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〇四三 ありえないやわらかさ



「ええっ!? どんな毒でも打ち消す薬? そんなもの存在するはずないね。毒と言っても様々あるよ。体温を上げて殺す毒、体温を下げて殺す毒、両方ともに効くクスリなんてありえない違うか?」

「外国の、とある貴族令嬢が持っているんですよ。『万能解毒薬』というのですが。……両親から受け継いだものらしく、本人は作り方を知りません。同じものは他にありません。それを譲ってもらう、これが皇太女殿下を目覚めさせる第一の作戦です」


 ユウヅツの説明を受けて、リゥリゥは目をまたたかせる。そんな貴重な薬を譲ってもらうなんて、何を対価にしたって無理ではないか?


「……もらえるんですよ。シナリオ通りなら」

「しなりお?」

「ただ、シナリオ通りに行かない可能性が高いです。何故なら、既に原作とかなりの相違がありますから。……つまり、おっしゃる通り、簡単に譲ってもらえるとは思わない方がいいということです」


 よく分からないがリゥリゥはうなずいた。


「そこで、第二案なんです。外国の薬学を学び、新たに『ツムギイバラの解毒剤』を作る。……ここで大事になってくるのが、優秀な薬剤師、そして研究者です」

「つまり我あるね」

「そうです」


 自分で言うかね、と突っ込まれるかと思っていたリゥリゥは、肯定されたことに照れながらユウヅツの言葉をつなげた。


「……だから、我に大陸留学へ付いてこいと?」

「はい」

「分かったある」

「ですよね。ご家族もいるのに急に海を渡って知らない土地へなんて……え、いいんですか!?」


 ユウヅツは聞き直した。この後、説得材料がたくさん用意していたのに。


 リゥリゥはあっけらかんとしている。


「だって、もし万能解毒薬なんてもの本当にあるなら、絶対にこの目で、誰より先に見たいある。それに、外国の薬学が大瞬帝国のそれよりずっと進歩してること、我も分かっていた。現地で知識を学びたい。ぜひ行きたいね」

「……ありがとうございます!」


 ユウヅツは頭を下げた。


「リゥリゥさんが付いてきてくださるなら心強い。殿下に良い報告ができます」

「皇子様、そういや最近あんまり見てないね。何してるある?」

「皇子殿下は春の留学に向けて、人材の選別・整理などをしています」


 ウハク本人が行くはずだった留学を、トカクが成り代わって行くことになった以上、予定通りの人員配置とはいかない。

 ……というか、ウハクに毒を盛った黒幕はバカクだが、共犯者はウハクの身辺にもいた。そのあたりの『処分』で空いた穴を埋める必要がある。

 ……その結果として、留学先での側近枠にユウヅツを違和感なくねじ込めたのは、不幸中の幸いだったろう。


 それとは別にトカクは、リゥリゥのような薬剤師・研究者など専門家をなるべく多く連れていきたいのだ。ツムギイバラの解毒薬を作るという目的のためだ。

 そうなると自然、他の人員を削る必要が出てくる。連れていける人数はすでに決まっており、増やすことはできない。


 トカクはそのあたりの調整で忙しい。あとはトカクがやっていた公務の引き継ぎとか、バカクがやっていた公務の引き継ぎとか。


「ああ、あと……第三の作戦として、万能解毒薬を貸してもらって、その成分を調べさせてもらう……というのがあるのですが。これは、まるごと譲り受けるのと同じくらい難しいんですよね。……俺達は本当なら、万能解毒薬の存在も、彼女がそれを持っているということも知らないはずなので……」

「うちのスパイが取ってきた非合法の情報てことあるか?」

「そんなようなものです」


 リゥリゥは異世界転生うんぬんの説明がなくても理解してくれて、すごく気が楽だなぁとユウヅツは思った。ユウヅツは自分の身の上について、あまり知られたくなかったので。


 前世について、根掘り葉掘り聞かれたくない。


(……いや、もし打ち明けたところで、どうでもいいと思われるかもしれないけど)


 トカクはそんな感じだった。ユウヅツの前世について特に聞いてこない。用があるのはユウヅツの知識であって、ユウヅツ自身には興味がないのだ。トカクは『夕也』という前世での名前すら知らない。

 マジで冷たい人だよなと思うが、それがユウヅツには心地よかった。


 ユウヅツは、ゲームのことや前世で得た知識はともかく、自分の記憶を、あまり思い出したくない。


「…………」


 前世のことを考えていたユウヅツは、無意識に脇腹に手を置いていた。

 痛み、は、よみがえってこない。悪寒だけ感じる。突き刺してくる怖気……。自分を呼ぶ声。流れる血が床を汚す。記憶。……夕也だった時の家族……。


「どうしたユウヅツ、腹が痛いあるか?」

「! ……いえ、なんでもないんです」

「クスリあるよ。呑むあるか?」


 薬剤師達に勧められるのを断り、ユウヅツはトカクに報告しに向かった。




 トカクは自分の執務室にいた。


「殿下。リゥリゥさんが大陸に付いてきてくださるそうです」

「そうか。よくやった」

「いえ、俺が説得するまでもなく、薬学を極めたいと、自ら同行を願われました」


 ユウヅツの言葉に、しかしトカクは首を横に振った。にこっ、微笑みまで向けられる。


「謙遜しなくていい。おまえの人柄あってのことだろう? ユウヅツ、いつも助かっているよ」

「…………」


 どうした???


 常のトカクならありえないやわらかさに、ユウヅツは恐怖すら感じた。



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