14日目
「あの、何かお探しでしょうか」
「いえ、あの、大丈夫です。」
声をかけてくれた店員さんを遠ざけて、また品漁りを続ける。
僕は今日、電車で20分程かけてデパートの服飾コーナまできていた。この店は、妹がオススメだと言っていたブランド点だ。少し高いけど、まぁ驚くような値段ではない。
20分ほど悩んだ結果、僕は無難にマネキンに飾ってあった白い襟付きのシャツとブレザー、ベージュのズボンをそのまま購入する。
ふぅ、これならまぁ、問題ないだろう。
とりあえず今日のミッションを完了させて、昨日のことを思い出す。
「先生、ちなみに、服ってどのくらい持ってます?」
裁判が閉廷したあと、正座した僕に向かって早見さんが訪ねてくる。
「一応、こんな感じでありますよ。」
そう言うと、立ち上がって、部屋のクローゼットを開ける。それなりに自慢のコレクションだ。
「…あの先生、これは?」
「こっちはクラブチームのレプリカユニフォーム、そっちがナショナルチーム。そっちに飾ってるのはトレーニングジャージかな。」
自慢気に言って、せっかくだから幾つかお気に入りを紹介してみる。
「これなんか、カッコよくないかな、日韓ワールドカップの時のイングランドチームのジャージなんだけど」
「おまえは、それだけ持っているジャージを、いったい何時使った?」自慢気に皆に見せる僕に、師匠があきれたような顔でそう告げる。
「これから先、何度かは使いますよ。きっと。」目をそらしながらそう言っておく。こればっかりは仕方ないと思うんだけどな。カッコいいじゃん。持ってると満足するし、運動できる気になるんだよなぁ。
「あの、普段外出するような服はどこに」早見さんが不安そうに尋ねてくる。
「それは、このパーカーと、あと色違いのものが数着、洗濯機の中に。」
「………」3人が沈黙で僕を非難する。ここは敢えて空気を読まず、さも当然という顔で佇んでおく。特に問題はないはずだ。
「先生、服を買ってください。」
「え、でも、今でも十分着まわせてるよ?」
「さっきも言いましたが、私はプライベートで先生とデート…、こほん、外出します。なので、先生にも担当と作家ではなく、一人の女性として気を使っていただくことを所望します!!」横の2人が強く頷いている。どう頑張ってもこれは勝てないだろうな。
まぁ、少し高い買い物だったけど、一緒に出掛ける相手に、自分が少しでも良く見えるように服を買うというのは、それなりに楽しかった。世の中の恋人たちは、こういう気持ちで日々を過ごしているのかもしれない。