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マヨイガ

「ただいま」

「おーやっと帰ってきたか!それでそれで?どうだった?」


 シキはまるで飼い主を待っていた犬のように玄関の前で待っていた。目を輝かせ待っているくらいなら手伝いに来てくれても良かったのに。それとも、家の外に出られない制約でもあるのだろうか。


「爪と皮は買い取れるけど牙と肉はダメかな。状態が良くなかったらしいから」

「よろず、お主もう少し綺麗に倒せんのかー?全く」


 人任せの癖に文句言うなよ……アレでもかなりギリギリだったし。まぁ、肉に関しては俺が悪いのでなんとも言えない表情をするしかない。

 そもそも、使えない符を持ってきたシキのせいだと思うのだが……


 シキの小言を話半分に流しながら居間に入ると既にテレビの中にはショップの中で待機しているメイド姿の貞子がいた。


『おかえりなさいませ、よろず君。換金しておいたからサダコインを追加しておくね』


 貞子がそう言うとショップの上の方にあったコインの数字が変化し、1500サダコインと表示された。

 つまり、あのクマの爪と皮だけで一万五千円稼げたってことか。もし、肉とか牙も売れていればもう少し高くなったのかも。

 

『何か買っていく?オススメは工具セットかなそれなりの耐久があって重宝するよ?』

「うーん、どうしよう……」


 工具セットで500サダコイン、か。中身はありきたりなトンカチやらノコギリやら日曜大工のお父さんなりきりセットみたいな商品だな。鳥居を作るのに必要だろうしなぁ。

 他には……作物系、食品系に娯楽それから謎のアイテムまで。悩ましい。


 俺がショップを見ているとシキが「あぁ言いそびれていた」と思い出したように話しかけてきた。


「ヨロズ、鳥居の再建なら今すぐには無理だからな。鳥居を作っても肝心の術が施せん、ここで生活していく中でお主が覚えないといかんからな」

「え、なんで俺が?シキがやってくれるんじゃ無いのか?」

「外と中を繋ぐのだから外の世界を知らないと繋げようが無いだろう?さっちゃんも儂も何十年と外に出てないからな」

 

 コイツ、堂々とニート宣言しやがったー!?


 すると、ショップの背景となっていた貞子がずいっと顔だけ外に出してきた。


「ちょっとー!童ちゃんはともかく私はちゃんと働いてるからね。ほら見てこれ」


 顔を中に戻しチャンネルを変えた貞子はやたら設備の整ったスタジオのような場所に立っていた。

 トレードマークである長い黒髪を途中で編み込み、不気味な都市伝説とは思えないような可愛らしい服に着替えポーズをとる。


『恨めしや〜』


 見慣れた赤いスクロールバーとUI、それから動き回る貞子。とてもシュールではあるが確かに、ニートでは無いらしい。


『たまにゲームとかを配信したりしてるの!衣装とかも自由に変えられるし例えば今日のクマの皮もーーーねっ?」


 貞子が着ていた衣装がデフォルメされたクマの飾りが付け加えられた衣装へと一瞬で変化した。どうやらさっきのクマの皮を使って新しい服を作ってみたらしい。

 他にもいくつかの衣装を引っ張り出して早着替えの如く切り替わっていく。

 そんな貞子のファッションショーを遮るようにシキが咳払いをする。


「とにかく!術の習得と並行してここで生活するにあたって必要なものを買うことだな。せめて身を守れるようにしないと気がついたら死ぬぞ?」

「死ぬっていっても借金を返せなくなったらの話だろう?」


 俺の言葉に返事はなかった。急な静寂が部屋を包み込んで奇妙な空気が漂い始める。

 その空気の中最初に口を開いたのは貞子だった。


『ヨロズ君、童ちゃんから聞いてないの……?』


 「一体何を」「なぜそんな深刻そうな顔をしている?」

 そんな質問を投げかけようとした俺は視界の端で俺から顔を逸らしたシキを見た。

 バツが悪そうな雰囲気を全身から感じさせる幼女を逃げないように抱え上げ、俺は怖がらせないようにニッコリと笑顔を作った。


「隠し事、無いよな?」

 

◇◆◇


 高速たかいたかいをして聞き出した情報は想像を遥かに超えた超重要なものだった。なぜ隠していたのか、聞かれなかったからだというがそれを利用している時点で有罪(ギルティ)だ。


 シキによるとこの家がある場所は【マヨイガ】と言うらしく、なんと《《妖怪たちの住処のど真ん中にある》》らしいのだ。

 普通に妖怪たちが住んでいて少し歩けば妖怪に出会う、そんな場所にいるらしい。

 今までシキの力が弱まってもここが襲われなかったのも、妖怪たちがお互いに牽制しあっていたお陰で手出しできなかったからなのだとか。


「まったく、そういう大事な情報は早く言えよな」


 とは言ったものの結局のところ、シキから聞き出した情報は確かに重要ではあるもののやる事は変わらなかった。お金を稼ぎ、生活を潤す。それが妖怪から襲われない方法。

 

 つまり、死ぬ気で妖怪に囲まれた土地でスローライフしろって事だ。


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