16日目
デートという言葉の定義は年々曖昧になっていると思う。
もともとは、恋人同士が出かけることを指す言葉だったはずだ。
でも、最近は恋人以外の男女、友人、兄妹、親子が出かける際にも、デートという言葉を使うようになっている。
そう言う意味では、今日のイベントは紛れもなくデートのはずだ。
僕は今、数年ぶりにデートをしている。
隣を見ると、早見さんは真剣な表情で、壁一杯に掛けられたイラストを凝視している。それを見終わって、満足したのか、次のブースに歩いて行こうとする。
「あ、先生もじっくり見たいものがあれば行ってくださいね。」
思い出したかのように振り返ってそう言う。その顔はとてつもなくかわいい笑顔で、思わずめをそらしてしまう。それを僕が興味を示したと思ったのか、早見さんが訪ねてくる。
「先生もこの作品みてたんですか?面白かったですよね。すごく中途半端なところで終わって、
とても残念でした。」
と、本当に悲しそうな顔でそう言った。
テンションが上がっているせいか、早見さんの感情表現がいつもよりはっきりしている。
そう、僕と早見さんは今日、デートとして東京駅からスタートして各デートスポットを回る予定だった。しかし、早見さんが駅でみかけた、某少女漫画の原画展の広告で足を止めた。どうやら昔、とても好きだったようで、よかったら行ってみますか?と僕が訪ねたところ、二つ返事で今日の予定が変更となった。
「いや、かわいい絵だなと思って見ただけです、作品は読んでなかったですね」
ごまかすようにそう言うと、早見さんが少し残念そうな顔で返してくる。
「そうですか、アニメにもなった有名な作品ですけど、男の子はあまり見ないですよね。」
「はい、妹がいるので、いくつか見覚えがるのはありますが、知らない物の方が多いですね。」
「私ばかりすみません、興味の無い方は、あまり楽しめないですよね。」
「そんなことはないですよ、僕も漫画は好きですし、そこに貼ってあるものは、そのシーンだけで読んでみたくなります。」
「へぇ、ちょっと意外です。先生って文学男子というか、
ハードカバーの文学とか読んでそうなのに」
「物語が好きなので、それが楽しめる本はなんでも読みますよ。
子供のころは漫画ばかり読んで、よく親に怒られてました。小説を読み始めてからも、
最初は感心してくれましたけど、結局本ばかりよんでいたので、よく注意されました」
唐突意見に、思わず苦笑いしながらそう答える。
「そういえば、先生はいつから創作をされてるんですか?」
「高校に入学して、文芸部に入ってからですね。師匠が顧問だったので、よく無理やり期限を決められて、短編や感想文なんかを書かされました。」
「何か想像できます、あの方、パワフルで男前ですもんね。」
『男前』という表現におもわず噴き出してしまう。確かに、あれほどその言葉が似あう女性も、なかなかいないだろう。
二人で笑いながら、順路を進んでいく。
続きます。
なるべく1日を1話で終わらせたかったのですが。
収まらなかったです。