこいいなと思ってたの」


マルスの体がぴくりと反応する。

いささか褒め言葉としてはベタだったかもしれないが知識がほぼ5歳の段階で停滞しているエーレからすれば最上級の褒め言葉はこのくらいしか用意されていない。

反応が返ってこず困惑してしまう、私は何も言わず顔を見つめる。

マルスの顔は次第に赤くなっていき何かに耐えるかのように唇を食いしばっていた。

照れているだけか、そう考えると存外エーレと相性は悪くなさそうだ。

今の私は悪魔としての知識と感性しかなく発言や行動に関しては今までに培われたエーレの記憶と感情を元にしている。相変わらず契約に関して分からない事ばかりである以上エーレの意にそぐわないことを行うにはあまりにもリスクの高い行為と判断したのだ。母に対する失言も言葉に関しては私が前面に出てしまったが間違いなくエーレはそう思っていたのだ。


「勿体無いお言葉です。ですが期待に添えるようお嬢様の護衛を務めさせていただきます」


「ありがとう」


今までとは違う柔らかい笑顔を向けたと思えばそれからマルスは口を閉じてしまい、ほのかに漂う甘酸っぱい雰囲気に気圧され私は寝たふりを決め込んだ。悪魔としての本能なのか淡くも優しい感情に拒絶感がすごい、ここから先の進展はエーレが目覚めてからにしよう。マルスの煩い鼓動を鬱陶しく思いながら宿に早く着くように祈った。

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