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1 はじまりは婚約破棄から

「アナスタシア、お前との婚約は破棄させてもらう。そしてオレはフレデリカを将来の妃に選んだ!」


 その日アナスタシアは従姉妹のフレデリカに力づくで夜会の場に連れていかれ、婚約者であった王太子ハンス・リュミエールから一方的な婚約破棄を宣言された。当のフレデリカはハンスの隣に立ち彼の腕を両手で抱き寄せながらアナスタシアのことを見下すように見つめていた。


 元々、二人の婚約は現王と今は亡きアナスタシアの父との間で取り決められていたものだ。

だが、アナスタシアはその王太子から夜会の場、公衆の面前で堂々と婚約を破棄されてしまったのだ。


「あの……理由をお聞きしても宜しいでしょうか」


 驚きのあまり、アナスタシアの口からはその言葉しか出なかった。そんなこともわからないのか、と言いたげな表情を浮かべながらハンスが口を開く。


「お前が従姉妹であるフレデリカを貶める噂を流していたことは調べで判明している! まさにその悪魔のような両目を持つ者の所業に間違いはないだろう」


「そんな……っ」


 かつて婚約を結んだ際にはこの世界で唯一の綺麗な瞳と言ってくれていたハンスはもうどこにもいなかった。そう、この国の外交官として王の信頼が厚かったアナスタシアの父ラスター公爵が亡くなってからは次第に彼女の持つオッドアイは羨望の目から奇異の目でみられるようになっていたのだ。


 もちろん、ハンスが口にした内容は事実ではない。恐らくはフレデリカの入れ知恵だということはわかっていたが公衆の面前で宣言されてしまった今となっては反論のしようもない。


 力なく俯くアナスタシアに周りの聴衆の声が聞こえてくる。


―王太子であるハンス様がお選びになったフレデリカ様はなんて美しいのかしらっ。

―やはり病弱でお城から離れて療養しているという第二皇子のレオ様では王は務まらないものな。


 第二皇子レオ・リュミエール。彼とは王妃教育として王城に通っているときによく話をしていた。ハンスは邪見に扱っていたが、優しく話しかけてくれていたアナスタシアには心を開いていた。だが、幼い頃から病弱だったレオはアナスタシアの両親が亡くなってすぐに遠くにある療養施設に送られたとハンスから聞かされたのだ。


 今は仲が良かったレオもいない。この婚約破棄はシリウス王も驚かれるに違いないと思ったが、これだけの貴族達の面前で宣言したのだからいくら王といえども覆すことは難しいだろうとアナスタシアは考えていた。


 それは今のシリウス王が置かれている状況が理由だった。今では隣国関係になっているシェイド王国とリュミエール王国は前王の時代まで戦争の只中にあった。それを鎮めたのがシリウス王とシェイド王国の現王であるアルク・シェイド王だった。


 しかし、未だに魔族を目の敵にする過激派の台頭でリュミエール王国の議会はひっ迫しておりシリウス王も常に矢面に立たされていたからだ。


「いつまでオレの前にその醜態をさらしているつもりだ、アナスタシア。早く、この場から去れ!」


「……わかりました」


 そう返事をしたアナスタシアはゆっくりと夜会の場を去り、屋敷へと戻るのだった。去り際、一部始終を見ていた貴族達からアナスタシアへの冷たい言葉が聞こえてきていた。


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