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22 一方ミューズ家では①

 これはアナスタシアがオースティン家に迎えられて数日が過ぎた頃。ミューズ家で起こっていた出来事である。


 ハンス王太子と婚約を結んだことで王妃教育をすることになったフレデリカが眉間にしわを寄せながら屋敷の扉を開けて帰宅する。出迎えの使用人達が彼女の周りに集まってきた。


「ちょっと、出迎えが遅いわよっ! あたしが帰ってきた時はすぐに出迎えてって言ってるでしょ!」


 八つ当たりをするようにフレデリカは使用人達に不満をぶつける。父親であるレイヴンや母親のクルエも同様のことをよくやっているので自分もやっていいことだという認識がすっかり身に染みているのだ。


 これまではアナスタシアに対してひどい仕打ちを行っていたが、彼女がいなくなったことでその矛先は使用人達に向けられていたのだった。逆に矛先を向けられた使用人達はその対応もしなければならず仕事の量が更に増えていたのだ。


「もう……こっちはいきなり始まった王妃教育が上手くいかなくてイライラしてるっていうのに……本当にやんなっちゃうわ」


 元々、王妃教育はハンスの婚約者であったアナスタシアが長年受けてきたものだ。だが、レイヴンがミューズ家の当主となった五年前から中断されていたのだ。その理由としては自分の娘であるフレデリカを何とかハンスに気にいってもらい、将来婚約を結んでもらうためだった。


 レイヴンの狙い通り、ミューズ家の当主になりかわった際にフレデリカとハンスの顔合わせの舞台をセッティングした。あとはフレデリカの甘い言葉や仕草、色仕掛けによってハンスの気が変わるまでそんなに時間はかからなかった。


「ああ、そうよ。今度の夜会はハンス様とご一緒する約束をしていたんだったわ。それならとびきり綺麗なドレスじゃなくちゃ失礼よね! 早速お父様にお願いしに行かなくっちゃ!」


 ドレスについた土埃を綺麗にしていた使用人の一人が急に勢いよく歩き出したフレデリカに押されて倒れこむ。だが、フレデリカはそんなこと気にもしない様子だ。しかも、キッと怖い顔をして倒れ込んだ使用人に向けて大きな声をぶつける。


「痛いじゃないの! 今度同じようなことがあったらお父様に言いつけてクビにしてもらうから! 気をつけなさいよね!」


 その使用人は必死にフレデリカに許しを請う。その姿を見て、フレデリカは抱えていたストレスを発散しているようだった。


 そんなこともあり、屋敷に戻って来た時よりは溜飲も下がったのか満足げな表情を浮かべたフレデリカはレイヴン達がいる部屋の扉の前に着いた。


「ただいま、お父様お母様! ねえ、また新しいドレスが欲しく……」


 部屋の中に入る前に、喉の調子を整えいつものように甘え声を出しながらフレデリカが扉を開ける。すると中からレイヴンの怒号が聞こえてきた。


「なんだと!? 商品を乗せた商隊が全滅!? どういうことだ!!」


 冷や汗をかく執事の胸倉を掴みながらレイヴンが問いただす。彼は鬼のような表情を浮かべていた。苦しみながら執事が事の次第を説明する。


「実は領地内を移動中だった商隊が魔獣の被害にあったのです……っ」


 ミューズ家は前当主であり、アナスタシアの父親であるラスターの時代から外交官であることを上手に利用した貿易の事業を行っていた。リュミエール王国の各地の貴族などを相手に商品の輸入・販売などを手掛けていたのだ。その事業は成功し、ミューズ家の主な収入源となっていた。ラスターの死後、その事業も弟であり現当主のレイヴンに引き継がれ、彼らは豪遊の限りをつくしていたのだ。


「馬鹿を言うな! あそこの街道はこれまで何度も利用しているはずだ! 急に魔獣どもが現れるわけがないだろうが!!」


 魔獣とはこの世界に存在する害獣の総称である。魔獣には様々なタイプが存在し、国家をあげて対策に取り組んでいる。普段使う街道などは騎士団による見回りなどで、安全が保たれているのだ。


「ですが、旦那様っ。現に襲われていた商隊を助けた騎士団からの書状を届いております。じ、事実なのです」


 くそっ―そう呟きながら胸倉を掴んでいた執事の一人をレイヴンは突き飛ばす。その一部始終を見ていたフレデリカに母親であるクルエがおどおどしながら声を掛ける。


「フレデリカ、今お父様は機嫌が悪くなっているわ。お話はまた今度にしてお部屋に戻りましょうっ……」


「えっ、でも……」


 おねだりがしたかったフレデリカは納得できない表情を浮かべていたが、これ以上レイヴンの機嫌を損ねることを恐れたクルエによって強制的に部屋から連れ出された。二人が部屋からいなくなったことにも気づかない様子でレイヴンは椅子に腰を下ろす。


「くそっ……!! 邪魔なアナスタシアがいなくなってせいせいしていたというのに、こんな貧乏くじを引いてしまうとは……くそ!」


 アナスタシアのいなくなったミューズ家には少しずつ暗い影が落ち始めていた。


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