7日目
「あの、先生大丈夫ですか?」
午後から早見さんが訪ねてきて、打ち合わせをしていたところ、
昨日の後遺症からか、あまりにも足が辛い。
どうやら顔に出ていたのだと思う、彼女が心配そうにそう訪ねてきた。
「はい、ご心配おかけしてすみません。昨日フルマラソンに挑戦させられまして。」
「フルマラソンですか?」
彼女は、どう返していいのか困ったような顔をして聞き返してきた。
自分が建設的な意見を出せていないこともあり、昨日のあらましを彼女に説明して、一日走らされたことを説明した。
「へぇ!!素敵な方ですね、そこまで親身になってくれるなんて。」
「そう…ですかね?」
「だと思います。そんな風に気を使ってくれる方は中々いないですし、自分はとても先生と一緒に走れる気がしません。私も少し運動を始めないといけないですね。」
「あの、早見さんの仕事は僕の担当編集なので、一緒に走る必要はないです。」
「そうなんですか?でも、新作の参考とかにはならないですかね。例えば東京マラソンに出るために練習を始めたら、素敵な出会いがあったとか。」
想像が膨らんできたのか、後半から少し熱がこもったように話し出した。
「主人公は女性で、はじめはダイエットのためにランニングを始めるんです。ジムにも通い始めた女性は、そこで渋い叔父さまと出会います。二人は協力して、東京マラソンの完走を目指すんです!『僕が4時間30分を切れたら、残りの人生を君に一緒に走ってほしい』とか!!」
「早見さん、演劇とかやってた?」
「高校は演劇部でした。」
「素敵だと思うけど、もう少しロマンチックというか、偶然が重なるような出会いのほうがいいかもね。」
なんだか否定するのも申し訳なるくらいの熱弁だったけど、書けない設定でYESと言うことはできない。
「リアリティがあっていいと思ったんですが。」
いろいろと突っ込みたいセリフが飛んできたけれど、全部飲み込んで話を続ける。
「多分、リアリティのある出会いは、みんな現実で経験してると思うんです。恋に発展するかは別ですが。なので、僕は現実では出来そうにない、けれど100組のカップルがいたら1組ぐらいはこんな出会いをしてると思えるような、そんな出会いを書きたいです。」
「先生!、素敵です、私もそんな先生の小説が読みたいです。」
「待ってるだけだと多分できないので、一緒に作ってくださいね。」
申し訳なさ半分、嬉しさ半分の苦笑いで僕はそう言った。
そのあと、二人で素敵な出会いとは何か、みんなが感じるあり得なさそうで、あり得る出会いを考えた。いくつか案は出たんだけど、結局これというものはなく、次回の打ち合わせまでの宿題となった。