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〇二〇 皇帝陛下の秘密

 


「…………、っ…………」

「ユウヅツ。あるなら言ってみろ。ないなら無理しなくていい」

「…………」


 皇帝陛下の秘密。

 ユウヅツは「恐れ多くも」と前置きしてから。


「皇帝陛下は成人の誕生日、己の婚約者である侯爵令息――現皇配陛下を皇宮に呼び寄せ、そこで顔合わせをなさいました。初対面はその時……と、いうことになっております」

「! ……ふむ」

「しかし、両陛下の本当の初対面は、おふたりの婚約が結ばれるよりも前。皇帝陛下が十二歳、皇配陛下が八歳の時にございました。皇帝陛下のお父君である先皇配殿下が将軍家へ訪問された際に、非公式に皇帝陛下も同行されています。そこで将軍が次男――現皇配陛下を紹介され、運命を感じた皇帝陛下は、婚約を強く希望されました」

「……なるぼど。しかし、それは知っておる者も少なくないし、……預言とは言い難いの」


 その程度か、というように皇帝陛下は肘置きにもたれた。

 ユウヅツは迷った。ちらと皇帝陛下、トカク、皇配陛下の顔を交互に見てから、言葉を続ける。


「皇帝陛下は四歳下の皇配陛下を非常に愛らしく感じ、けして本人の前でも口にすることはございませんでしたが、内心では特別な愛称で呼んでおり、その愛称というのが、」

「なるほどな! わかった、認めよう。貴殿には確かに尋常でない力があるようじゃ。じゃからそれ以上は言わんでよい」


 皇帝陛下がなかば強引に打ち切った。


 トカクは(八歳……?)と母親に胡散げな瞳を向けたが、まあ納得したなら藪はつつくまいと黙る。皇配陛下は「え~、どのように呼んでいたのですか?」とケタケタ笑っていた。


 が、ふっと思いついたようにユウヅツを見た。


「ユウヅツ卿。他に何か、自分の能力を証明できそうな話は無いのかい?」

「えっと、」


 ユウヅツなりに好例になりそうな『記憶』は用意してきていた。相手から水を向けられるまでは無礼、と思って自分からは話し出せなかったが。


「……皇太女殿下が春から着用なさる予定であった連盟学院の制服は、皇宮専属の仕立て屋によって作られたものと存じます。ですが、恐れながら、寸法を間違えておいでです。スカート丈は膝から三センチは下の長さ、と規定されているのですが、仕立て屋はこれを誤って三寸で作ってしまっております。仕立て屋の手落ちではなく、大陸にて本邦の親善使節団が、制服の設計図を写した際に間違えたものでございます」

「…………」

「入学した皇太女殿下が、自分だけスカートの丈が長いことで困惑する……というエピソードがございました」

「…………。なるほど。調べてもらうよ。ありがとう」


 満足した顔で皇配陛下はうなずいた。


「……このように、この者の言うことには信憑性があると思うのです。だから、ボクがウハクのふりをして学院に通おうと思います」

「だから、でそうなるのが突飛じゃ……」


 皇帝陛下はひたいを押さえ。


「……トカク。それは、まだ許可は出せない。……他に良い手がないか、わらわ達が考えるから、おまえは一旦ゆっくりと休みなさい。……他にもっとやり方があるはずじゃ」

「留学先の学院には、準生徒として歳近い側近を何人か連れていくことになっていましたから、そこにユウヅツを加えます。向こうでも、この男の知識は助けになるでしょうから。予定にはありませんでしたが、問題はないでしょう」

「…………」


 トカクの言葉に、ユウヅツはぎょっとする。


 『ゲーム』本編のユウヅツは、第一章のハッピーエンドで、ウハクの婚約者という立場を得る。だから第二章では、皇太女配候補の肩書きを持って本生徒として連盟学院に入学するのだ。


 そのことはトカクに伝えた際、「バカか?」と言わんばかりの表情で「婚約者にはできねえよ」「本生徒としての入学も無理」とバッサリ切られている。

「当然にございます、そんなつもりで申し上げたわけではございません」とユウヅツは、連盟学院に行かなくていいことに安心していたのだが。……トカクは、ユウヅツを側近の一人として連れていこうと思っていたらしい。


 そこの意思疎通がまったくできていなかったので、ユウヅツは寝耳に水だった。


 しかし、「ウハクを救う手助けをする」と言った手前、ユウヅツが留学先まで付いていくのは当然の流れに思えたし、何より皇太女殿下の側近というのはたいへんな名誉だった。もちろん大陸留学も。

 ユウヅツ自身、ゲームで見ていた帝立学園には興味がある。断る理由がないし、そもそも皇室からの下命なら断りようがない。


 ないが。


「学院に入学できる条件は、まず国家という後ろ盾がその者の身分を証明していること。そして……大陸共通語が喋れること。帝立学園を卒業している以上なんの問題も、」

「――申し訳ございません」


 ユウヅツは深々と頭を下げた。トカクは言葉を止め、「なんだ」とユウヅツに問いかける。

 ユウヅツは手のひらの脂汗を握りしめて、恥ずかしさに顔が熱くなるのを感じながら声を絞り出した。


「恐れ多くも帝立学院で二年も学ばせていただいておいて、本当に本当に情けなく、非常に申し上げにくいことなのですが、」

「…………?」


 そこまで言えば、皇帝陛下と皇配陛下は察したらしい。あっ、と表情が変わる。


 しかしトカクはまったく分かっていない顔で、首をひねってユウヅツの二の句を待っていた。ので、ユウヅツはついにそれを自分で口にするしかなかった。

 本当に情けないことを。


「俺、大陸共通語、まったく喋れません……!」



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