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一三七 無実



「卓上で何が行われたのか、ルナシーさんに聞きにいくわ」とチュリー・ヴィルガが立ち上がった。


「チェックド嬢に? てっきり殿下に事情を聞きに行かれるものかと」

「ウハクさん、本当のこと喋ってくれるかあやしいもの」


 それはそうである。


「まあルナシーさんもあやしいものだけど、だからこそ双方の話が聞きたいわ。とりあえずあの子から」


 それは、伝言を頼む程度には関わりのあった相手への心遣いかもしれなかった。お姫様なりの。


「そう遠くには行っていないでしょう」


 そう言うとチュリーは、すでに退出したルナシー・チェックドの後を追った。


「――よし」


 チュリーが決闘場を出ていくのを見送ると、トリガーもおもむろに立ち上がった。そして「俺達もルナシーんとこ行くぞ」とユウヅツを急かす。


「えっ? 俺達まで? なぜ?」

「皇太女様、しばらく動けなさそうだし。合流したって、俺達のやることないだろ、ハナ様達がついてるし。今すべきは別行動と判断した。何があったかは分からないけど、計画通りとは思えないし……ルナシーが降参した思惑は、皇太女様も知りたいはず」


 言う通り、計画通りのはずはない。トカクはそもそも負けようとしていたのに、結果は勝ちをゆずられてしまっている。


「だとして、なぜ今から? チュリー王女に付いていけばよかったのに」

「おまえ一緒に過ごした相手をすぐにツレだと思うのやめて! なんで付いていけるんだよライラヴィルゴの王女様一行に!」


 決闘場から出るも、チュリーの姿もルナシーの姿もすでにない。

 適当に廊下を歩く。


「……じゃあ今からやるべきは、チュリー王女より早くルナシー嬢に接触して、事情を聞き出すことですか?」

「いや、俺達ルナシー・チェックドと面識ないじゃん。行っても喋ってもらえるとは思えない」


 ……ユウヅツひとりなら分からないが。とトリガーは口の中でつぶやく。おそらくアレくらいなら篭絡して聞き出せる、だからこそ、一人にしてはいけないことになっているのだ。


「チュリー王女に付いていけなかった理由は、これもある。王女の後ろに俺達みたいな知らん男が立ってたら、話せるものも話せないでしょ」

「……じゃあ、何しに行くんです?」

「いい、ユウヅツくん? 俺達は今から、そこまで考慮せず無鉄砲にルナシーに話を聞きに行こうと決闘場を飛び出し、学院を捜索した結果、ちょうどチュリー王女がルナシーから話を聞き出そうとしている場面に遭遇し、たまたま彼女達の話を聞いてしまうんだからね」

「…………」


 そう遠くには行っていないでしょうというチュリーの言を担保に、ユウヅツとトリガーは近辺を歩く。


 果たして、当たらずとも遠からずの場所でユウヅツとトリガーは、ルナシーおよびチュリーを発見した。

 状況としては、『決闘場からそう遠くない場所でチュリーがルナシーに声をかけた後、合流し、そこそこ遠い場所にあるどこかへ向かおうとしている』だと、トリガーは彼女らの話や歩き方で察す。


 どうやら、ルナシーはただ敵前トカクから逃げ出したわけではなく、なんらかの目的地があって飛び出したらしい。


 チュリーとルナシーが何事かぽつぽつ喋っているが、背中越しゆえにあまり聞き取れなかった。


「やあ、困ったよユウヅツくん、せっかくルナシー嬢を見つけたものの、チュリー王女とお話中だ。仕方ない、お話が終られるのを待とう」

「トリガーさん、小芝居が好きですね」

「好きでやってるわけじゃないのよ」


 どこ行くんだろう、と思いながら物陰を転々と尾行していると、目的地についたらしく一行が停止した。


 トリガーはなんとなく、どこかの部屋に入るものと想像していたが、意外にも彼女達は廊下の真ん中で立ち止まっている。


「…………」


 トリガーは、ようやく彼女達の目的を察した。ロッカーだ。

 ルナシーは自分のロッカーに用があったらしい。ダイヤルロックを解錠して、何やら中をあらためている。


 そういえば、ユウヅツとトリガーは現場を見たわけではないが、ここはトカクが喧嘩を売られて決闘を受けて立った件の廊下ではないか。


「――それで、さっきの神経衰弱で」と、チュリーが、自分のロッカーをあさるルナシーの背中に声をかけた。


「あなたに協力したのは、どなたなの? ルナシーさん、一人でああいう仕込みができるタイプじゃないでしょう」

「……い、言えません」


 というルナシーの返事は、語るに落ちていた。いないではなく、言えない。つまり、事実誰かに協力してもらったのだ。


「でも、あなたをそそのかして、不正を実行させた人間がいるのは間違いないのね?」


 とチュリーは確認した。

 ルナシーは正しく王女様にはべる侍女のようにこうべを垂れた。しかし、質問を拒否する意思は固いようだ。


 トリガーは盗み聞きしながら納得する。


 トリガーは、ルナシー・チェックドの人となりを知らない。細やかなパーソナリティについては、何一つ。


 だから彼女が「イカサマをした」こと自体にには、特筆すべき違和感を持たなかった。そういうタイプなんだなぁと思っただけで。


 だけどチュリーは違うらしい。

 こたびの事件は。彼女を知る者なら「まさか、あのひとがイカサマを?」と思うべき不可解な事件だったようだ。


 黒幕や陰謀の存在を疑うべき事件。


 ……たしかに、こうしてあらためてチュリーの前に立つ少女を観察してみると、いかにも不正をしそうな感じ、ではなかった。

 ……より正確に言うと、不正が「できそう」な感じでない。


 たとえるなら誰かが横から励ましてやらないと、生きた魚を触れなさそうな雰囲気、というか。(もちろん、一般のご令嬢が生きた魚を触る必要がないのはそうとして)


 ……もっと言えば、チュリーにとっては、「ルナシーさんが、私に見抜けないイカサマを一人で思いついて実行できるはずがないわ」みたいな感覚もあるのだろう。

 そうやってチュリーが彼女を見下していなければ二人は友達だったのかもしれないし、だとすればチュリーをめぐった決闘なんて起こらなかったかもしれない。


 まあ、「誰が黒幕?」と聞かれて「黒幕なんていません」と答えず、「言えません」と黒幕の実在をほのめかしてしまうあたり、……察した。チュリー・ヴィルガのお眼鏡にかなわなかった理由を。

 良くも悪くも正直で、隠しごとや腹芸のできないタイプなのだろう。


「どうやって同じカードをめくっていたの? 自前の記憶力じゃないのよね」

「言えません」

「その手法を教えてもらうのに、お金を払った? だから言えないの?」

「いいえ、お金は渡していません」

「不正のやり口は、ご家族に用意された?」

「家は関係ありません。学院内のことです」


 どうも本当に嘘がつけない性格だ。情報がぽろぽろ漏れている。

 それがチュリー・ヴィルガ王女の御前であるせいも間違いなくあるだろうが、それにしても。


 ……ひょっとすると、トカクに喧嘩を売りに来た段階、つまり決闘の申し込みの時点で、すでに何者かにそそのかされていたのでは?

 トリガーはそんな想像をしてしまった。


 チュリーはしばらく「口止めされてる?」「あなたのオトモダチ?」とさらに問いかけてルナシーの裏で糸を引いていた犯人を探ろうとしていたようだが、やがて興味がなくなった感じで「まあいいわ」と切り上げた。


 よ、よくないよ。


「それで、ロッカーの中は?」

「ええと……」


 それきり、まったく話が変わってしまった。


 ルナシーがロッカーの中身をあらためていた理由を喋るのを、話半分に聞きながら、トリガーは脳内でまだ犯人探しを続けていた。

 黒幕の存在は、けっこう重要じゃないかと当たりまえに思うからだ。


 特に動機が重要だ。


 ……ルナシーの動機は、「チュリーに気に入られているポッと出の女が気に入らない」で、これはある意味平和だった。直接的につっかかってきたのも可愛げがある。


 しかし、その裏に黒幕がいるとすれば。

 そいつはどんな目的でこんなことを。


(人にイカサマさせる理由……普通に考えれば、『金になる』だけど……)


 イカサマは金になる。知識は有料だ。手法を売って金にするもいいし、実際に協力してやれば、その報酬も請求できる。


 ただし、ルナシーは「お金は渡していない」と言った。これを信じると、ちょっとおかしい。

 タダで教えたら、金にならないじゃないか。


 なら、何の目的でルナシーにイカサマさせた?という話になる。


 ……どこかで「ウハクとルナシー、どっちが勝つか」の賭け事でもひらかれていれば、イカサマを教えた張本人は、勝敗が分かり切っているのだからボロ儲け、という線もある。


 しかし、これはトリガーの勘だが、そんな賭け事をしている雰囲気はなかったのだ。


 そもそもトリガーの元に、「賭けをやるよ」みたいな情報は来なかったし。……これは、現在トカクに与しているトリガーが連絡網から外されただけの可能性もあったが。


 しかしトリガーは確信を持って、少なくとも「イカサマがあると知ったうえで賭けに参加した人間はいない」と断言できた。

 ルナシーが降参した瞬間。確実に勝てるはずの賭けに敗れた人間特有の狼狽や絶望が、どこからも聞こえなかったから。


 となると、一つの可能性が浮上する。


 黒幕の目的は、ウハク皇太女の失態だと。


 彼女を負かすとか、泣かすとか、恥をかかせるとか、邪魔すること自体が目的であると。

 そんな目的を持つ人物が、どこかに隠れていると。


「…………」


 誰だ?


 トリガーは頭を回転させる。


(皇太女殿下に恨みがあるとか……大瞬帝国に対して腹に一物あるとか……とにかく何かしらの因縁があって……)


 因縁もなく「なんかムカついてきらい」の可能性もあるのだが、それを考慮するのは無茶なので除外。

 現実は「なんとなく」が動機なことも多いのだが、それは他の可能性をつぶしてから考えることだ。


 黒幕も、まさか「思いついたイカサマを試してみたかった」だけということもないだろうし。


(動機があって、かつ、イカサマを思いつけて実行できる能力がある人間……! かなり絞られるはず)


 決闘にイカサマを持ち込むような人間とくれば「学院内」には限られているだろう。


 そのイカサマのトリックは、まだ突き止められていないのだが。後でいい。皇太女様が見抜いているに違いないし。


(容疑者を絞ってみるか)


 トリガーは頭の中で校内の勢力図を描く。


(ええと、カードゲームに慣れてて、イカサマに精通してて、皇太女様や大瞬帝国に恨みがあって、かつ、そんなことしそうなヤツ……)


 と、思考しかけたトリガーは、すぐにハッとした。水面から顔を出すように考えが浮上した。


 ――俺じゃない?


 カードゲームに慣れてて、イカサマに精通してて、皇太女様や大瞬帝国に恨みがあって、かつ、そんなことしそうなヤツ――いかにも裏切りそうなヤツ。


 ……俺じゃない?


 ひょっとして、あやしいのは俺か?

 俺が第一容疑者じゃない?


「…………」


 トリガーは、おそるおそるユウヅツの顔をうかがった。

 実はずっと疑いの目を向けられていたという被害妄想に反し、ユウヅツはロッカー前で行われるチュリーとルナシーの会話に注視していた。


 視線を戻す。なるべく自然に見えるよう。そうしてもユウヅツは見ていないのだが。


「…………」


 トリガーは若干ハラハラしてきた。


 トリガーが今こうしてユウヅツの付き人モドキをやっているのは、左遷だ。降格処分を受けている。


 トリガー自身は「やっちった~」くらいの気持ちで、いる場所が変わっただけぐらいの認識で暮らしていたが、それができない人間もいるであろうことは察する。

 どうして俺がこんな屈辱的な目に、と、反抗心を燃やしてもおかしくない立場なのだ、トリガーは。


(俺自身は、皇太女様のこと顔がよくて頭がよくて仕事もくれる最高の主人だなるべく長くここにいようと決めていたけど、それが一般的でないのも分かる。あれで年下の女の子だし)


 トリガー自身、『ウハク』が年上の男だったらもっと嬉しかった気持ちは、なくもないのだ。嬉しかったというか、やりやすかったというか。単純に、性別が同じ方が側にはいやすいし。


 しかしトリガーにとってはそれ以上に、男も女もなく、年齢もなく、王たる器のない凡人に形だけでもこうべを垂れなければいけないことの方がストレスだったが、それは万人が共通して持つ感覚ではない。


 凛々しい主人に屈服のストレス無くかしづき、きびしくも頼れる上司に甘え、裏表のない同僚とだべる気楽な生活に慣れきって、自分の状況がはたから見れば「お気の毒」であることを、トリガーは完全に忘れていた。


(俺じゃん……)


 いや、もちろんトリガーがルナシーのイカサマに協力していないことは、トリガー自身がいちばんよく分かっているのだが。それでも「俺じゃん」とトリガーは思った。


(疑われるの俺じゃん……)


 俺はそんなことしていない、のは確かだが、一番そういうことをやりそうなのがトリガー・カタプルタスだ。あの嘘つきだ。


 チュリーが犯人探しを途中でやめた理由も、こうなるとトリガーは察した。

 たぶんカタプルタスさんだろうけど、まあいいや、に違いない。そうに違いない……。


「…………」


 トリガーは目を伏せる。

 先程の観戦中、まさか自分が黒幕と疑われているとは夢にも思わず、得意分野とばかりにイカサマについて講釈を垂れた自分は大間抜けである。ユウヅツを笑えない。


(……ユウヅツくんはアホで何も考えてないけど、皇太女様は疑いを抱いているかもしれない)


 ほぼ関わりのなかったチュリーと違い、自分のはたらきを間近で見ているトカクには信じてもらえるとトリガーは信じたいが、トリガー自身が「怪しいのは俺じゃん」と思ってしまっていた。


(え~誰だよ、もお~。俺が疑われるじゃ~ん……)


 身を隠したままトリガーは天井をあおいだ。

 真犯人を見つけないと、疑われたままかも。


 迷惑だなと思った後、思い直した。

 目的はこれでは?と。


(……え、まさか、コレ? 敵の狙い……俺に恨みを持つ人間が、俺に罪を着せるためにこんなことしてる?)


 自慢にならないが、恨まれるおぼえはありすぎる。買った恨みに事欠かない男だ、自分は。


 でも、ちょっと復讐にしたって遠回りじゃない? どうせこんな手の込んだことをするなら、ついでにもっとトリガーのしわざに見えるようできたはずなのに、されていないし……。

 でも、こういう遠回りな手法こそ、なんか俺っぽいな……。


 というか狙われるのが、つまり恨まれるのが俺ひとりというのに違和感がある。トリガーは感情として思う。

 だってトカクに下る以前のトリガーは、責任を分散すべく、群れで行動してきたのだ。


 今トリガーが一人で禊みたいなことをやらされているのは、イレギュラーだ。仲間達が逃げるなか、トリガーだけ事態の収束のため動いてしまったから。


 いやでも、それでも俺が責任者ってことにはなるのかな? 俺達のなかで誰がいちばん憎いかってなると、俺になるのかな? トリガーは首をひねる。

 べつに俺が全部やってたんじゃなくて、アイツらは(というか俺達は)それぞれがそれぞれに素行の良くない連中で、たまたま俺がまとめてただけなのに。

 でも、たしかにトリガーのかつての仲間達は、周囲からカタプルタス派とか呼ばれて、まるでトリガーがリーダーだと……。


「……カタプルタス派?」


 隠れている真っ最中にも関わらず思わずと言った声を出したトリガーに、ユウヅツは反応した。


「なんですか?」

「なんでもない」


 さいわいにも、チュリー達にはこちらのことは気取られていないようだった。


「なんでもないけど、俺ちょっとお手洗いに行ってくるね。ユヅぴはここで話聞いておいて」

「え……俺をひとりにしていいんですか!?」

「さびしがり屋かい。ここで待っとけ」


 と茶化したが、言うまでもなくユウヅツを一人にするのは良くない。受けた命令の遂行責任を果たせていない。


 しかしトリガーには優先事項があった。


「別行動していいんですか」

「いい、いい、ここ人目につかないし、今のとこ誰もそこ通ってないでしょ。もし誰か来て話しかけられても仕事中って言って無視して。それでなんとかなるから」


 言いながらトリガーはユウヅツから離れた。ユウヅツは「えええ……?」とうろたえながらも追いかけては来ない。


 実際、短時間なら大丈夫だろうとトリガーは思う。物陰に隠れ、誰とも話さなければいいのだ。


「すぐ戻る。すぐ戻るから絶対に出てくるな、しゃべらずにいろ。いいね」

「……ここで盗み聞きしておけばいいんですね?」


 不審そうにしつつもユウヅツはうなずいた。




 トリガーは返事もそこそこに廊下を戻った。目的地はひとつ。『俺達がいつもいたところ』である。


 トリガーがやりそうなことを、トリガーではない人間ができる理由。


(あいつら、責任逃れのためにバラバラに逃げて、俺がこうなった後はグループをまとめるヤツもいなくて空中分解したはずじゃ……)


 そして再結成もされなかった……と、トリガーは思い込んでいた。やらかしたことのほとぼりが冷める頃になっても、誰も動かなかったから。もしトリガーが現役なら、とっくに召集をかけるタイミングになっても。


 だから、自分がいなくなったことで自然消滅したものとばかり。


 だけど、手の遅い人間なら、ちょうどこれぐらいの時期になるかもしれない。バラバラになった仲間達を集めるのが。


「くっそ〜……」


 トリガーが抜けた後のカタプルタス派が、トリガーの動きを模倣して勝手に動いているのなら、こんなにトリガーに不利益なこともない。


(まずい、まずい、まずい、俺の昔の仲間達が犯人だったとしたら、いよいよ俺が黒幕みたいだ。誰が俺の不関与を信じてくれるんだ)


 まるで皇太女様に対して不服のある俺が、かつての知り合いに、皇太女様を邪魔するよう依頼したみたいじゃん。


 なんでこんなことを。

 トリガーは憤る。


「うわ」


 果たして、つい最近までトリガーがつるんでいた男達、通称カタプルタス派は、そろって校舎裏に集っていた。

 やはりか、とトリガーは思う。やはり再結成は成っていたのだ。トリガーを抜きにして。


 ちょうどいいところに来たようで、トリガーは「あそこのお姫様めっちゃ頭いいんだな~」「いやアレはカードの柄の違いに気付いてたんじゃない?」「チェックドはあのままやってりゃ勝てたのに根性がない、イカサマの無駄づかい」という、彼らが不正を仕込んだのだろうなと分かる会話を聞いた。


 やっぱり。


「おい! 皇太女様の決闘を邪魔したろ、おまえら!」


 なんの恨みがあってこんなことを!?

 自分で言うのもなんだけど、俺は仲間内では良いヤツやってたと思うよ!?


 おかげでもともと負けようとしていた勝負だったのにゲームはめちゃくちゃになって勝ちをゆずられてしまって、てんやわんやだぞ!


 と、二の句を続けようとしたトリガーだったが。


「あ! トリガ~!」


 と、かつての仲間達から屈託のない笑顔で振り向かれて言葉を失った。


「やっぱ俺達だってわかるよな!」

「トリガーいた時ほどうまくできんかったけど、成功はしたわ~」

「あのお姫様を騙すのは失敗したろ、見抜かれて」

「つーか賭けてなくてよかった! これは正解! まあ二つのこといっしょにやるのができなかっただけだけど」


「…………」


 トリガーはなんと言おうか、とても迷ってしまった。


 どうも彼らに悪気はない。なさそう。……正確には、大瞬帝国や皇太女への悪意に満ちているけど、トリガーに対しては、ない。


 自分の状況がはたから見れば「お気の毒」であることを、トリガーは今あらためて思い出した。


 こいつらは、俺のためにやった。なら、いよいよ誰がトリガーの無実を信じてくれるだろうか。





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